琥珀色の戯言

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【読書感想】うんちの行方 ☆☆☆☆

うんちの行方 (新潮新書)

うんちの行方 (新潮新書)


Kindle版もあります。

うんちの行方(新潮新書)

うんちの行方(新潮新書)

流した後はどこへ? どう浄化される? そのために誰が、どんな苦労を? 鉄道や船はどう処理している? もしマンション全戸で一斉に流したら? あらゆる疑問を徹底取材。
下水を嗅ぎ、汚水処理場に潜り、「5分でウンチが飲料水になる」最新技術に触れ、トイレメーカーを質問攻めに。さらに元作業員が語った貴重な証言とは――。
フタを開ければ、思わず唸る驚きと素朴な感動がてんこ盛り、奥深い世界へご案内!


 人間、生きているかぎり、「排せつ」から逃れるわけにはいかないのです。便意を感じたら、トイレに行くのがあたりまえ、だと思っていたのですが、自分の子どもの成長をみていて、「トイレに行けるようになるのも、トレーニングの成果」であることを実感しました。

 今の日本では、和式便所は敬遠されがちで、行列ができていても、和式だけ空いている、なんてこともあるんですよね。
「和式便所を使ったことがない子どもたち」もけっこういるそうです。

 僕が子どもの頃、親の実家に行くと、まだ汲み取り式の「ボットン便所」で、しかも、屋外に個室で設置されていたため、行くのがすごく怖かったのを思い出します。あの田舎の家も、さすがにもう洋式便所になっているのだろうなあ。

 小学生の頃は、学校で「大」をするのが恥ずかしくて、家までずっと我慢していたこともあったっけ。
 今の子どもたちって、けっこう平然とできるのだろうか。

 医者になってみて、「便が出ない」ことにこんなに執着する人がいるものなのか、と驚かされたのですが、自分も最近、どうしても出ないときがあって、市販の座薬を使うことになりました。出そうで出ない、というのは、こんなに苦しいものなのか、と実感することになったのです。

 こんなふうに「うんち」絡みの話って、けっこう尽きないところはありますよね。
 ネットでは「どうしても耐えられずに阻喪をしてしまった話」は、鉄板ネタだし。

 日本人一人が一日に排排泄するウンチの量はおよそ200グラムだという。日本の人口は約1億2600万人(2020年1月1日現在。総務省統計局調査)。単純計算で、毎日2万5200トンも排泄している。宅配便の2トントラック1万2600台分になる計算だ。
 その大量のウンチだが、トイレからどこへどう流れていくのかをご存じだろうか?
 隣や向かいの家のものと一緒になり、下水道へ流れていくことは想像できる。では、地下深く掘られた下水道はどこを通って、どこにつながっているのか。まさかそのまま海や川へ流しているわけではあるまい。
 どこで浄化されるのか。
 どのように浄化されるのか。
 どの程度浄化されるのか。
 そのためには、だれが、どんな苦労をしているのか。
 毎日気持ちよく排泄させてもらっているにもかかわらず、その後について、私たちはあまりにも無知だ。


 この新書では、その「うんち」がどのように運ばれ、どう処理されているのか? 今のようにインフラが整うまでの時代、どうしてきたのか?が現場での取材をもとに紹介されています。
 読んでいると「おとなの社会見学」みたいで、なんだか楽しい。

 人体における毛細血管のように日本全国の地下に張り巡らされている下水道は、トータルでいったいどのくらいの長さになるのだろうか?
 東京・霞が関にある国土交通省で聞くと、なんと約48万キロメートル(2018年度末時点)もあるのだという。
「だいたい地球12周分です」
 地球12周! 思わず叫んだ。
 教えてくれたのは国土交通省の斎野秀幸さん。下水道部下水道企画課の企画専門官で、まじめそうな男性だ。
 今こうしているときも、日本列島に張り巡らされた48万キロの下水道の中をウンチが流れていることを想像すると壮観だ。
「48万キロの下水道のうち、標準的な耐久年数とされる50年を経過した下水管は約1.9万キロメートル。全体の約4%です。ただし、2030年には約6.9万キロメートル(約14%)、2040年には約16万キロメートル(約33%)に増える見込みです。その後は人口の減少とともに減っていくかもしれませんが、それでもこの国が滅びない限り40万キロくらいは稼働し続けるのではないでしょうか」
 ところで、48万キロの下水道はどのように保全されているのだろうか。日本は地震が多い国。地盤が沈下したり、土壌にずれが生じたりが頻繁に起きている。継ぎ目がはずれたり、途中でつまったりしないのだろうか。
「48万キロもあるので、すべての下水管を点検するのは不可能です。このため、下水管が腐食しやすいところを重点的にチェックします。たとえば下水管に下水が満杯になり下水が空気(酸素)に触れなくなるところです。そういうポイントは硫化水素が発生しやすい。そのような下水管だけでも全国で約4300キロメートルもあります。このような箇所では、有毒な物質も発生するので、それはもう大変な作業です。もちろん危険も伴います。私たちの家から流れたものの後始末をしている人たちがいることは知っておいていただきたい。仕事ではありますが、彼らは汚れた水が流れる管に入っています。ふつうに生活していると地下にある下水道は見えません。皆さん、忙しくしていらっしゃるから、なかなか意識してもらえないかもしれませんが、下水道について、もっと多くの人に関心を持っていただきたいですね」


 水洗トイレが使えて、大便が流れていくのがあたりまえになったのは、先人がこんな膨大な下水管をつくってくれたおかげなのです。
 下水道のことを意識せずに生活できるのは、日々メンテナンスをしている人たちがいるから、でもあるんですよね。
 

fujipon.hatenadiary.com


 インドでは、経済成長によって携帯電話の契約件数が11億件を超えながらも、5億人がトイレのない生活を送っているのです。
 2020年の日本で生活している僕の感覚では、「携帯電話よりも、トイレのほうが先だろう」なのです。
 でも、それは日本での普及の歴史が、トイレが先で、携帯電話が登場したのがずっと後だったからで、両方ともない状態で、「どちらを優先しますか?」と問われたら、「携帯電話!」と答える人は、けっこう多いのかもしれません。都会の真ん中でトイレ無し生活は難しいとしても、田舎で、みんなが外で適当に排せつするのが当たり前の世界で育ってきていればなおさらでしょう。

 しかしながら、インドの女性たちは、外で排せつするところを他人に見せないように日中はずっと我慢していたり、外に出たときを狙われてレイプされたり、というような状況でずっと生活しているのです。

 下水管の耐用年数を考えると、これから人口減が続いていく日本で、きれいなトイレを維持していくというのは、けっこう大変なことなのかもしれません。人が住む地域を限定して、インフラやメンテナンスを重点的に行っていくようにしていかざるをえなくなりそうです。

 2020年の長い梅雨が続いていた7月、神奈川県へ向かった。井上さんに紹介された保線ひと筋40年の旧国鉄職員、Iさんに当時の話を聞くためだ。
 1960年代に国鉄に就職したIさんは保線の現場で働き、民営化でJR東日本になって以降は、グループ会社の役員を歴任している。
国鉄・JRの開放トイレで一番大変だったのは寝台特急ブルートレインです。東京から九州各県まで走っていましたでしょう。距離も時間も長いから、ほとんどの乗客がトイレを使います。日本中に撒き散らしていました」
 寝台特急のトイレ事情がもっとも深刻だったというのは、井上さんもIさんも同意見だ。そして、Iさん自身のもっともつらい経験は、神奈川県全域に加え東京や静岡の保線区域で働いていた時期だという。
「保線の作業をしていると、列車がビューッと通り過ぎて、し尿を飛ばしていきます。とくに厳しいのが、東京と三浦半島とを結ぶ横須賀線のトンネルでした。横須賀線が湘南地区に入ると、北鎌倉から衣笠の間に9つもトンネルがあります。そのなかでも、横須賀駅衣笠駅の間の横須賀トンネルは2キロ以上、長時間の作業になります。その間に、次々と列車が通過していくわけです」
 トンネル内は列車と壁との距離が近く、逃げ場がない。顔の高さをめがけて、し尿が飛んでくる。直撃することも少なくない。
「今のはきれいな女性だったぞ!」
 先輩が叫ぶ。
「そんなの、慰めにもなりませんよ。一日の作業が終わると、事務所の風呂に入って、服を全部着替えて帰宅しました」


 現代でも、どこかで、誰かが片付けてくれているから、衛生的な生活が送れているのです。
 それは、忘れないようにしないと、言いつつ、バキュームカーの横を鼻をつまんで走り抜けていった子どもの頃の自分を思い出してしまいました。
 あれは申し訳なかったなあ、いま考えると。


みんなうんち (かがくのとも絵本)

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