琥珀色の戯言

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【読書感想】不倫―実証分析が示す全貌 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

配偶者以外との性交渉を指す「不倫」。毎週のように有名人がスクープされる関心事である一方、客観的な情報は乏しい。経済学者と社会学者が総合調査を敢行し、海外での研究もふまえて全体像を明らかにした。何%が経験者か、どんな人が何を求めてどんな相手とするか、どの程度の期間続いてなぜ終わるか、家族にどんな影響があるか、バッシングするのはどんな人か。イメージが先行しがちなテーマに実証的に迫る。


 どこからが不倫か?というのは「人それぞれ」という面があるのですが、著者たちは、もっとも一般的なものであると考えられる「性交渉があれば不倫」を基準として、「不倫の統計学的な検討」を行なっているのです。

 「不倫は文化だ」とか「道義的な責任を具体例を挙げて問う」というものではなく、「どのくらい割合の既婚者が、いつ、どのような相手と『不倫』しているのか?学歴や収入と不倫のしやすさには因果関係があるのか?」などのデータをなるべく倫理的な善悪を排して提示しているのです。

 ワイドショーやネットニュース、あるいは匿名掲示板は「不倫ネタ」で溢れており、不倫をロマンチックなものとして描くテレビドラマもありました。
 世の中は不倫している人だらけなのではないか、芸能人の不倫を責めながら、自分も不倫をしている人も多いのではないか、とも思うのです。
 でも、僕の個人的な体験としては、「ワンナイトラブ」とか「不倫」なんて、50年生きていて、それを意識するシチュエーションになったこともないんですよね。
 ぜひともやってみたい、とは思わないし、面倒なことは避けて生きてきたから、ではあるのでしょうけど。
 とはいえ、「やっている人はやっている」し、そういう話を知り合いから聞いたこともあります。

 ある統計によれば、およそ3割程度の既婚者が不倫、つまり配偶者以外とのセックスを経験したことがあるという。
 身近にある不倫だが、私たちは不倫の何を知っているのだろうか。


(中略)


 よくいわれる俗説や噂をあげてみよう。例えば、「子はかすがい」といわれる。子どもの存在が夫婦関係を良好に保ってくれることを、木材をつなぐ釘にたとえた表現で、これが正しいとすれば子どもがいる家庭は不倫をしないということになる。こうした俗説が流布することによって、不倫をした親をもつ子どもは、自身が夫婦関係を良好に保てなかったと必要以上に責任を感じてしまうかもしれない。そもそも、子どもがいる人は子供がいない人に比べて、本当に不倫をしにくいのだろうか。
 あるいは、「結婚前に異性と派手に遊んだ人ほど結婚後は不倫に走らず、そうした経験がないと、むしろ結婚後に遊ぶようになる」という意見は聞いたことのある読者もいるだろう。この理論を信じ、結婚相手として過去に派手に遊んでいた人を選んだとして、その彼/彼女は結婚後に本当に不倫をしないのだろうか。こうした問いに対し、個人の経験だけではなかなか答えを出せない。子どもがいる友人が不倫をしていたり、自分の不倫相手には子どもがいなかったりと個人の経験は様々であり、また観測範囲も限られる。
 本書では体験ベースの知識から脱却し、学問の対象として不倫を扱うことにより、不倫という現象に対し、より体系立った検討を加えたい。本書が今までの不倫本と一線を画するのは、実際に集められたデータをもとに分析を行い、不倫の全体的な傾向を掴むことにある。データをもとに不倫の実態を明らかにすることで、不倫との向き合い方や対処法を考えるきっかけにしたい。


 この後、「本書では、2020年にインターネット調査で収集された6651人の日本人既婚者をもとに」していることが明かされています。

 僕はそれを読んで、思ったのです。
 インターネット調査で、みんな本当のことを答えているかなんてわからないよね。匿名でも、これだけ世間で不倫がバッシングされているなかで告白するのは危険だと思う人も多いのでは……面白がって、嘘の不倫経験を答える人やめんどくさがって正直に答えない人もいるだろうし、と。

 この本を読んでいて興味深かったのは、著者たちも、そういう疑問が出るのは十分承知している、ということでした。
 そして、統計学の世界では、「『不倫経験』のような、答える側に心理的な抵抗がありそうな質問に対して、回答者がちゃんと答えてくれているかどうかを判別するためのさまざまな方法」がすでにあるていど確立されている、ということを知ったのです。

 具体的にどうやっているのかは、長くもなりますし、興味を持った方はこの本、あるいは統計学の専門書を参照していただければ、と思います。
(そこまでは面倒、という人は「リスト実験」について検索してみると、その手法の一端はわかると思います(あくまでも「一端」です)。


https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjams/35/1/35_92/_pdf

 リスト実験で検証した結果、日本では37.7%の既婚者が、結婚後今まで配偶者以外とセックスをしたことがあると回答している。これは社会的望ましさを(ある程度)取り除いた値であるので、おそらく実際の値に近いだろう。もちろん本調査がウェブ調査であることは再三強調する必要があるが、今まで日本で行われてきた調査の中では最も精度が高いのではないかと思われる。

 この分析は以下のようにまとめられるだろう。まず、男性と女性とでは不倫の割合は倍近く差が開いており、リスト実験によれば男性は51.9%、女性は24.7%の人が今まで不倫をしたことがあると回答していた。これらの値は、社会的望ましさに影響を受けると予想される直接質問で聞いた場合でも、どちらでもほぼ変わらなかった。これは言い換えると、人々は不倫について質問紙で聞かれた際には、嘘をつかず、実際に不倫をしたかどうかを回答してくれるということを示唆している。


 この本によると、既婚者では男性は2人に1人、女性は4人に1人くらいが「不倫経験あり」ということになります。
 日本は他国と比較して結婚生活のどこかのタイミングでの不倫経験者の割合が多いのか?という問いに関しては、イギリスやドイツ(ともに男性20%、女性15%くらい)、フランス(男性55%、女性32%:2014年の調査結果だそうです)、中国(2000年には既婚男性の13%、既婚女性の4.7%だったのが、2015年には男性33%、女性11%に増加)などのデータが紹介されています。

 アメリカでは多くの調査が行われているが、それらを概観すると、既婚男性は20から25%、女性は10から15%ほどが結婚生活のうちどこかで不倫を経験したことがあるとまとめられる。さらに現在入手可能な最も新しい2015年の調査によれば、男性は21%、女性は19%であった。アメリカにおける近年の調査の特徴として、男女差が徐々に縮まっていることが指摘できる。後述するように、不倫割合に男女差がなくなることによって、不倫の背後にある生物学的・進化心理学的な説明を退ける議論もある。


 男女平等がより積極的に推進され、男女の経済的格差が小さくなれば、「不倫頻度の男女差」も無くなっていくのかもしれません。中国のデータをみると、「経済的に豊かになればなるほど、不倫が増えやすい」とも考えられそうです。

 数字でいえば、不倫の頻度は、どこの国もそんなに大きな差はないのだな、と僕は感じました。ちなみに、日本の不倫の数字に関しては「風俗店の利用」についても検討されており、男性では風俗店を除外すると、過去の不倫率は39%から31%に減少するそうです(女性は風俗店利用の回答はなかった、とのことです)。

 著者たちは、収入や職業の社会的な評価と「不倫率」についても検討しています。
 解析では、「(男性の場合)収入が多いほど不倫しやすいが、職業の社会的評価が高いと不倫確率が高い」ということでした。
(医者という集団をみてきた僕は、「本当に?」って思ったのですが、周りに異性が多い職場ほど不倫しやすい、というデータもありました)

 「結婚前に遊んでいたほうが、結婚後に落ち着く」という俗説に関しては、こんな結論が出ています。

 結婚前の浮気経験は、男女に共通して、不倫を促進する強い影響を持っていた。男女ともに、結婚前に浮気をした人、つまり彼氏や彼女がいるにもかかわらずほかの人とセックスをしたことがある人は、そうではない人に比べて結婚後、圧倒的に不倫をしやすい。加えて、浮気をしたときの交際相手が現在の配偶者かどうかという視点からも分析したところ、現在の配偶者と交際中に浮気をした人のほうが、結婚後、より不倫をしやすいことがわかった。


 言われてみれば、そりゃそうだ、という結果ですよね。
 結婚前に浮気をする人は、結婚後も不倫をしやすい。結婚は「浮気癖がなくなる理由」にはならないのです。

 「今まで漠然と『このくらいだろう』と思っていた数字が、ちゃんとした統計学的な手法をもとに示されている新書です。
 個人的には、「みんな、インターネット上での調査って、けっこう真面目に答えているんだな」と、けっこう感心しました。


fujipon.hatenablog.com

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