琥珀色の戯言

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大統領になりそこなった男たち ☆☆☆☆


大統領になりそこなった男たち (中公新書ラクレ)

大統領になりそこなった男たち (中公新書ラクレ)

1人のアメリカ大統領が誕生するまでには、落選者の累々たる屍が築かれる。
しかしその中には、後世に残る功績をあげた者も多い。
顕彰すべき偉人として、切手に描かれた8人の生涯を追う。


第1章 アレクサンダー・ハミルトン(一七五五〜一八〇四)―合衆国の生みの親は、なぜ出馬しなかったのか
第2章 ヘンリー・クレイ(一七七七〜一八五二)―五戦五敗の屈辱を味わった、“偉大な五人の上院議員”の一人
第3章 ウィリアム・ヘンリー・スワード(一八〇一〜一八七二)―“無難”なリンカーンに敗れた男の「塞翁が馬」
第4章 ウィリアム・ジェニングス・ブライアン(一八六〇〜一九二五)―アメリカ史上、最も人気のあった雄弁家の無念
第5章 アルフレッド・スミス(一八七三〜一九四四)―WASPの壁に果敢に挑んだカトリック信徒
第6章 ロバート・アルフォンソ・タフト(一八八九〜一九五三)―孤立主義を掲げ続けた“ミスター・リパブリカン
第7章 ダグラス・マッカーサー(一八八〇〜一九六四)―“リンカーン以来の英雄”の足をすくったものとは
第8章 ロバート・フランシス・ケネディ(一九二五〜一九六八)―兄と同じく銃弾に倒れたボビーの“予言”

出馬しなかった「合衆国生みの親」、リンカーンに敗れた男、第二次世界大戦の英雄、兄と同じく銃弾に倒れた男……。ひとりのアメリカ大統領が誕生するまでには、落選者の累々たる屍が築かれる。そのなかから、切手に描かれて、アメリカ史の教科書に載るほどの功績をあげた8人を選び、彼らの生涯を追った「偉大な敗者たち」の物語。本書は、敗者の側からみることで、もう一つのアメリカの姿を明らかにした、異色の歴史ノンフィクション。

僕は「歴史好き」を自負しているのですが、この本で取り上げられている8人のうち、知っていたのはマッカーサーロバート・ケネディの2人だけでした。
アメリカの大統領選というのは、「勝者」が歴史に大きく名を残すのに比べて、敗者はすぐに忘れ去られてしまうものですよね。
僕もマケインさんはさすがに記憶していますが、「4年前に(息子)ブッシュに負けたのは誰だったか、すぐには思い出せません。
しかし、この本を読んでみると、「大統領になれなかった男たち」にも偉大な軌跡を残した人、あるいは、残したであろう人がたくさんいるし、「大統領選」という大きな「選択」において、後世からみると、人々は必ずしも正しい選択をしていたわけではない、ということがよくわかります。

僕がとくに印象に残ったのは、アメリカ建国時に財務長官として活躍したアレクサンダー・ハミルトンの死についてのこんなエピソードでした。

 政治家としての前途を絶たれたバー(ハミルトンの政敵)は、せめて、選挙期間中に流布した不名誉な噂を打ち消して名誉回復を図ろうとして、ハミルトンに謝罪を要求する。これに対して、ハミルトンは要求を拒絶。このため、二人は決闘によって決着をつけることにした。
 決闘の日時は1804年7月11日、場所は、ニュージャージー州ウィホーケンの岩棚である。
 この決闘で、バーの撃った銃弾はハミルトンの胸に命中し、ハミルトンは翌7月12日に亡くなった。享年49。

いまほど平均寿命が長くなかった時代とはいえ、49歳というのは、まだまだこれから大統領の椅子を狙えた年齢のはずです。
でも、彼はあえて「決闘」に臨み、命を落としてしまった。
アメリカの建国時は、「そういう国」だったということなのでしょうね。いまの時代に生きる僕からすれば、「そんなの適当にお茶を濁しておけばよかったのに」と思わずにはいられないのだけれども。

あと、ロバート・ケネディは、この人が大統領になっていたら……と想像せずにはいられない人でした。
現実主義・快楽主義のJFKと、真面目すぎるくらいの正義漢ロバート。
兄の暗殺の悲報を受けたロバートは、開口一番「やられるのは私だと思っていた」と口にしていたそうです。
1968年の大統領選に出馬し、民主党候補となることが確実視されているなか、ロバートも凶弾に倒れます。

 ところが、6月5日にロサンゼルスのアンバサダーホテルで開催された、カリフォルニアでの予備選の祝勝会で演説した後、会場を出るための近道として調理場を抜けていく途中、24歳のパレスチナ系アメリカ人、サーハン・ベシャラ・サーハンがボビーを狙撃。銃弾は彼の右脳を損傷し、6日、ボビーは帰らぬ人となった。享年42。

「大統領を目指す者」は、調理場を近道することすら「安全」ではない。それでも、彼らは人前に姿をさらさないわけにはいかないのですから、まさに「命がけ」なんですよね。

しかし、民主党オバマさんに負けた共和党のマケインさんの事績を知ると、今回はともかく、8年前、せめて4年前に、どうしてアメリカ人は息子ブッシュではなく、ベトナムで拷問にかけられながらもアメリカとベトナムの修交を推進した善意の人、マケインさんを選ばなかったのだろう、と考えずにはいられません。そうすれば、世界はもう少しマシになっていたのではないかな、と。
歴史って、「より正しい者が勝つ」わけじゃないんですよね。それが面白いところではあり、悲しいところでもあり……

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