琥珀色の戯言

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エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜 ☆☆☆☆


エディット・ピアフ~愛の讃歌~ (2枚組)

エディット・ピアフ~愛の讃歌~ (2枚組)

1915年12月19日、パリの下町、ベルヴィル地区の貧しい家庭に生まれたエディット・ピアフマリオン・コティヤール)。路上で歌いながら生計を立てる母親とその日暮らしの生活、娼婦小屋で過ごした幼少時代、大道芸人だった父親との流浪の旅…貧しさといつも隣合わせだった生活を抜け出して生きるために見出したこと、それが「歌」だった。オリジナルヒット曲「愛の賛歌」「バラ色の人生」などを織り交ぜながら、ピアフが世界的に有名な歌手になるまでの成功と挫折、ルイ・ルプレ(ジェラール・ドパルデュー)、レーモン・アッソ(マーク・バルベ)、マレーネ・ディートリッヒ(カトリーヌ・シロヌ)との華やかな交友関係、そして最愛の恋人、マルセル・セルダン(ジャン=ピエール・マルタンス)との熱烈な恋愛を描く感動のドラマ。

 僕のエディット・ピアフという人に関する知識は、「ああ、『愛の讃歌』の人か……」というくらいのもので、今回この映画のDVDを手に取ったのも、マリオン・コティヤールさんがこの作品でアカデミー主演女優賞を獲ったから、だったのです。
 最初の1時間くらいは、エディット・ピアフの幼少期と晩年が交互に描かれるという演出にいまひとつついていけず(とくに外国の人の顔って見分けがつきにくかったりしますしね)、とりあえずピアフの歌声を聴くことだけを楽しみに観ていたのですが、中盤くらい、ピアフがスターになったあとにスキャンダルでバッシングされるところくらいからは、引き込まれるように見入ってしまいました。
 なんてドラマティックで、せつない人生なんだろう、と思わずにはいられないのですが、この映画では、エディット・ピアフを過剰に「美化」することもなく、「恋に一途な天才歌手」である一方で、今風に言えば「KY!」と言いたくなるような彼女の生き様を容赦なく描いていくのです。
 素晴らしい歌声を持ち、観客に愛された一方で、アルコールやモルヒネや恋愛に依存しないと生きていけなかったエディット・ピアフ
 もっと「穏やかな人生」を過ごせば、もっと長く歌えていたんじゃないか?と思ったりもするのですが、結局のところ「そういうふうにしか生きられない人」だったのかもしれないな、とも思うのです。それはもう、「幸福」とか「不幸」なんて他人が決められることではなくて。どんな生き方だって、その人にとっては『バラ色の人生』なのかな、とかね。
 この映画を観ながら、僕は美空ひばりさんのことを思い出さずにはいられませんでしたし、今の和田アキ子さんのこともちょっと考えてしまいました。他人の心を動かす「芸能」というのは、自分自身が満たされてしまっている人には難しいのだろうか?

 ちなみに、この映画、観終えたあと、特典映像の各国の予告篇を観ていたら、公開された国によって流れているピアフの曲が違っていたんですよね。制作されたフランスでは彼女が最後にレコーディングした曲だという『水に流して』、アメリカでは『バラ色の人生』、日本では『愛の賛歌』。サブタイトルが『愛の賛歌』なのに作品中ではそんなに大きく取り上げられていなかったのは、要するに「日本でいちばん知られている曲をサブタイトルにつけたから」ということのようです。個人的には、もうちょっと『愛の讃歌』を聴きたかったので、それはちょっと残念だったかな。ハリウッド映画や日本映画なら、クライマックスで代表曲が長々と流れそうなものなのですが、そのあたりの「突き放した感じ」は、いかにもフランス映画っぽいかも。
 それにしても、半世紀以上も前の曲で、これほど多くの人が「耳にしたことがある」ものは、ほんとうに希少ですよね。

 エディット・ピアフのファンの方はもちろん、「伝記もの」が好きな方にもお薦めです。環境が許せば、なるべく大きな画面と良いオーディオのほうが、よりいっそう楽しめると思います。

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