琥珀色の戯言

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【読書感想】ひとりをたのしむ 大人の流儀10 ☆☆☆☆

ひとりをたのしむ 大人の流儀10

ひとりをたのしむ 大人の流儀10


Kindle版もあります。

ひとりをたのしむ 大人の流儀10

ひとりをたのしむ 大人の流儀10

人は誰でも別れ、離れ、ひとりになる。そして誰にも静かな時間がやってくる。喧騒が消え、孤独が友となる。ひとりのときをじっと味わう。人生、こんなたのしみもあったのだと、気づく。ーー伊集院静 シリーズ累計206万部突破の大ベストセラー第10弾。


 伊集院静さんの『大人の流儀』シリーズ、書店で新刊をみかけると買って読んでいます。
 頑固で自分にも他人にも妥協しないけれど、「男が惚れる」ような佇まいを持っている人なんですよね。
 「無理しなくていいよ」「そんなに頑張らないでも大丈夫」と言うことが処世術でもある世の中で、「筋を通して、やるべきことをやる」という伊集院さん。エッセイを読んでいると、自分も「大人の男」になったような気分に短い間ですが、浸ることができるのです。
 『美味しんぼ』の海原雄山みたいなもので、長年の実績の積み重ねがあるからこそ、この姿勢が認められているのだよなあ。
 僕が同じことを言ったら、「パワハラ野郎」でしかない。
 やっぱり、「何を言うかよりも、誰が言うか」って大事ですよね。インターネット時代は、発言者の属性よりも内容の正しさが重視されるようになる、と思っていたけれど、実際は「発言者の属性」に頼らないと、何が正しいのか、以前よりもさらに、よくわからなくなってしまったのです。まあ、「肩書きは立派なんだけど……」という人も少なからずいるんですけどね。

 この『大人の流儀10』では、新型コロナのなかで書かれたエッセイが多いのです。
 伊集院さん自身も、2000年のはじめに、くも膜下出血を発症して、生死の境をさまよったそうです(10日間くらい意識がなかったのだとか)。
 奇跡的に大きな後遺症もなく快復され、こうしてコロナ禍での伊集院さんのエッセイを読むことができて、本当によかった。

 私のさして長くもないこれまでの人生で、”二度寝”をしたことはほとんど記憶にない。
 それが大病して、昼間ベッドの中でうとうとしていた。
「もう少し休まれてはいかがですか」
 看護師が言う。
「締め切りはないのですから、休んでください」
 家人は言う。
「伊集院さん、これまでにないくらいゆっくり休んでください。タケシ」
 これは北野武監督からのメールの一行である。タケシさんはやはり生死の手術の先輩であるから、言葉に実があった。有難いことである。


 ああ、伊集院さんには、北野武監督からメールが来るんだなあ、と、長年の交友関係を考えれば当然のことなのかもしれないけれど、ちょっと感動していました。たけしさんも多忙な人なのに、こういうときにはきちんと相手の状況に合ったメールを送る人なのです。
 もちろん、病気になんかならないに越したことはないのだけれど、僕が急病で入院したら、心配してくれる人って、何人いるだろうか……なんてことも、ちょっと考えてしまうのです。

 女子プロゴルフの渋野日向子が強い。スポーツにおいて”思いっきりの良さ”が大切なのを、この娘さんからあらためて教わった。三十数年前、田舎の高校生に野球のコーチをした時、そのことをきちんと教えられなかったのを、今にして後悔する。
 スポーツ音痴という人がいる。またスポーツにまったく興味のない人がいる。少年時代にそういう友達がいた。初めてキャッチボールをした時、私が投げたボールをグラブで捕らずに顔で捕球した。鼻血が出て大変だった。
「君が最後までボールを見てたら大丈夫って言ったから……」
 彼は今、立派な研究者になり、アメリカの大学でも教鞭をとっている。昨年、教え子の一人が来日し、逢う機会があった。
「教授に出逢わなければ今の私はありません」
 スポーツなんて、たいしたもんじゃないって。日本のプロスポーツのスター選手に逢って少し話をすれば、そのことがよくわかる。


 実際に、たくさんのプロスポーツ選手に慕われている伊集院さんの言葉だからこそ、この人と同じくらいの「スポーツ音痴」である僕もなんだか心強くなりました。僕の場合、観戦者としては興味があるし、この教授ほどの頭脳もない、という、それはそれで中途半端な人生を送ってきたわけですが。

 このシリーズをずっと読んできた人にはお馴染みの「東北一のバカ犬」こと「ノボ」との別れについても書かれていて、感情が溢れてしまわないように抑えた筆致にもかかわらず、悲しみが伝わってきて、読んでいる僕も目頭が熱くなってしまいました。
 

fujipon.hatenadiary.com

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