琥珀色の戯言

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【読書感想】自転しながら公転する ☆☆☆☆

自転しながら公転する

自転しながら公転する


Kindle版もあります。

自転しながら公転する

自転しながら公転する

結婚、仕事、親の介護、全部やらなきゃダメですか
共感と絶賛の声続々! あたたかなエールが届く共感度100%小説!

東京で働いていた32歳の都は実家に戻り、地元のモールで店員として働き始めるが…。
恋愛、家族の世話、そのうえ仕事もがんばるなんて、そんなの無理!
答えのない問いを生きる私たちをやさしく包む物語。
7年ぶり、待望の長篇小説


 「2021年ひとり本屋大賞」10冊目(ラスト1冊!)
 今年もなんとか発表に間に合った、という感じです。
 けっこう厚めの本だったのですが、思ったよりもスムースに読めました。
 僕は基本的に「恋愛小説」というやつが大の苦手で、他人の恋愛話とか、お金を払って時間をかけて読んでも無意味、とか考えてしまう人間なのです。
 恋愛というもの自体に、コンプレックスがあるのだよなあ。モテない人生だったから。

 でも、この『自転しながら公転する』という作品には、なんというか、人間というものの「どうしようもなさ」というか、「どうしようもないところを描いているんだけれど、その登場人物を嫌いになれない」魅力があるんですよね。

 いやしかし、こんなのうまくいくわけがないだろう、お互いの「求めるもの」が違いすぎる、という関係でも、人はそれなりにうまくやっていけることはあるし、傍からみたら「理想的な関係」であっても、「自分を成長させてくれる関係」なんていうのは、うまくいっているときは良くても、「成長性」がなくなれば、株みたいに売り飛ばされてしまう。
 僕自身、医療の世界で、「お互いにひとりで十分生活できる収入と能力と自我があるがゆえに、うまくいかなくなってしまった家族」をいくつか見てきました。
 お金とか向上心って、なさすぎれば結婚生活を維持していくことは難しい。
 でも、ありすぎると、人は「個」として生きることを選びがちになるような気がします。
 「われなべにとじぶた」という言葉があるのだけれど、そういう関係が、いちばんうまくいきやすいのかもしれません。
 「デキる人どうし」が競争的になるよりも、お互いのできないところをサポートしあうような。

 仕事に恋愛に介護に……という、いまの結婚適齢期とされる世代の人たちが抱えているプレッシャーやめんどくささも、この小説を読んでいると感じずにはいられないのです。
 すべてうまくやらないと「幸せ」だとみなされない。
 でも、そんな、超高レベルの『テトリス』を延々とプレイし続けるような緊張感あふれる人生が、本当に「幸せ」なのだろうか。

 ……とか、本を読むと思うんですけどね。
「いまの日本人には、下り坂を生きる覚悟が必要だ」なんて言われても、その場では納得しても、「なんでお前らのときだけ上り坂で、俺たちはこんな時代なんだよ、そんなの不公平だろ!」と思い出し怒りをしてしまう。

 若い頃は、人間の価値は学歴や収入や職業じゃない、と親に反発していた人たちが、自分が親になると、子どもに同じことを言う。
 しずかちゃんのお父さんは、本当にすごい人だよね。

のび太くんは、人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことのできる人だ 」

 ヤフーニュースのコメント欄をみていると、そして僕自身がいままで他者に言及してきたコメントを思い出すと、こういう生き方って、なかなかできない。

 「いま、『婚活』とかをやっている、こちら側からみれば『打算的』にさえみえる「アラサー」くらいの女性って、こんなことを考えながら生きているのか……」というのを覗き見ることができたような気がしました。

 作者の山本文緒さんは1962年生まれなので、本当にいま30歳くらいの人からすれば「ちょっと古い」のかもしれませんが。
 そして、主人公側からは、「介護される側」「年を取ってしまって、子どもに頼る側」にみえている親世代、ちょうど還暦くらいの世代も、当たり前のことなのですが、「自転」しながら、自分たちなりの「これからの人生」と「子供の将来」を考えている、ということもきちんと書かれているのが印象的でした。こういう作品が書けるのであれば、年を重ねるというのも悪いものじゃないな、と。
 そういう重層的な視点があるからこそ、この作品はバランスがとれていて、「主人公の被害者意識が正当化されていくだけの『本屋大賞』が好きそうな小説」とは一線を画しているのです。

 個人的には、「プロローグ」と「エピローグ」が書き下ろしだというのをみて、はたしてこれは必要だったのだろうか?なんだか「意識高い系小説」に堕してしまっただけなのではないか、と思ったのですが、まあ、ちょっとした「仕掛け」にはなっていますよね。

 これもまた人生、みたいな滋味あふれる作品でした。


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