琥珀色の戯言

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永遠の0 ☆☆☆☆



あらすじ: 祖母の葬儀の席で会ったことのない実の祖父・宮部久蔵(岡田准一)の存在を聞いた佐伯健太郎(三浦春馬)。進路に迷っていた健太郎は、太平洋戦争の終戦間際に特攻隊員として出撃した零戦パイロットだったという祖父のことが気に掛かり、かつての戦友たちを訪ねる。そして、天才的な技術を持ちながら“海軍一の臆病者”と呼ばれ、生還することにこだわった祖父の思いも寄らない真実を健太郎は知ることとなり……。


参考リンク:映画『永遠の0』公式サイト


 2014年2作目の映画館での鑑賞作品。
 お正月休み明けの火曜日のレイトショーで、、観客は20人程度。
 けっこう年輩の方が多い、と思いました。


 ちょっと前に映画館で予告編を観ていたときには「これには行かないな」と思っていた『永遠の0』。
 けっこう評判が良いのと、この時期他に観たい作品もなかったため、結局これをチョイスしました。
 特攻隊賛美の「右傾エンタメ」になっているんじゃないかなあ、と危惧していたのですが、2時間20分あまりにまとめられているということもあってか、主人公の宮部久蔵を中心に「特攻」という作戦、零戦パイロットたちの矜持、そして軍隊という組織の無慈悲さを淡々と描いた良作としてまとまっていると思います。
 原作小説にあった「説明」が無い分だけ、あの時代背景は理解しにくくなったり、軍の上層部の無謀さ、理不尽さが伝わりにくくなっている気はしますが、作者の言葉で押しつけられるより、「物語」として観るほうが、かえって「ああ、こんなふうに若者を死なせてしまう戦争なんて、やるものじゃないな……」と素直に思えるのかもしれません。


 太平洋戦争の後半、日本はどんどん劣勢に追い込まれ、開戦時は世界一とまで言われていたパイロットも戦死者が増えたため「なんとか飛ぶのが精いっぱい」の若手ばかりとなり、零戦の戦闘能力もアメリカの開発力の前に、相対的に低下していきました。
 「どうせ特攻要員なのだから、空戦の練習はしなかった」という話を知ると、「あの頃の日本の上層部は、いったい何を考えて戦争を続けていたのだろう?」と思うのです。
 この作品のなかにも「九死に一生を得るような危険な作戦なら、喜んで参加する。だが、特攻というのは『十死0生』だ。成功すなわち死だ。しかも、大部分は敵艦にも届かずに落とされる。そんな無謀な作戦があるか?」という、元搭乗員の言葉が出てきます。
 今から考えたら、明らかにおかしい。
 でも、当時の若者たちは、その「状況」に従うしかなかった。
 たぶん、同じ若者たちが、いまの時代に生まれて、この映画を観たら「なんで特攻なんて作戦をやってしまったんだ……」と愕然とするはずです。
 

「こんな世の中で、『命が惜しい』と言える宮部さんは、臆病者なんかじゃなくて、本当に強い人だ」


 僕は天才パイロット・宮部久蔵よりも、あの戦争に疑問を持つことすらできず、死んでいった人たちのことが、すごく心に残ったのです。
 「家族思いで、それを表に出せた人間」というのは、ファンタジーでしかないと思う。
 宮部さんは「天才」だから、士気を低下させるような発言をしても、渋々ながら存在を許容してもらえるけれど、普通の搭乗員たちは「流れにのっていくしか、生きていけなかった」わけで。
 そうやって生きた「流れ」の先にあるのも、無謀な作戦による死なのです。
 そもそも、「宮部さんは、生き残るために乱戦を避け、すぐにその空戦のエリアから離脱していた」とかいうのは、宮部さん個人の立場からいえば「生き残りたい、という美しい家族愛」なのかもしれないけれど、そこで戦っている仲間からすれば「宮部は実力があるパイロットなのに、なんで味方のために戦ってくれないんだ……身勝手なヤツ!」と思うのが当然です。
 自分だけ生き残ればいいのか!って言いたくなりますよそれは。


 なんというか、宮部さんは、代替不可能な実力者だからこそ、会社の上層部に「俺は定時に帰る!」とか、「やりがいよりも残業代よこせ!」と言える人みたいなものなのかもしれないな、と。
 一緒に働いている「普通の社員」は、逆らったらクビになるかもしれないし、そうなったら次の仕事を探すのも大変だから、唯々諾々と「上の意向」に従うしかない。
 僕はむしろ、宮部さんに同調圧力をかける「代替可能な歯車たち」に感情移入してしまうのです。
 僕自身も、そういう存在だから。


 本当は、戦争に向いていない宮部さんのような人が、無理やり巻き込まれ、「同調圧力」と戦わされてしまうことそのものが「戦争の怖さ」なんですけどね。


 あと、生き残った人たちの、亡くなった人たちへの「負い目」みたいなものについても考えさせられました。
 生き残った人が、何か悪いことをしたわけではなく、それは単に「巡りあわせ」の問題でしかないのに、それでも、死者に対する「生き残った責任」みたいなものを、多くの人たちが背負わずにはいられなかったのです。
 いまの日本をつくってきたのは、そんな「生き残った人たち」でした。


 ただ、この作品のなかでは「特攻隊と自爆テロは同じ」という若者、とか、知覧の特攻隊員の遺書をみて「お国のため」というのが理解できなかった若者、が登場してくるんですよね。
 「だから最近の若者は……」と言いたがる高齢者たちに媚びすぎなのではないかなあ。

 
 僕自身、大学時代の部活の遠征の合間に知覧を訪れたことがあり、そこで隊員たちの「遺書」を読んで大粒の涙を流していた先輩たちの姿を見ました。
 いま40代前半の僕たちは「左傾ぎみ世代」なのだけれども、それでも、20歳前後のときに知覧で涙を流さずにはいられなかったのです。
 若者は、そんなにバカでも、不感症でもないはずです。

 
 岡田准一さん、『SP』『天地明察』『図書館戦争』といずれも好演だったのですが、この『永遠の0』は、渾身の名演です。とにかくすごい目力。
 僕は原作本を読みながら、「宮部少尉は、堺雅人さんのイメージだな」と思っていたのですが、実際に観て「岡田准一さんで大正解だった」と納得しました。
 夏八木勲さんの「生命を削っているような」姿も印象的でした。
 あと、特撮も素晴らしかったです。
 どんなに役者さんたちが頑張っても、「飛行機」がうまく描けていなければ、良い映画にはならなかったはず。


 宮部少尉という人のリアリティはさておき、「戦争や特攻を賛美したがる人にこそ、観てもらいたい映画」です。
 これは、けっして「右傾エンタメ」なんかじゃない。

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