- 作者: 三宮貞雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2016/04/01
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
- 作者: 三宮貞雄
- 出版社/メーカー: 小学館
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内容紹介
驚くべきコンビニの内幕と人間模様を大公開。
日本全国に5万店以上あり、原則24時間、365日営業で飲食料品はもちろん、日用品からペットのエサまで必要なものは大抵揃う。各種サービスも豊富で、もはや、コンビニなしの生活など考えられない。
ただ、その分、従業員への負担は増える。多忙な上に次々と登場する新サービスのマニュアルをすべて覚えるのは至難の業だ。その中でもひときわツライ立場にいるのが店長(オーナー)だ。最近ではアルバイトも集まらず、その分、店に出る時間は長くなる。独立した経営者という立場のため、当然、残業代なんていうものは出ない。人件費を浮かせるために奥さんに頼み込んでシフトに入ってもらうのは当たり前だ。
意外と知られていないが、店頭で売っているおでんやコロッケなどの揚げ物などには「ノルマ」があり、その数字を達成するために自腹を切って、その数字を達成させたりする店もある。そこまでするのは、本部チェーンからやる気がないと見なされて「契約解除」を通告される怖れがあるからだ。
そんなコンビニ店長の哀愁漂う「日記」には、知られざる内情がたっぷりと詰まっている。
本部に搾取されまくり、身体も精神も壊してしまった店長の告発!
……みたいなのを期待(?)しながら読みはじめたのですが、著者はコンビニの四季に起こるエピソードをむしろ淡々と書き綴っていて、それだけに、仕事への真摯さと静かな諦念、みたいなものが伝わってくる内容でした。
ものすごく酷い客や店員の話が満載!というわけでもなく(なかには、とんでもない人も出てきますが)、「いきなり『代行呼んで』とレジで言ってくる酔っぱらい」とか、「夜、コンビニの駐車場で小宴会をやる若者グループ」とか、「なぜかコンビニの店員は何でも言うことをきいてくれると思っている人」とか、「みんなの迷惑に無頓着な人」が、じわじわとコンビニ店員たちのモチベーションを奪っていくみたいです。
今日も両手いっぱいに抱えた商品の山から、最後に乗せたプリンを床に落としてしまった女性のお客様がいた。たまたま目が合った、そのお客様は「プリンが落ちたわ。どうしたらいい?」ときた。
もちろんお買い求めいただきほっとしたが、以前、中年の男性客に、
「すいません、お代を頂戴しないと、私が買わなきゃいけないんですよ」
と言ったら、
「じゃあ、そうすればいいじゃん」
と居直られ、二の句が継げなかった。
コンビニの労働環境というのは、かなり厳しい。
コンビニでできることは増え続けているのですが、それは「コンビニ店員が対応しなければならないこと、覚えなくてはならないこと」が増えるということを意味します。
一昔前はコンビニのアルバイトは人気があったそうなのですが、今は「ブラックバイトの典型」として、なかなか人が集まらないのだとか。
とくに、深夜のシフトはなかなか見つからず、オーナーが自ら店に出ることも多いそうです。
某コンビニチェーン(というか『ローソン』)では、アジアからの留学生を積極的に採用していて、彼ら留学生にとっては「コンビニでのアルバイトは、日本語を覚えるのにすごく有効」だとアピールしています。
コンビニは、仕事の内容が多彩である、というのが、その理由のひとつになっているんですね。
先にもふれたように、コンビニ・フランチャイズでは原則として24時間営業・年中無休が義務付けられている。実際問題、この条件をクリアするには、アルバイトを雇うのはもちろんだが、オーナーやその家族が店に出て長時間働くほかない。また、加盟店が利益を捻出するための有効な方法はアルバイトに払う時給を削ることなので、その面からも、アルバイトの労働時間を減らしてオーナーや家族がシフトに入ることになる。とくに日商の少ない店では、オーナーと家族がシフトに入る時間が長い。
コンビニ・フランチャイズのオーナーは、自ら店で働かなければ店が回らない。実際、うちのチェーンではオーナー1人ではダメで、「ご夫婦、親子、ご兄弟で経営に専念できる60歳までの方」など、家族を含め2人以上で仕事にあたることを契約の前提条件にしている。店舗運営にリズムができるとか、経験を積むことで判断力が培われるというのもさることながら、もっと切実な事情から、オーナーとその家族(夫婦の場合が多い)は、日夜明かりが消えることのない店で働いている。
実際、私の店も女房には夜勤こそさせないものの、混雑する平日のお昼時には必ずシフトに入ってもらっている。
コンビニを始めて最初の2年間は、まともに寝た記憶がない。
深夜10時から翌日の夕方5時くらいまで店にいて、家で4時間ちょっと寝て、また店に戻る。そんな日々を延々と送っていた。
著者は、いまでもほぼ毎日12時間、妻は8時間シフトに入って店内で働いている、ということでした。
そうでもしないと、なかなか店が回らない。
それで致命的に身体を壊すことがなかったのは不幸中の幸いですが、これは特殊な事例ではないんですよね。
「経営者」だから、そんな無茶な働き方をしても、労働基準法違反に問われることもない。
本部から来ているアドバイザーに「売上が伸びずに資金的に苦しい」と相談すると「人件費を削りましょう」とまず言われるそうです。次が「廃棄食品で生活費を浮かせましょう」。
それは要するに「アルバイトを雇わずに、お前らが働け」ということです。
24時間・365日営業の裏には、こういう現実があります。
コンビニは、スーパーなどに比べて、高い価格で売っていて、流行っていればかなり売り上げもありそうですから、けっこう儲かりそうなものですが、実際は「本部へのフランチャイズ料」を引かれると、そんなに手元には残らないようになっています。
本部でまとめて仕入れが行われ、店の側では「発注」をかけるだけ(とはいえ、大まかなところは本部に決められていて、現場の裁量はそんなに大きくない)なのですが、「仕入れの原価が、近所の『ドン・キホーテ』での小売価格よりも高い商品がある」そうです。
そして、そのフランチャイズ料の計算方法が特殊であることを、著者は「告発」しているのです。
この新書のなかで、著者は「原価100円、売価150円のイクラのおにぎりを1000個仕入れ、そのうちの700個が売れ、300個廃棄した場合」について説明しています。
一般の会計では、売り上げは150×700で10万5000円。ここから、売上原価の100×1000の10万円を引いた5000円が粗利となります。
7割売れて、なんとかちょっと儲かる、というくらいなんですね(ただし、これはあくまでも例えなので、実際のコンビニの原価や売価と同じ数字ではないようです)。
ところがコンビニ会計では、売上高から差し引くのは売上原価ではなく純売上原価(廃棄ロスを含まない)であるため、10万5000円ー7万円(100円×700個)=3万5000円が見かけ上の粗利となる。特殊な会計によって粗利が見かけ上7倍に膨らむ結果、ロイヤリティ=本部の取り分も7倍になる。ロイヤリティの率が70%の場合、一般会計では5000円×70%=3500円だったのが、コンビニ会計では3万5000円×70%=2万4500円となるのだ(なお、これは一例であって、必ず本部の取り分が7割になるわけではない)。
実際の(一般会計で算出した)粗利が5000円しかないのに2万4500円もロイヤリティを払わなければならないのだから、加盟店にとっては、この時点でイクラおにぎりは大赤字が確定的になるというわけだ。
特殊な会計によって粗利を見かけ上膨らませる手法は、小売業で必然的に発生するロスを粗利計算から排除することによって、加盟店から本部への所得移転をもたらしている。「日商を上げても本部だけが儲かり、加盟店には利益が残らないようになっている」、つまり本部にとって「うまくできている」と友人の税理士が教えてくれたのは、この「カラクリ」だった。これを聞かされたときは、ほんとうに驚いた。
会計には疎いのですが、これを読んで唖然としてしまいました。
食品などは「廃棄ロス」があるのが当然のはずなのに「売上原価」を「純売上原価」にするだけで、実質は大赤字でも、本部に多額のロイヤリティを払わなければならなくなるのです。
コンビニで「消費期限が近づいてきた弁当などの食品を値引き販売したい」とオーナーが訴えているのは、値引きしてでも売ってしまえば、「売上がアップするだけではなく、値引きしてでも売れた商品は『純売上原価』に含むことができる」という二重のメリットがあるからなんですね。
本部側が値引き販売を認めたがらないのは、ブランドイメージだけではなく、それを認めると、「商品が売れても、本部へのロイヤリティが減る」可能性が高いから、でもあるのです。
コンビニ経営に夢をもっている人のすべてが会計に詳しいわけではない。
というか、たぶんこんなカラクリを、ほとんどの人は理解しないまま開店し、仕事をはじめてみて愕然とするのではないでしょうか。
なんだかもう、「生かさず殺さず」って感じなんですよ、そりゃ本部は儲かるわ。
たしかに、コンビニは便利だし、魅力的な商品もたくさんあります。
そして、なんのかんの言っても、すでにひとつの「産業」になっているし、儲けているオーナーもいる。
それでも、「こういう現実」があるということは、知っておいても良いんじゃないかと思います。
コンビニのオーナーになってみようか、という人が周囲に出てくるかもしれないし、利用する際に、最低限の「マナー」みたいなものは持っておいたほうが、お互いに気持ち良く日常をおくれますしね。