琥珀色の戯言

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【読書感想】雑草はなぜそこに生えているのか ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
「抜いても抜いても生えてくる、粘り強くてしぶとい」というイメージのある雑草だが、実はとても弱い植物だ。それゆえに生き残りをかけた驚くべき戦略をもっている。厳しい自然界を生きていくそのたくましさの秘密を紹介する。


「雑草」というのは、実際に生えているのを「草取り」するときにはきわめて鬱陶しい存在なのです。でも、「雑草」という言葉には、しぶとくて、負けずにがんばる存在を象徴する言葉として、けっこうプラスのイメージもあるのです。

「雑草という名の草はない」と植物学に親しんでいた昭和天皇が側近に語った(もとは植物学者の牧野富太郎の言葉だった、という説もあるそうです)、というのは有名なエピソードですし、元プロ野球選手の上原浩治投手は「雑草魂」を座右の銘にしていました。アンチ巨人カープファンの僕は「金満巨人に逆指名で入っておいて、『雑草』とか片腹痛いわ」と思っていましたけど(ファンの人すみません)。

 そもそも、雑草とはどのように定義されるものなのだろうか。
 アメリカ雑草学会という、雑草学の研究者の集まりでは、雑草は次のように定義されている。
「人類の活動と幸福・繁栄に対して、これに逆らったりこれを妨害したりするすべての植物」
 何だか、科学的な定義というよりは、人類の幸福とか繁栄とか、ずいぶんと哲学的に感じられる。もう少しわかりやすい言い方では、「望まれないところに生える植物」という言い方もある。これも、わかったような、わからないようなあいまいな言い方だが、つまりは、「邪魔になる草」ということなのである。
 ただし、雑草が「邪魔になる悪い草だ」というのは、西洋の考え方である。
 日本の辞書には、雑草とは「自然に生えるいろいろな草。また、名も知らない雑多な草」「農耕地や庭などで、栽培目的の植物以外の草」「生命力・生活力が強いことのたとえ」などと書かれていて、必ずしも邪魔な悪い草という意味はない。それどころか、「雑草のようにたくましい」と生命力や生活力が強いことのたとえとして、良い意味にも使われているのが、面白いところだ。


アメリカ雑草学会」というのがあるんですね。
そして、この「雑草」についての定義や考え方も、アメリカと日本では、大きく異なるようです。日本人だって雑草には苦労しているのですが。
特定の種ではなく、「人類にとっての幸福・繁栄に有害かどうか」で判断するのであれば、同じ種の草でも「雑草」になったり、ならなかったりする可能性もあります。

著者は、「アスファルトの割れ目から芽を出した『根性ダイコン』は雑草なのか?」と問いかけてもいるのです。

 植物は、太陽の光と水と土さえあれば生きられると言われるが、その光と水を土を奪い合って、激しい争いが繰り広げられているのである。
 雑草と呼ばれる植物は、この競争に弱いのである。
 どこにでも生えるように見える雑草だが、じつは多くの植物が生える森の中には生えることができない。豊かな森の環境は、植物が生存するのには適した場所である。しかし同時に、そこは激しい競争の場でもある。そのため、競争に弱い雑草は深い森の中に生えることができないのである。
 雑草は弱い植物である。競争を挑んだところで、強い植物に勝つことはできない。そこで、雑草は強い植物が力を発揮することができないような場所を選んで生えているのである。
 それが、道ばたや畑のような人間がいる特殊な場所なのだ。

 生き抜く上で、競争に弱いということは、致命的である。雑草は、どのようにして、この弱点を克服したのだろうか。
 弱い植物である雑草の基本戦略は「戦わないこと」にある。
 強い植物がある場所には生えずに、強い植物が生えない場所に生えるのである。
 言ってしまえば、競争社会から逃げてきた脱落者だ。
 しかし、私たちの周りにはびこる雑草は、明らかに繁栄している成功者である。
 雑草は勝負を逃げているわけではない。土の少ない道ばたに生えることは、雑草にとっては戦いだし、耕されたり、草取りされる畑に生えることも雑草にとっては戦いだ。確かに、強い植物との競争は避けているけれども、生きるためにちゃんと勝負に挑んでいるのである。どこかでは勝負をしなければならない。ただ、勝負の場所を心得ているのだ。


 「雑草」は、他の植物より「強い」のではなくて、むしろ「弱くて、競争力がない」のです。
 だからこそ、「他の植物が生えない厳しい環境で生き延び、代を重ねるための戦略を駆使している」のだと著者は述べています。
 負ける競争をするのではなく、競争をしなくてもいい場所を選んで、雑草は生えている。
 人間からすれば、「なんでこんなに身近なあちこちに生えてくるんだ!」と思うのですが、植物にとっては、人間の生活圏に近い場所は、踏まれたり、耕されたり、土が少なかったりといった「僻地」にあたるのです。
 ちなみに、「雑草を完全になくす唯一の方法は、雑草をとらないこと」なのだそうです。草取りをしないと、次第に競争に強い大型の植物や木々が生い茂るようになり、弱い植物である雑草は光や栄養を得ることができず、生きられなくなるから。
 草取りも含めて、人間の手が入っているからこそ、雑草には繁栄の余地ができやすい。
 雑草は「人間にとって邪魔な植物」という定義がありましたが、人間がいなかったら、「雑草」は絶滅してしまうかもしれません。

 この本では、雑草のさまざまな「生存戦略」が紹介されていて、雑草のしたたかさと懸命に生き延び、子孫を残そうとする戦略に惹きつけられるのです。

 秋の野原を歩くと、眼にたくさんの草の種子がくっついてくる。くっつきた様子が虫のようなので、これらの種子は、俗に「くっつき虫」とか「ひっつき虫」と呼ばれている。
 その代表格は、オナモミだろう。オナモミの実はトゲがあって、衣服に引っかかる。子どもたちは、友だちと実を投げあって遊んだりする、なじみのある雑草である。この実を見たことがあっても、この実を開いて中を見たことがある人は少ないかも知れない。
 この実の中には、やや長い種子とやや短い種子の二つの種子が入っている。長い方はすぐに目を出すせっかちな種子で、短い方はなかなか芽を出さないのんびり屋の種子である。「善は急げ」というように物事は早くした方が良いという諺と、「急いては事を仕損じる」と物事は急がずにゆっくりした方が良いという相反した諺がある。早く芽を出した方が良いのか、遅く芽を出した方が良いのかは、状況によって異なる。そのため、オナモミは、どちらかが生き残るように二種類の種子を用意しているのである。
 とげとげした種子が特徴的で、子どもたちから「ちくちくボンバー」か「くっつきボンボン」などとあだ名されているコセンダングサは、外側を向いた長い種子と、内側を向いた短い種子がある。こちらも外側の長い種子は芽を出しやすい性質を持っている。これに対して、内側を向いた短い種子は、なかなか芽が出ない。
 こうして、異なる性質の種子を用意しているのである。
 オナモミコセンダングサは、種子の形を変えているので、わかりやすい。しかし、他の雑草も戦略は同じである。


 これも、「雑草の生存戦略」の一例でしかなくて、ひとつひとつは弱い雑草でも、多様性を駆使して、種全体が繁栄するような仕組みをつくっているのです。
 「ひっつき虫」には、こんな秘密が隠されていたのか……

 この本を読んでいると、「いろんなタイプの人がいる」というのは、個体としてはそんなに強いわけではない人間にとっても、種の繁栄のための大事な戦略なのだな、と考えずにはいられなくなるのです。

 雑草を観察していると、雑草は踏まれても立ち上がるというのは、正しくないことがわかる。
 雑草は踏まれたら立ち上がらない。よく踏まれるところに生えている雑草を見ると、踏まれてもダメージが小さいように、みんな地面に横たわるようにして生えている。
「踏まれたら、立ち上がらない」というのが、本当の雑草魂なのだ。
 たくましいイメージのある雑草にしては、あまりにも情けないと思うかもしれない。
 しかし、本当にそうだろうか。
 そもそも、どうして立ち上がらなければならないのだろう。
 雑草にとって、もっとも重要なことは何だろうか。それは、花を咲かせて種子を残すことにある。そうであるとすれば、踏まれても踏まれても立ち上がるというのは、かなり無駄なことである。そんな余分なことにエネルギーを使うよりも、踏まれながらどうやって花を咲かせるかということの方が大切である。踏まれながら種子を残すことにエネルギーを注ぐ方が、ずっと合理的である。だから、雑草は踏まれながらも、最大限のエネルギーを使って、花を咲かせ、確実に種子を残すのである。
 踏まれても踏まれても立ち上がるやみくもな根性論よりも、ずっとしたたかで、たくましいのである。


 この本を読んでいると、雑草たちに敬意さえ感じるようになってくるのです。本当はすごかったんだなお前たち、って。
 これから、草取りをするときに、ためらってしまうかもしれません。
 でも、「全く手入れされずに、ずっと放置されていると、雑草は、より強い植物に駆逐されてしまう」のです。


植物図鑑 1 (花とゆめコミックス)

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雑草

雑草

  • アーティスト:Hikakin Seikin
  • 発売日: 2018/05/21
  • メディア: CD

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