琥珀色の戯言

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「世界征服」は可能か? ☆☆☆☆

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)

初の世界征服学!
アニメや漫画にひんぱんに登場する「世界征服」。だが、いったい「世界征服」とは何か。あなたが支配者になったとしたら? 思わずナットクのシミュレーション!

 書店で見つけて、思わず「タイトル買い」してしまった岡田斗司夫さんの著書。なかなか面白く、興味深い本でした。
 個人的には、前半部の「しょうもない世界征服計画を乱発している悪の秘密結社にツッコミを入れている部分」のほうが楽しく読めて、できればこっちのほうをもっとボリュームアップしてくれないかなあ、なんて思いもしたのですけど、この本の「価値」は、そういう「マニアが喜びそうなネタを集めた部分」だけではなくて、「支配する立場になるということのめんどくささ」なんてことも大真面目に語られているところなのでしょう。

 ちょっと古いのですが、『バビル2世』というマンガに出てくる敵の首領・ヨミ様は地球支配のために自分で組織をつくります。ヨミ様の一番好きなセリフが「世界に号令するのだ」ですが、命令好きのヨミ様、たいへんな働き者です。
 攻撃の計画を自分で立て、そのために必要な攻撃用ロボットのデザインをします。そのロボットを作らせるため、世界中から科学者をさらってきて、設計・発注します。ロボットができれば、作戦の細かいところまで決めます。その上、超能力も使えるので、超能力者のスカウトも自分でします。超能力のトレーニングメニューも自分で考えます。正義の味方・バビル2世が来たときには、自分が率先して戦います。
 さすがにヨミ様の部下も、ヨミ様を少しでも楽にしてあげようと、レーザー光線などいろいろな武器をつくってバビル2世と戦いますが、バビル2世はレーザーなどものともせず向かってきます。そうすると「大変だ、寝ているヨミ様を起こせ!」ということになります。
 本当にマンガの中で「大変だ、寝ているヨミ様を起こせ!」というセリフが何回も出てきて、ヨミ様は全然寝られないのです。
 このマンガでは、ヨミ様は超能力を使えば使うほど体が疲れて老けてしまうという設定になっています。おかげでヨミ様、どんどん老けていきます。
 それでも基地を攻撃されると「ヨミ様、大丈夫ですか」と心配する部下をふりきり「だが、ここで負けては、この基地が……」と超能力を無理やり振り絞ってがんばります。
 ヨミ様は、このマンガの中で3回も過労死します。
 やっつけられるのではなく、過労死が3回です。
 過労死したあとなんとか復活して、バビル2世を「えぇっ!」と驚かせるのですが、2回目も過労死、3回目も過労死で、最後には北極海に沈んでいってしまいます。すごくかわいそうな人です。

 この本には、『バビル2世』のマンガそのものも引用されているのですが、こうしてヨミ様を中心に見ていくと、本当に、「ヨミ様って、かわいそうだなあ……」と思えてきてしょうがありません。バビル2世も、もうちょっとヨミ様を休ませてやれよ、とか。自分で選んだ茨の道とはいえ、これでは世界征服どころか、自転車操業の中小企業の社長みたいなものですよね。この話に続いて、『DEATH NOTE』の夜神月もこの「過労死系独裁者」として取り上げられているのですが、確かにあれって夜神月にとっては、「自己満足」以外の何のメリットもない行為ですよねえ。「バレないように、世界中の悪人たちをひたすら調べて『成敗』していく」なんていう仕事、最初は快感でも、すごく苦痛になってくるのではないでしょうか。もちろん、良心の呵責みたいなのもあるでしょうが、純粋に「報われない仕事」ではありますから。

 いま、新世代型の「世界征服を企む秘密結社」を考えたとします。
 いままでの悪の組織はもう無理だ、不可能だとして生まれた「ネオ悪の組織」です。
 おそらく、その旗印は、アンチ経済社会ですね。つまり、「貧富の差をなくします!」「みんな、もっと貧乏になりましょう!」というわけです。
 次に、アンチ・ネットです。この世界をもう一度「情報」という信仰から解放する運動です。情報ではなく、生きた人間の発言、それも自分の知り合いの人を肯定し、それを尊敬して目指さなくてはならない。
 がんばって働いても貧富の差ができない社会で、なおかつ、世の中のことがさらにわからなくなる社会。ネットや「情報」に頼らず先生や上司や親などの「目上の人」の言うことを守る社会。すごいでしょう?
 まったく今の世界と逆行しています。というより、これこそが現代の「悪の理論」なのです。

 なぜそうなるの?と興味を持たれた方は、ぜひこの本を御一読ください。
 あと、子供の頃、卒業文集の「将来の夢」に「世界征服」と書いた男子たちにもオススメします。
 

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