琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】なんで家族を続けるの? ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

週刊文春WOMAN』大反響連載がついに一冊に!
私たちは“普通じゃない家族”の子だった―

樹木希林内田裕也の娘として生まれ、家族団欒を知らずに育った内田也哉子。自身は19歳で結婚、三児の母として家族を最優先に生きてきた。一方、中野信子は巨大なブラックホールを抱えてきた。その原点は両親の不和の記憶だった。

樹木希林の結婚生活は生物学的にはノーマル?」
「血のつながりは大事なのか」
貞操観念はたかが150年の倫理観」
「知性は母から、情動は父から受け継ぐ」
「幸せすぎて離婚した希林がカオスな裕也にこだわった理由」
「幼くして家庭の外に飛ばされた私たちは」
「脳が子育てに適した状態になるのは40代」
「私は「おじさん」になりたかった」
「惰性で夫婦でいるのがしっくりくる」ほか

幼い頃から家族に苦しんだ二人は、なぜ、それでも家庭を築いたのか?
家族に苦しむすべての人に贈る、経験的家族論!


 最近の本やネットなどで語られる、さまざまな家族をみていると、世の中には「インスタ映え」するような「理想の家族」か、「毒親」に支配されて傷つき、家族というものに絶望している人の両極端しかいないのだろうか、なんて気がしてくるのです。
 福原愛さんのスキャンダルなどをみていると、「まあ、『理想の家族』なんて、一皮むけばこんなものだよな」と僕は思いましたし、ああいうのをみて、ちょっと安心してしまうところもあるんですよね。
 「仕事より家族が大事」なんて価値観が世の中で語られることが多くなった一方で、より重視されているはずの家族の関係は、どんどん難しくなってきているようにも感じます。


fujipon.hatenablog.com

 そもそも、個人が「自分の幸せ」を追い求めれば、それが「家族の他のメンバーにとっての幸せ」と相反することは珍しくないのです。


 この本、内田也哉子さんと中野信子さんの対談なのですが、内田也哉子さんは、内田裕也さんと樹木希林さんの娘であり、ある意味、「日本有数の複雑な家庭環境で育った人」ですよね。樹木希林さんは、内田裕也さんと電撃的に結婚して、その数カ月後には別居。その後も生涯別居婚を続けました。内田裕也さんから離婚調停も起こされましたが、希林さんは拒否したのです。
 まさに「なんで家族を続けたの?」です……それでもつながりを断ち切りたくなかったのか、何かの復讐だったのか……

 とはいえ、樹木希林さん、内田裕也さんが亡くなってみると、なんだかこれはこれで「夫婦」であり、内田也哉子さんも含めて「家族」だったんだなあ、という気もしてくるのです。

内田也哉子今日は「家族」がテーマなんですけど、家族の始まりというのは、一応子どもをつくるという意味では男と女。それが夫婦となって、夫と妻。そして子どもができたらお父さん、お母さん。まず中野さんにお聞きしたかったのは、家族における父親と母オタの、脳科学的な本来の役割というのはあるんですか?


中野信子ないでしょうね。


内田:あっさり!(笑) じゃあ、どんなカタチの父親、母親であっても間違いではないというか。


中野:そうなんです。社会が大きく変わっても柔軟に適応して、どんな環境になっても子は育つようです。ただ、私たちは社会通念というものをそれなりの年月をかけて学んできてしまうので、マジョリティとされている考え方を「これが正しいんじゃないかな」と蓋然性を持って学習してしまうと、それに照らし合わせて、どれだけ外れているか・外れていないかで、「自分は間違っている気がする」という感覚を持ってしまうことはあるんです。でも、どんなカタチの父親、母親であっても、特に生物学的に誤りということはないんです。


 僕は正直、中野信子さんがあまりに多くの本を出し、メディアに露出しておられるのをみて、「この人は本当に脳科学者なのだろうか?」あるいは、「バラエティ番組で都合のいいように使われている『疑似脳科学』みたいなものをばらまいているだけではないのか?」とも感じています。「どんなカタチの父親、母親であっても、特に生物学的に誤りではない」というのは、あんまり脳科学は関係ない気がしますし。
 ただ、この本に関しては、内田也哉子さんと中野信子さんという1970年代半ば生まれの二人の「家族へのトラウマ」を抱えた人間が、自分の経験や心境、現在のパートナーについて忌憚なく語っているのを興味深く読みました。

──最後に、本日の参加者の方々から事前に募集したお二人への質問に、お答えいただきます。まず、ペンネーム「みそきち」さんからです。
「家族にとっての愛人、不倫ってどんなものでしょう。内田さんに質問。愛人、不倫に親和的な裕也さんと、それとは遠そうな本木さんの間の差異は何ですか? 中野先生に質問。「愛人にしかなれない人と妻や母(夫や父)にもなれる人の境界って何ですか?」


内田:「父親が不倫や愛人に親和的」っていうフレーズは初めて聞いたんですけど、ものは言いようですね(笑)。でも私もちょっとそれを考えたことがあって、ダンナさん(本木雅弘さん)に「男性として、人としても、あなたと裕也はどう違うと思うか」って聞いてみたんです。
 本木曰く、たとえてみると、自分は戦車をひとりで操縦して、その鉄の塊に守られた中から「どうぞ私には構わないでください。すいませーん、そこ通りまーす」と、控えめのようでいて、実はグシャグシャに辺りのものを踏んづけていく人間なんだそうです。私生活では特に人とコミュニケーションを取るのが苦手で、友だちも少ないですし、仕事を終えたらすぐ家に帰ってきてしまう。時間があればロンドンに行ってしまうし。


中野:戦場を想定されているんだ。


内田:人生を戦場にたとえているんですね。で、裕也の場合は、何の武装もなく、拡声器だけ持って「おーい、俺の話を聞いてくれ。俺の話は間違っていますか?」と叫ぶ。そうして人と取っ組み合いのケンカにもなるし、痛い思いもするんだけれども、相手の意見も「おもしれえな」と聞く。その結果、多くの人とシンパシーを共有する。そういう違いがあって、それは男女の関係にも通じているんじゃないかと言っておりましたが、どうでしょうか。


 ああ、僕は本木さんタイプだな、と思いながら読みました。もちろん、あんなに格好良くはありませんが。
 
 この後、中野さんは、「AVPRというホルモンの受容体に、俗に『不倫遺伝子』といわれるものがある」という話をされています。

中野:不倫に関しては、それがおそらく”違い”だと思います。ほんの一文字違うだけなんですけれども、何が変わってくるかというと、たったひとりの人を大事にするか、みんなを浅く広く大事にするかという違いです。


 まあ、こういう中野さんの「わかりやすさ」に対して、僕は「ちょっと胡散臭いな」と思わずにはいられないのですけど。
 ちなみに、中野さんによると、「貞淑型」と「不倫型」の割合はおおむね5対5だそうです。
 わかるような気もするし、「遺伝子だから、しょうがない」というのは、不倫をしてしまう側にとって、あまりにも都合が良すぎるのではないか、とも感じます。

中野:性行動はいろんなパターンがあるから、一律に制度にはめるには無理があると思う。一夫一婦制にはまる人は楽だけど、はまらない人は大変よね。


内田:たとえば、哀しいかな、俳優の東出昌大さんは悪の枢軸みたいに言われちゃって、私は以前から東出さんの雰囲気が素敵だなって思っていたのだけれど、それを言うと女友だちから総スカンを食う。


中野:私は、文春の不倫報道が出てからのほうがむしろ色気が出てきたな、俳優としてはこの方が人を惹き付けるじゃん、って思ったな。


内田:なぜ不倫しても許される人と許されない人がいるのかしら?


中野:その人のイメージのギャップ次第だと思う。


内田:そうね。みんな誠実な人だと期待していたのに実は違ったという場合は、裏切り行為として許せないのね。まぁ、こちら側の勝手な思い込みだけどね。


中野:梅沢富美男さんが「浮気してました」って言ったところで、まあ平常運転じゃないのとしか思われないでしょう。


内田:梅沢さんが毎日まっすぐ家に帰ってましたというほうが確かに違和感(笑)。


 以前、『情熱大陸』で、昔からの仲間を大事にし、みんなから慕われている東出昌大さんを観たことがあるのです。
 もちろん、ああいう番組には演出的な要素もあるのでしょうけど、「みんなを愛する、みんなに愛される」というのは、「貞淑性」みたいなものとは対極にあるのかもしれません。「みんなを、友だちを大事にするあなたが魅力的」でも、結婚してみたら、「わたしやわたしたちだけを大切にしてくれるわけではない」ことが許せなくなる。
 個人的には、国民的女優の夫にあんなリスクの高い行為をさせることになった唐田えりかさんという人は「俳優」としては、ものすごく観てみたいんですけどね。
 実際、どの世界にも、「愛が有り余っていて、ひとりの相手ではおさまらない人」っているのです。僕は、そういう人が羨ましいな、とも思うんですよ。当事者は、それはそれで大変なんだろうけど。

内田:母は二回結婚していて、最初の結婚は、その幸せがあまりに息苦しくて離婚したのね。その後、生きている意味もわからない。息をするのも苦しいブラックホールに陥ってしまった。そんなときに内田裕也というカオスと出会い、母はこの人に振り回されることでブラックホールを紛らわすことができると考えた。

 こういう話を読むと、人間にとって、家族というもの、幸せというものは、いったい何なのだろう?
 そんなことを考えずにはいられなくなるのです。

「人それぞれ」なのはわかるような気がするけれど、「家族の形って、いろいろあって良いんだよ」とこれを読んで思ったのと同じ人が、ヤフーニュースで有名人の不倫をみつけて「子供たちがかわいそう!それでも親か!」「もう別れてしまえ」と憤る。

 他人事のように書いたけれど、僕だってそういう人間なんだよなあ。



本日、4月14日は『2021年本屋大賞』の発表日なので、極私的ランキング『2021年ひとり本屋大賞』を公開しています。
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