琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

その日のまえに

その日のまえに

その日のまえに

この本を読みながら、ひょっとして、重松さんは死んだことがあるんじゃないか?と僕は考えていた。いや、たぶん死んだことはないのだろうけど、身近な人を亡くした経験はあるのだろうと思う。これを読んでいたら、僕も大事な人を失う前のいろんなことが思い出されてきて、思いがけず大泣きしてしまった。なんというか、淡々としているけれども、それこそがまたせつなくてしかたがないのだ。
正直、この本に収められている7篇のうち、前半の4篇は、「感動的」ではあるが、僕にはいまひとつ感情移入しきれなかった。いわゆる「狂言回し」の立場の人物が、「そんなヤツ、実際にはいないだろ…」とか、「そんな人に相談しないだろ…」というように感じられたのが、ものすごく気になってしまって。
でも、「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」にはそういう破綻がなくて、それだけに、僕にとってはあまりに自分の記憶を呼び覚ますもので、まさに「ひとごととは思えない」ものだった。
この本を読んで、「死ぬのも辛いが、死なれるのも辛いのだ」ということを僕はあらためて考えた。でも、そういう「別れ」を辛く感じてしまう人がいればこそ、「家族」というのは価値があるのかもしれない、とも思った。「別れ」があってもなお(あるいは、「別れ」があるからこそ)、夫婦とか家族というのは、たぶん、すばらしいものなのだ。死ぬときはひとり、だって言うけれど、本当にひとりきりで病院のベッドで死を待つのは、あまりに寂しいものなあ。
本当に、良い小説だと思いますよこれは。ただ、最近多いのだけれど、オビに「涙!涙!!涙!!!」とか書いてあるのって、かえって逆効果なのではなかろうか。そんなに言われると、かえって押し付けがましく感じるので……

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