セブン-イレブンおでん部会―ヒット商品開発の裏側 (朝日新書 34)
- 作者: 吉岡秀子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2007/03/13
- メディア: 新書
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いかにして、セブン‐イレブンは、来客1日1千万人の規模に成長したのか。おにぎりを舞台にした母の味追求大作戦、飲むためのおでんスープ、究極の「フワッ」「サクッ」メロンパン。「いつも消費者が正しい」で勝ち抜く、コンビニ王者の商品開発史を一挙初公開。
この新書を読み終えたとき、僕は思わず「ああ、セブンイレブンって、容赦がない組織だなあ……」と溜息をついてしまいました。
いや、別にセブンイレブンを嫌っているわけじゃないんですけど、あれだけの大きな売り上げを誇る企業が、こんなに隙のない商品開発や流通システムを構築しているとしたら、同業他社はたまらないだろうなあ、と。
僕が住んでいる田舎町でも、ローソンやファミリーマートのような対抗馬たちはさておき、零細コンビニチェーンの店たちは、次々になぎ倒されていっているんですよね。競馬界における社台ファームのように、「大きな企業・組織であることに油断せず、その『大きさ』のメリットを活かして、さらに他社に差をつけていく」というセブン-イレブン。
巻末の鈴木敏文社長のインタビューには、こんな言葉があります。
目先の商売だけに気を取られていては、成長できません。ここまでいうのは、お客様はおいしくないものには二度と手を伸ばさないとわかっているし、もうひとつは、おいしいものはすぐに飽きられるからです。誰だって毎日料亭料理を食べていると飽きるでしょう。ぼくも実感したことがあるんですよ。かつて、昼に仕出し弁当を食べながら役員たちと打ち合わせの時間を持っていたときがあります。その弁当はおいしいと評判の店のもので、最初はみんな喜んで食べていたのですが、回を重ねるごとに、みんな食べたがらなくなったんです。ぼくもそうでした。ごはんと味噌汁、おしんこ程度なら毎日でも食べられるのに、おいしいものは飽きてしまうのだな、難しいものなんだなとつくづく思いましたね。でも、そうはわかっていても、やはりおいしいものが食べたい。そんな人間の矛盾した心理を理解したうえで、常においしさを追求する努力を怠ってはいけない。でなければ、多くのお客様に支持をいただける商品はできません。
また、人気の「とろりんシュー」に関しては、開発担当者のこんな話が紹介されています。
「生地の配合やクリームのとろりん度は、毎年改良しています。当時はいいと思っていたのですが、たしかにとろとろにしすぎてしまったこともありました。あのときは、食べるとクリームが流れ落ちて洋服が汚れたなど、お客様からクレームもいただきました。いまはとろとろじゃなくて、とろっ、という程度にしています」
(中略)
「とろりん度も濃厚さも、お客様の嗜好は変わっていきます。それをいかに正確にとらえることができるのかが永遠の課題ですね。でも、正直いうと、とろりんシューを変えるのには勇気がいる。まだ知名度の低いコンビニデザートのなか、売れ続けているオバケ商品ですから、お客様の好みを読み間違えたらと思うと……」
セブン-イレブンのオリジナル商品に対して、「前のほうが絶対よかったのに、なんでわざわざ味や内容を変えてしまうのだろう?」って疑問に感じたことはありませんか?
僕の場合、最近では「鶏の炭火焼」が真っ黒になってしまったのに、かなり失望していたのです。前ので十分よかったのだから、あえて「改悪」しなくてもいいじゃないか、と。
でも、この本を読んでみると、セブン-イレブンにとっては、どんな人気商品であっても「現状維持」は許されないのだ、ということがわかります。「変わらなければ、飽きられる」という強迫観念が、セブン-イレブンを過酷な新製品開発に駆り立てているのでしょう。
そして、その考え方は、たぶん、正しいのだと思います。
バイト店員の確保の難しさやオーナーの過酷な労働条件、万引対策など、「個々の店舗が抱えている問題」については触れられていませんが、「セブン-イレブンの凄さ」をあらためて感じますし、読むと「コンビニ」をかなり見直してしまう本です。