琥珀色の戯言

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【読書感想】骨風 ☆☆☆☆


骨風

骨風


Kindle版もあります。

骨風 (文春e-book)

骨風 (文春e-book)

内容(「BOOK」データベースより)
十七歳、家出少年の人生は、挫折、家族解散、借金返済の自転車操業。老いてなお逃げ続ける脚力で描き切った、崖っぷちの連作集!


この『骨風』、糸井重里さんが、タイトルを伏せたままで「糸井重里秘本」として予約販売したことで話題になりました。

参考リンク:糸井重里秘本はゲージツ家・クマさんこと篠原勝之の「骨風」だった!(よろず堂通信)


僕はこの本のことも、クマさんが小説を書いているということも、これまで知らなかったのですが、第43回泉鏡花文学賞を受賞しているんですね。


これを読みながら、糸井さんは、なぜこの本を「秘本」として推薦したんだろう、というようなことを考えていました。
この本は、篠原さんの人生の断片を描いた短編集なのですが、僕は読んでいて、強烈な虚無感におそわれました。
ああ、人間って、ひとりなんだな、「孤独」なんだな、って。
僕にとって、それは怖いことなのだけれど、クマさんは、それを淡々と描写していくのです。
「人生って、そういうものだろ?」って。


最初の作品『骨風』では、父親から篠原さんが受けた激しい暴力が描かれます。
父親が病気で動けなくなり、意識もはっきりしなくなったという報を受けて、病室で「対面」を果たすのですが、意識がないはずの父親が体を起こしただけで、恐怖のあまり病室を飛び出してしまう篠原さん。
それって、どれだけの恐怖が、体に刷り込まれていたのだろうか……


耐えかねて家出し、東京で絵を描いて暮らそうとしたのだけれど、なかなかうまくいかず、貧乏暮らしが続きます。
自分が生まれ育った場所とは違う、「家庭」をつくるはずだったのに。
篠原さんは、ある出来事で、怒りにまかせ、息子さんを張り飛ばしてしまうのです。

 家を飛び出して彷徨い歩き、戻った壊れ者は、
「今日で一家を解散する。これからは一人ひとりの貧乏になって生きていくことにするのだ」
 悪魔の宣言を一方的にして、家庭生活を終えることになったのだった。いや、自分では宣言したつもりだったが、家族からはとっくに愛想をつかされていたのだろう。ヨメは「体に気をつけて、お元気で」と書かれた紙きれ一枚を残して、二人の子どもと去っていった。


こんなはずでは、なかったのだろうと思う。
自分は、幸せな家庭を築くつもりだったはず。
ただ、その一方で、家庭生活というものに、根本的に不向きな人というのもいるのだよな、と僕は思う。
でも、不向きな人が誰かと愛し合って、家庭をつくってしまうことはある。少なからずある。


クマさんというのは、こういうふうにしか生きられなかった人なのだろうけど、そういう人生に巻き込まれるというのは、きっと大変なことなのですよね。
ずっと貧乏で、売れない絵本を描いたり、鉄のかたまりをいじったりして暮らしている男なんて、周囲からみれば、いまの「プロブロガー」なんて足元にも及ばないほど白眼視されていたはず。
結果的には、それを「芸術」として評価してくれる人も大勢現れたのだけれども。


篠原さんが鉄を材料にしてアートをはじめたのは、40歳を過ぎてからだったんだよなあ。


虐待としか言いようのない暴力を日常的にふるっていた父親、ずっとカネをせびるだけで、迷惑をかけつづけられた弟、紙きれ一枚で、去っていってしまった妻と子どもたち。
この作品群を読んでいると、ただひたすら、「孤独」を感じるのです。
ただ、それは「自由」でもある。
篠原さんは、身内の困った人たちや、去っていった家族と、感動的な和解をすることはないのです。
避けて、無かったことにして、ひたすら、嵐が過ぎ去るのを待つ。
「冷たい」と思う人もいるかもしれないけれど、人と人とのわだかまりなんて、そう簡単に解消できるものじゃない。
引き受けて、前に進むことができる人なんて、ほとんどいない。
なんか違うな、と思いつつ、社会的な「家族としての最低限の役割」を果たしている人は多いはず。
そういうものに対して、篠原さんは、声高に恨み言を述べるわけでもなく、美化してドラマチックにするわけでもなく、ただひたすら、「すれ違い」を描いている。
ああ、そうだよね。「死ぬ間際に感動の和解」とか、「亡くなってしまってから、親孝行できなかったことに涙」なんて人は、ごくひとにぎりの「家族関係エリート」なんだ。


読み終えて、そういえば糸井重里さんも離婚経験者で、最初の結婚の際、樋口可南子さんとの不倫が公になって、かなり批判もされていたんですよね。
糸井さんは、常に周りに人が絶えない、時代とともにある存在のように感じていたのだけれど、もっとも身近な人との間に「虚無感」みたいなものを抱えていたのかもしれないな。


「それでもなにかをつくりたい人」って、いるんだよね。
たとえ、それがいろんな「普通の幸せ」と引き換えであったとしても。


自分の人生や家庭生活に十分満足している人には、オススメしません。
きっとあなたは、この本を死ぬまで読まないほうがいい。
読んでも、腹が立つか、虚無感が伝染するだけだから。

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