琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

憑神 ☆☆☆☆


憑神 [DVD]

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参考リンク:『憑神』公式サイト

Amazonの「内容紹介」
【解説】
270万人動員ヒット作「鉄道員」から8年―「鉄道員」の浅田次郎×降旗康男コンビ復活!
スクリーンで観たい俳優ベスト1と映画ファンが支持する今、最も人気の俳優・妻夫木聡が主演!
この映画を観たらきっと、幸せになる勇気が湧いてくる!
全てのツイてない人に幸せ(ツキ)を呼ぶ、大型時代活劇。

【ストーリー】
神頼みのはずが、現れたのは三人の災いの神だった-。
時は幕末。別所彦四郎は、下級武士とはいえ、代々将軍の影武者をつとめてきた由緒ある家柄の出。幼いころより文武に優れ、秀才の誉れ高かった彦四郎だが、戦のない平和な世においては影武者の出番などあるはずもなく、毎日暇をもてあますばかり。出世はもはや神頼みしかないと、すがる思いで祈ったお稲荷はなんと災いの神をよびよせるお稲荷様だった―。どこか憎めなくも必殺の労災力を持つ、貧乏神・疫病神・死神の三人の神に取り憑かれる彦四郎。人生のツキに見放され、不幸の神様にとりツカれ愛されてしまった男の運命は?

【キャスト】
妻夫木聡/香川照之/西田敏行/赤井英和/江口洋介/佐藤隆太/夏木マリ/森迫永依/鈴木砂羽

【スタッフ】
原作:浅田次郎(新潮社刊)
監督:降旗康男
音楽:米米CLUB『御利益』(ソニーレコーズ)

劇場公開されたときは全くノーマークで、また妻夫木聡?また浅田次郎原作?という感じだったのですが、観てみたらかなり良い作品でした。いや、ベタといえばベタな話ではあるんですが、ひとつ間違えれば「お説教」になってしまう話をこれだけ「伝わる」ものにしてみせた浅田さんの原作とスタッフ、キャストの力は素晴らしいな、と。僕は途中から、「これは『銀河鉄道999』だなあ……」と思いながら観てしまいました。
正直、「大型時代活劇」なんかじゃありませんし、迫力の戦闘シーンがあるわけでもなく、「B級」感が炸裂しまくっているのですが、「愛情があふれているB級」なんですよこの作品。とくに主演の妻夫木聡さんは「いい役者」だなあ、と思いました。こういう強さと脆さと不器用さと優しさを併せ持った若者を演じられる人って、あんまりいないですよね。
出てくる災いの神が「三人」なので、途中までは、なんだかショートストーリー×3という感じで、こじんまりとまとめてしまったように思われたのですけど、たぶん、いきなり三人目のリューク死神が出てくる、「死神に取り憑かれた男」の話だったら、ここまで印象に残ることはなかったはずです。これを「三人の災いの神」という設定にするところが、浅田次郎さんのセンスの凄さなのでしょう。
本当はいろいろ書きたいのですが、けっこうネタバレになりそうなので、続きはネタバレ感想で。
年末に今年を振り返りながら観るには非常に良い映画だと思いますので、興味を持たれた方はぜひ。

以下はネタバレ感想です。



本当にネタバレなので、未見で今後観る予定の方は、読まないでくださいね。


こういう、「『死』が身近なものになることによって、『生』を実感する物語」というのは、まさに王道ではあるんですよね。黒澤監督の『生きる』もそうだし、『銀河鉄道999』もそうです。『死ぬまでにしたい10のこと』なんて作品もありました。この『憑神』は、それらの作品と比べて、圧倒的に優れている、というわけではないんですが(というか、『生きる』より凄い作品なんて、そうそうあるものじゃないでしょうし)、ユーモアをまじえながらも、「自分の死にかた」あるいは「生きかた」について考えさせてくれる佳作です。前半部分はむしろ喜劇調なので、最初から「いかにも」という展開よりは、観客としても世界に入っていきやすいですしね。
僕がこういう「自分が死んで志を遺す人の話」に弱いということもあるのでしょうけど。

この映画では、幕府側の残党とともに新政府軍に抵抗した彦四郎が大砲の弾を浴びるシーンまで描かれていて(そこで死んだかどうかまでは明示されていません)、最後に原作者の浅田さんが短い「後日譚」みたいなのを語って終わります。
ちなみに原作では、上野に出陣する彦四郎が、勝海舟から餞別に貰った大金を「出世払いじゃ」と友人の蕎麦屋に惜しげもなく渡して、「せっかくの死神を手放すなんてもったいないわ!」と悠然と死地に向かっていくシーンがラストなのですが、僕は原作どおりのラストのほうが圧倒的にカッコいいと思うのですが。こういうのも、先日の『プロポーズ大作戦』に対する「反響」と同じように「想像力が入り込む余地がないくらいに最後まで描かないと、納得してくれない観客がいる」ということのあらわれなのかもしれません。

僕がこの映画を観終えて感じたのは、実は「憑神」は四人いたのではないか、ということです。
浅田さんが本当に問いかけたかったのは、この四人目の神「武士道」について、ではなかったのかなあ。
現代人にとっては、ものすごく違和感があるこういう生き様、死に様は、果たして「バカバカしいこと」なのか?
人間いつかは死んでしまうはずなのに、ただ「生きのびること」だけを目的とした人生は、本当に「生きている」と言えるのか?

最後に、僕が今年最も印象に残った言葉を御紹介して終わりにします。この映画を観ていたら、この言葉が頭から離れられなかったので。

人生が終わることを恐れてはいけない。
人生が、いつまでもはじまらないことのほうが怖い。
(Don't be afraid your life will end; be afraid that it will never begin.)

                      グレース・ハンセン(アメリカの作家)

「死ぬこと」はたしかに怖いけれど、自分が死ぬときに「今まで生きていなかった」ことに気づくほうが、たぶん、よっぽど怖いですよね。しかし、そう言いながらも、僕自身も「どうやったら人生をはじめられるのだろう?」とこの年齢まで自問自答し続けているのですけど。

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