http://www.nagasaki-museum.jp/whats_new/kikaku/index.html(長崎県美術館のサイト ※音が出ます!)
↑のサイトに記されていた、ロバート・キャパの生涯。
1913年、ハンガリー・ブタペストで、ファッションサロンを営む母ユリアと父デジェーの間に生まれる。本名はエンドレ・フリードマン。17歳のとき左翼学生運動に加担したとの理由でハンガリーを追われベルリンへ向かう。写真の技術を取得して、パリへ。
パリで彼は恋人と、「金持ちで成功したアメリカの写真家・ロバート・キャパ」という架空の人物になりすまし、鮮烈なデビューを果たします。その後、スペイン市民戦争の報道で一躍名を挙げ(「崩れ落ちる兵士」は世紀の一枚といわれる)、以後雑誌「ライフ」の特派員として多くの戦争に従軍。日中戦争、第二次世界大戦、イスラエル建国時の中東戦争の最前線で歴史的なシャッターを切った。
伊達なスーツから軍服に着替えて戦車に乗り込み、飛行機から飛び下り、弾丸をかわしながら独自のレンズ眼で“人間”を記録しました。
彼はまた、ヘミングウェイとポーカーをし、ピカソとその家族の写真を撮り、女優イングリッド・バーグマンと恋に落ちました。作品と同様、彼のあふれる魅力とドラマティックな人生について、語り尽くされることがありません。1954年、日本取材中に緊急要請を受けインドシナ戦線へ渡り、地雷に触れ40歳の若さで死亡。
僕は中学生くらいのとき「ちょっとピンボケ」を読んだ記憶があるのですけど、「ロバート・キャパ」というのは、エンドレ・フリーマンと、彼の恋人であったゲルダ・タロー(ちなみにこれは彼女のペンネームで、タローというのは、当時パリに留学していて、彼らと親しくしていた日本人画家・岡本太郎さんからつけたのだそうです)という女性が売り込みのために作った「架空の人気カメラマン」だったのだそうです。
今回、この写真展で、ロバート・キャパが撮った写真の数々を観たのですけど、正直なところ、「もっと知っている写真がたくさんあるのかと思っていた」のですよね僕は。ところが、有名な「崩れ落ちる兵士」以外の写真は、せいぜい「どこかで観たことがあるなあ」という程度で、一目見ただけで「これこれ!」と言うような写真はありませんでした。
だからといって、この写真展がつまらなかったかというと全然そんなことはなくて、ロバート・キャパが撮った写真をたくさん見ていくと、キャパというのは「戦争カメラマン」ではあったけれども、彼が撮っていたのはあくまでも「人間」だったのだな、ということがよくわかります。それも、傍観者から見た「いい写真」「絵になる写真」ではなくて、「人間というものの深さや複雑さが切り取られている」ように思えました。彼の写真にうつっている人物は、「勝っていても笑っていない」し、「敗北の中にもしたたかさを秘めている」のです。まあ、僕はキャパ以外の写真家で知っているのは篠山紀信とアラーキーくらいのものなので、他の写真家の作品と比べることもできないのですが。
ところで、キャパが撮った「戦争の写真」をたくさん眺めていて、僕がもうひとつ痛切に感じたことは、「ジャーナリズムの怖さ」でした。キャパは日中戦争の時代に中国で写真を撮っていて、若き日の周恩来の写真なども残されているのですが、「日本軍の爆撃で家を失った中国人」というような写真を見ていると、僕の心には「こんなことをする日本は酷い!」という気持ちが湧き上がってきたのです。もしキャパが沖縄戦で犠牲になった人々や原爆投下直後の広島や長崎を撮って、世界に発信していれば、世界の人々はもっと、「日本人が傷ついてしまったこと」に対して同情したのかもしれません。
キャパの写真には「力」があって、それゆえに、彼の作品というのは、一方の陣営のプロパガンダに利用されてしまうという面も持っていたのです。写真そのものには罪はなくても、その「使い方」によって、それを見た人々の感情は、容易にコントロールされてしまいます。キャパが撮った「崩れ落ちる兵士」が、フランコ側の兵士であれば、歴史は変わっていた可能性もあるのです。
しかしながら、キャパのどんな作品よりも、僕にとってドラマチックだったのは、ロバート・キャパの人生そのものでした。
「キャパにはいつもオーラとカリスマがあった。昔から彼は人の眼をひきつけた。嫌う人もいれば、大好きになる人もいた。崇拝する人もいたが、無関心でいることだけはできなかった」
(旧友の談話)
不躾なのは承知の上ですが、これほど「カッコイイ人生」というのは、歴史上そんなに無いんじゃないかなあ。
ただし、キャパ本人は、こんなことを言っていたそうです。
「悲しむ人の傍らにいて、その苦しみを記録することしかできないのは、時にはつらい」
本人は「時には」つらかったのだろうけれど、たぶん、そういうキャパの「苦しみ」こそが、彼の写真の命なのだと僕は感じました。
僕はブログでも、そういう「記録することしかできないつらさ」を感じるものが好きなのだな、と、なんとなくわかったような気がしています。
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