- 作者: 中島大輔
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2019/08/08
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Kindle版もあります。
- 作者: 中島大輔
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2019/08/23
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内容紹介
いま、全国で急速に「野球少年」が消えている。理由は少子化だけではない。プロとアマがいがみ合い、統一した意思の存在しない野球界の「構造問題」が、もはや無視できないほど大きくなってしまったからだ。このままいけば、30年後にはプロ野球興行の存続すら危ぶまれるのだ。プロ野球から学童野球まで、ひたすら現場を歩き続けるノンフィクション作家が描いた日本野球界の「不都合な真実」。
ふだんの「遊び」として野球をやる子どもが減っている、というのは、半世紀近く生きてきた僕も実感しています。
いま10歳の僕の長男は、たぶん、9人対9人でやる「野球の試合」をやったことはないはずです。というか、9人いなくても、ある程度の人数が集まったら公園で野球をやる、という選択肢が、いまの子どもには存在していないのではないかと思われます。
この本でも触れられているのですが、野球というのは「遊びでもチームをつくって試合をするには他のスポーツよりも多くの人と、ボール、バット、グローブなどの用具が必要であり、球技禁止の公園も多いことから、いまの日本でやるには、かなりハードルが高い」スポーツなんですよね。
子どもを地元のチームに入れると親の負担も大きくなるということで、敬遠されがちでもある。
その一方で、将来のプロ野球選手を目指す子どもたちは名門チームで厳しい指導を受ける、という二極化が進んでいるのです。
2018年シーズン、プロ野球の観客動員数は史上最多の2555万719人を記録した。球界再編騒動の翌年、実数発表を始めた2005年が1992万4613人だったことを考えると、近年の野球人気がよくわかる。
だが、それはあくまでプロ野球の観客動員にまつわる数字だ。野球界の裾野に目を向けると、まったく異なる現象が起こっている。小・中学校の野球人口は2007年から2016年にかけて26.2%も減少しているのだ。
少子化の影響もあるとはいえ、それ以上に「自分で野球をする子ども」は減っているのです。
プロ野球の観客動員数は右肩上がりであるのに比べて。
各球団は、一度球場に来てくれた人にリピーターになってもらうことに注力しているのですが、プロとアマの壁もいまだあって、「野球のプレイヤー人口」は減る一方になっています。
著者は、それに対して、プレイヤー人口が減ると全体のレベルが低下し、試合がつまらなくなる、という説と、「プロを目指すようなレベルの高い人たちに資源が集中するようになるので、プロのレベルは変わらないのではないか」という説を並記しています。
いち観客としては、高校野球の選手のレベルはどんどん上がってきているようにみえるので、お金になるところでは、そんなにレベルが落ちることはないのでは、と思うのですが。
1990年代から社会が激変し続けるなか、当たり前のように、人々(特に子ども)と野球の関わり方も大きく変わった。
40年前の少年は誰もが気軽に野球遊びを行っていた一方、高校まで続ける割合は5%に満たなかった。それでも野球のルールや楽しみ方を知っており、テレビで「見る」スポーツとして熱中した。そうして巨人戦のテレビ視聴率は1970年代後半から平均20%を記録し、多少の増減はあれども2000年まで同等の数字を維持している。
しかし、イチローがMLBに移籍した2001年に年間平均15.1%を記録すると、徐々に下落していく。遂には地上波から姿を消し、同時に「見る」スポーツとしての野球は日本で存在感を薄めている(視聴率はビジオリサーチ調べ、関東)。
そうした環境で生まれ、野球少年は減り続ける一方、子どもの頃に野球を選択した少年の1割が高校生になっても野球を続けている。「する」スポーツとしての野球は、いまだ一定の支持者がいると言える。
では、残り9割の高校生はどうだろうか。子どもの頃に触れなかった野球を大人になり、「見る」ようになる割合が高まるとはなかなか考えにくい。彼らが就職した後、可処分所得を有料放送中継を含めたプロ野球観戦に使う割合は減っていくはずだ。そうしてプロ野球は収入を減らすと、現在のような規模を維持するのは難しくなる。
さらに、懸念されるのは負のスパイラルだ。
野球に興味のない少年・少女が大人になって結婚・出産したとき、その子どもが野球をする確率も下がるはずだ。子どもが習い事を始めるきっかけは、友人や兄弟の誘いに加え、親(特に母親)の影響が大きい。周りの友人がサッカーやバスケットボールを楽しみ、親も野球に馴染みが薄いとすれば、子どもが野球を始めるのはよほど突発的な理由しかないだろう。
「カープ女子」が話題になっていても、プロ野球ファンは徐々に高齢化しているし、「野球に全く興味がない人」は増えているのです。
僕の個人的な意見としては、プロ野球が衰退していくのは寂しいというのと、読売が長年支配してきた日本のプロ野球なんて、徹底的にぶっ壊されてしまっても構わない、というのが入り混じっているのですけど。
この本を読んでいると、日本人の野球に対するスタンスが「二極化」している、というのを強く感じるのです。
「大好きで、自分でプレーしたり、スタンドに足を運び、グッズを買い、有料放送で試合を観戦する人」と「野球のルールすら知らないし、全く興味が無い」という人に。
野球への関わり方も、「見るのは好きだけど、自分ではプレーしない」という人たちと、「職業としてのプロ野球選手を目指す」という二極化がすすんでいることを著者は指摘しています。
高校の野球部も、多くの部員をかかえる強豪校と、公式戦に出るための9人の部員すらいない高校に「二極化」し、その中間層の割合がどんどん減ってきています。
こうして書いていると、今の日本は、なんでもかんでも「二極化」だな……と考え込まずにはいられません。
野球を始めた少年の9割にとって、野球人生のゴールは高校野球だ。自分が18歳を迎えるまで、野球とどのように関わっていきたいのか。甲子園を目指して懸命に努力を重ねる球児がいれば、野球を楽しむことを第一に取り組む者や、受験との両立を掲げる学生がいてもいい。チームの目的次第で、週の活動日数や練習時間も変わってくる。
一方で高校野球の先に大学やプロを見据える1割の場合、「甲子園を目指して徹底的に追い込み、その先に上の世界がある」という考え方もあれば、「高校野球で酷使されて壊されたくない。甲子園も目指したいが、それよりプロに行ける可能性を重視したい」という進学先の選び方もあるだろう。ただし気をつけてほしいのは、メディアの前では綺麗事を言う一方、クローズドの練習場では異なる振る舞いをする監督もいるので、保護者や子どもは指導者やチームの本質をしっかり見極めることが必要だ。
高校野球を運営する日本高野連に対しては、現状のトーナメントよりリーグ戦の導入を求めたい。一発勝負のトーナメントでは弱肉強食の世界となりやすく、強い者ばかりが多くの肉を得て、弱い者との機会の均等性が保てなくなるからだ。子どもの野球離れが進むなかで「200年構想」を目指すには、強い者だけではなく、多様な者が幸福に生きていけるような全体設計が大切になる。
著者は、日本の少年野球、高校野球での「勝利至上主義に伴うケガの多さ」を指摘しています。
アメリカではケガをさせた指導者は訴えられることがあり、ドミニカでは中学生は「プログラム」というカテゴリーのチームに所属して大切に育てられ、16歳以上でメジャーリーグの球団と契約した場合、その契約金の10~30%が指導者に渡るシステムになっているそうです。
日本の甲子園のような注目される大会がないため、指導者は長期的な視点で選手を育成していくのです。
それが、指導者自身のためにもなる。
著者は、日本で野球をやっている子どもたちが、それぞれ異なる目的を持っていることが問題を難しくしている、と述べています。
今年の夏の甲子園大会で、大船渡高校の佐々木朗希投手が甲子園出場をかけた岩手大会決勝に登板しなかったことに、さまざまな意見が出ました。
「この試合で佐々木投手を起用するのは、ケガのリスクが高いと判断したので、出場させなかった」
この判断は、正しかったのかどうか。
実際は、公にできない身体のトラブルがあった可能性もありますが。
佐々木投手本人にしてみれば、もちろん甲子園に出たかったとは思いますが、これからの人生で数十億円稼げるかもしれない自分の身体のことを考えて、無理をせずにはいられない試合を回避するのは妥当な選択ではあります。
しかしながら、ほとんどのチームメイトにとっては、甲子園に出ることは、彼らの野球人生にとって最大の目標だったはず。彼らはそれなりの犠牲を払っても、あの試合に勝ちたかったはずです。もちろん、佐々木投手を生贄にしたい、とは思っていないだろうけど、ここまで来たのだから、多少は無理しても……と僕だったら考えたでしょう。
それは、もちろん彼らにとっては「正しい」のです。
目指すものが違う選手たちが、同じチームでプレーしているのが高校野球である、というのが最大の問題点なのだけれど、どんなにすごい選手でも、ひとりで野球はできない。
観客は「悲運のエース」も「強打者の全打席敬遠」も「熱中症になりかけてフラフラ」も、「物語」にしてしまう。
「正解」がないからこそのドラマ、という面もあるのです。
なんのかんの言っても、僕もやっぱり「野球」が好きなんですよ。観るほうばかりですけど。
でも、「1日は24時間しかないのに、3時間も他人が野球をやっているのを熱心に観ているほど暇じゃない」という人たちの気持ちもわかります。
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