琥珀色の戯言

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【読書感想】コンビニの闇 ☆☆☆☆

コンビニの闇 (ワニブックスPLUS新書)

コンビニの闇 (ワニブックスPLUS新書)


Kindle版もあります。

毎年まるで風物詩のように問題となる季節商品の大量廃棄
終わりの見えない加盟店オーナーの労働
利益が上げると同一チェーンが歩ける距離に出店――

利用する私たちにとっては近くにあると、とてもありがたい存在のコンビニですが、便利さの一方でお店を経営するオーナーたちの中には、親会社からの理不尽な要求に苦しんでいる人が多くいることも事実です。
そんなコンビニ経営の実態を、コンビニの労働問題のパイオニアが徹底調査し、その暗部を炙り出す一冊です。


 僕がコンビニを利用するようになったのは、今から30年くらい前のことでした。
 通っていた大学に、当時はまだ珍しかった24時間営業のセブンイレブンができて、そこでおにぎりやお菓子を買ったり、友人との飲み会の途中で、夜中にお酒やおつまみを買い出しに行ったりしたのを覚えています。
 これは便利なものができたなあ、これまでは、夜中にお腹がすいたら、家にあるものでなんとかするしかなかったものなあ、と思っていたものです。
 そのコンビニの経営者が、近くにも新しい店を出し、自宅の駐車場に停まっている車がどんどん高価になっていっている、と、みんなで噂していました。
 30年前は、コンビニにとっては手探りでありつつも、まだニーズに比べて店の数も少なく、稼げるところが多かったのではないかと思うのです。

 ところが、昨今のコンビニの経営側の事情として聞こえてくるのは、本部の搾取やオーナーの過重労働などの景気の悪い話ばかりです。

 この新書は、そんな「コンビニオーナーの苦境と、それがなぜ起こっているのか?」をわかりやすく解説したものなのです。
 
 著者は、平成27年3月に行われた「ファミリーマート事件」でファミリーマート加盟店ユニオンが東京都労働委員会に提出した証拠を紹介しています。

 この証拠が提出された事件では、ファミリーマート加盟店ユニオンとの団体交渉を拒否した本部の行為が不当労働行為になるかどうかが争われたが、その際、ファミリーマート加盟店ユニオンは、加盟店オーナーやその親族、従業員の労働時間をまとめていた。この資料によると、加盟店オーナーの1週間あたりの労働時間は少ない者で40時間、多い者は128時間である。平均すると約68.3時間である。
 労働基準法32条は1週間の労働時間を40時間と定めている。週に5日出社するとして、1日あたりの労働時間は8時間である。資料上ではこれが守られているファミリーマート加盟店オーナーが15名中たった2名である。
 また、過労死ラインは月80時間の残業である。月に20日出社するとして、1日あたりの残業時間は4時間。要するに週の労働時間が60時間以上となると過労死ラインを超えていることになる。ところが、資料によれば15名中8名の加盟店オーナーが過労死ラインを超える労働をしていることになる。この調査からは各店舗の親族労働者の数までは示されていないが、多くの店舗においてファミリーマート加盟店オーナーの親族も長時間労働をしていることはおわかりいただけるだろう。
 それでは、なぜこのような過重労働が行われているのだろうか。それは、コンビニフランチャイズ契約において、人件費は加盟店負担だからである。したがって、人件費を削れば、コンビニ加盟店オーナーは収入を増やすことができるためである。


 こんな長時間労働をやっているのか……
 ただ、これを読んだだけだと、「とはいえ、『もっと稼ぎたい』から、アルバイトを入れずに自分たちが働いているんじゃない?」と思われるかもしれません。
 仕事はきつくても、その分、稼いでいるのだろう、と。


 著者は2020年9月に公表された公正取引委員会による実態調査報告書を紹介しています。

 2020年実態報告書は、コンビニ加盟店収入の中央値が発表されているが、その額は586万円である。5会計年度前と比べると、192万円も収入が減っている。
 そして、加盟店オーナーの資産額については、債務超過状態が17.3%、500万円未満が43.5%である。これらは、コンビニ加盟店が置かれている状況が年々厳しくなっていることを物語っている。実際、2010年と比べると2019年のコンビニ加盟店の倒産等は3.5倍に増えているようである。
 しかも、2020年実態調査報告書によると、コンビニ加盟店オーナーの1週間あたりの平均店頭業務は6.3日、毎月の平均休暇は約1.8日である。さらに62.6%の加盟店オーナーは週7日働き、年間の休暇10日以下のコンビニ加盟店オーナーは63.2%であるという実態も明らかになった。
 コンビニ加盟店オーナーはほとんど休みが取れないまま働いているにもかかわらず、収入は減る一方で、たいした貯蓄ができないどころか、債務超過に陥っている人すらいるのである。


 これはあまりにもひどい……
 仕事はきついけれど、その分短期間で大きく稼げる、というのであれば、それなりの合理性はあると思うのです。
 ところが、コンビニオーナーたちは、もともとフランチャイズ間での過剰な競争もあり、売れる店の近くには、本部の「ドミナント戦略(近い場所に集中的に出店することによって仕入れや経営指導の効率を上げる)」で同じフランチャイズが出店してくるのです。
 最低賃金の上昇も、オーナーにとっては収入源につながっています。
 こんなに働いているのに、貯金どころか、借金が増えていく……
 なんなんだこれは。

 日本のコンビニチェーンは、ロイヤルティ(本部の取り分)が他のチェーン店に比べて、ものすごく高いのです。

 コンビニ大手各社の場合、加盟店は特殊な計算方式(=コンビニ会計)で算出した粗利の45%から76%ものロイヤルティを支払わなければならない。
 具体的にこれが1日あたりいくらになるかというと、セブンーイレブンの日販67万円の店舗でロイヤルティ11万7000円、ファミリーマートのの日販54万円店でのロイヤルティ7万6000円、ローソンの日販50万円店で6万9000円である。
 一方、CoCo壱番屋の場合、ロイヤルティはゼロである。同チェーンの加盟店はカレーソースなどの使用材料を本部か本部指定の業者から仕入れる規定があり、本部は使用材料の原価にマージンをのせて加盟店に販売することで利益を得ているのだ。
 また、サーティワンアイスクリームの場合はロイヤルティ算出の基礎は粗利ではなく小売売上高であるが、ロイヤルティと広告宣伝分担金を合わせても8%である。同チェーンの平均日販は10万9000円で、これをもとに計算すると加盟店が本部に支払うロイヤルティと高校宣伝分担金額の平均は1日8720円となる。このことからも、コンビニのロイヤルティの額の高さがおわかりいただけるであろう。


 しかも、このロイヤルティが「コンビニ会計」と呼ばれる特殊な会計方法で算出されていることも問題なのです。

 原価70円のおにぎりを10個仕入れて1個100円で8個売れたとする。加盟店が本部に支払うロイヤルティは粗利の60%とすると、次のようになる。


(1)一般会計の場合
 一般会計の場合、廃棄したおにぎり2個の費用を当然に原価に含ませる。したがって、次のような計算式となる。

売上:100円×8個=800円
原価:70円×10個=700円
粗利:800円-700円=100円
ロイヤルティ:60円
加盟店の収益:40円


 この一般会計に従えば、本部も加盟店も黒字になる。しかし、同じ例でも、コンビニ会計に従うと加盟店は大赤字になるという事態になる。


(2)コンビニ会計の場合
 コンビニ会計には、”弁当の廃棄分は原価に含ませない”といいう特徴がある。すなわち、廃棄ロス(廃棄による損失)は加盟店が負担しなければならないという計算式である。したがって、次のような計算式になる。

売上:100円×8個=800円
原価:70円×10個-70円×2個=560円
コンビニ会計による粗利:800円-560円=240円
ロイヤルティ:144円
加盟店の収益:96円-70円×2個=マイナス44円


 コンビニ会計に従うと、本部のロイヤルティ収入は144円となる。一方で加盟店は一般会計の場合では40円の黒字だったが、コンビニ会計に従うとマイナス44円となってしまう。
 これがコンビニ会計の特徴でもあり、恐ろしいところでもある。すでに述べた通り、コンビニ会計は、売れていない商品の原価を粗利に含ませず計算をし、廃棄ロスを加盟店に負担させている。これが意味するところは、本部は廃棄ロスを負担しないということだけではなく、商品が一つでも売れれば、利益が膨らむということである。
 本部の方は、廃棄は怖くないし、少しでも売れたら利益となる。そうなると、本部は加盟店で発生する売れ残りを気にせず、少しでも多くの商品が売れるように、加盟店に商品の発注を大量にするように求めるようになる。


 この「コンビニ会計」のおかげで、本部は「商品を切らすと機会損失につながる」「商品棚が閑散としていると購買意欲を損なう」などとして、契約更新をしないことをちらつかせ、店舗に過剰な仕入れを求め続けているのです。
 最近は少し緩和されてきたものの、賞味期限が近くなった弁当などを値下げして売ることも、禁じられてきました。店側にとっては、このコンビニ会計のことを考えれば、仕入れたものは値下げしても売り切ってしまいたいのに。

 いまのコンビニ業界の仕組みって、とにかく「本部がすべてを吸い上げていく」ようになっているのです。
 営業時間の短縮や賞味期限が近い商品の値下げ販売などは、以前よりも緩和されてきているようですが、それは、店舗のオーナーたちの状況が限界にきていて、本部も重い腰をあげざるをえない状況になっている、ということでもあるのです。
 
 新型コロナウイルス禍のなかでも、スーパーマーケットやドラッグストアとともに、コンビニは「生活のインフラ」として営業の継続を求められました。
 それほど「日常生活で不可欠になっているもの」を支えている人たちが、こんな待遇で働いているのです。
 責任と負担はどんどん重くなっているのに、労働時間は増え、貧しくなっていく。
 これって、何の罰ゲームなんだ……

 携帯電話の通信料の値下げだけじゃなくて、コンビニオーナーの待遇改善も、これからの日本には必要だと思います。


コンビニ人間 (文春文庫)

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