琥珀色の戯言

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フルメタル・ジャケット ☆☆☆☆


フルメタル・ジャケット [DVD]

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巨匠キューブリック監督がベトナム戦争に鋭いメスを入れた、衝撃の問題作。
アメリカ南カロライナの海兵隊新兵訓練所に入隊したジョーカー、カウボーイ、パイルら若者たち。
殺りくマシンとして家畜のような猛訓練を受ける新兵を描いた前半と、彼らがベトナムで実際に体験する修羅場のような戦場を描いた後半の2部構成で、戦争と、それによって人間性を失っていく兵士たちの狂気を冷徹な視点で追う。
すべての戦場シーンをロンドンのセットで撮影し、ジャングルがまったく登場しない出色のベトナム映画。(山内拓哉)

噂には聞いていたのですが、この映画は本当に凄かった……
前半の海兵隊の新兵訓練の光景の最初のうちは、「あっ、『ファミコンウォーズ(のCM)』だ!』なんてニヤニヤしたり、ハートマン教官のあまりの口の悪さに苦笑したりしていたのですけど(いや、これ絶対に家族でとか付き合いはじめたばかりの恋人同士でとかは観ないほうがいいと思うよ)、次第に自分の顔が引きつってくるのがわかるのにもかかわらず、画面から目が離せないのです。
この作品の「戦争映画」としての凄さというのは、描かれていることがリアルで、けっして観ていて「面白い」はずはないのに、なぜだかこの作品世界に引きずり込まれてしまって、最後まで観てしまうところにあるのではないかと思います。戦争映画って、邦画もハリウッド映画も大部分は、「戦争のドラマティックな側面」を描こうとしていて、「すばらしい人間が、こんなふうに犠牲になってしまう戦争の悲劇。だから戦争なんてやめましょう!」という雰囲気の「反戦映画」がほとんどのような気がします。『プライベート・ライアン』なんて、「反戦」なのは、最初の壮絶な戦闘シーンだけで、最後のほうは「英雄譚」になっていますしね。まあ、それが「ハリウッド映画」なのでしょう。
でも、この『フルメタル・ジャケット』は、「軍隊や戦争というのは、そんな『ドラマティックなもの』ではなくて、もっとドライで感情を消失したものなのだ」ということを淡々と観る人の前に提示します。
「人間が悲劇的に死ぬのが戦争なんじゃない、人間が悲劇的に死んでも何も感じなくなるのが戦争なんだ」と。
この作品では、「人が兵士になり、戦争をすることができるようになるまでのプロセス」が、ときにはユーモラスなまでに残酷に描かれています。日本の戦争映画での「戦場で家族を懐かしんで語らう兵士たち」の姿は、この作品には一切ありません。もちろん、海兵隊員にだって、そんなつかの間の休息はあったのでしょうけど、この『フルメタル・ジャケット』は、そんな「人間的な姿」だけを拡大解釈して、戦争を「人間ドラマ」に仕立て上げてきた既存の「戦争映画」に対する、スタンリー・キューブリック渾身のアンチ・テーゼだったし、それは、現代でも十分通用していると思います。あのラストシーンのインパクトは、まさに「夢に出そう」。

ところで、某●ィズニーからクレームはつかなかったんですかねえ、あれって。
絶対何か言われそうだけどなあ……

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