- 作者: 重松清
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/10/31
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 12回
- この商品を含むブログ (34件) を見る
内容(「BOOK」データベースより)
つらいときは、ここに帰ってくればいい。昭和37年、ヤスさん28歳の秋、長男アキラが生まれた。愛妻・美佐子さんと、我が子の成長を見守る日々は、幼い頃に親と離別したヤスさんにとって、ようやく手に入れた「家族」のぬくもりだった。しかし、その幸福は、突然の悲劇によって打ち砕かれてしまう―。我が子の幸せだけを願いながら悪戦苦闘する父親の、喜びと哀しみを丹念に描き上げた、重松清渾身の長編小説。
つい最近「父親」になったばかりの僕にとっては、なんだか自分のこれからの人生を先回りして見せられたような、そんな小説でした。
そうか、「父と子」って、こういうものなのか……
ただ、なんというか、この小説って、いまひとつ感情移入しにくい作品ではありました。
重松清さんは、本当に「巧い」作家だと思うのですが、近作の『その日のまえに』『カシオペアの丘で』、そしてこの『とんび』を読んでいると、先日『FNS歌謡祭』で聴いた、ミスチルの『HERO』の歌詞が頭に浮かんでくるのです。
♪ダメな映画を盛り上げるために 簡単に命が捨てられていく
『とんび』もそうですし、一連の重松さんの作品は、けっして「ダメ」ではなく、「良質」ではあると思うんですよ。
しかしながら、最近の重松作品は「読者を『感動』させるために、あまりにも簡単に人が癌になったり事故で死んだりしすぎ」だという気がします。
スケジュールが厳しいのか、「ありきたりのお涙頂戴小説」の濫発。
それでも、重松さんは「文章巧者」だから「読むと感動する」のですけど、僕が求めているのは、「母親が死んで、愚直な父親が周囲の人に助けられながら素直な子供を育てていく物語」よりも、「元気な夫婦なのにすれ違って子育てに悩み、周囲もサポートしてくれない物語」なのです。
『流星ワゴン』の頃は、「ストーリーそのものが面白かった」「このあとどうなるのか楽しみ」だったのに、最近は、どうせ「ストーリーには何の工夫もない『読者を泣かせる技術』に頼った作品」なんだろ、と斜に構えて読みはじめてしまう作品ばかり。
もっと「面白いもの」を書ける人だけに、僕はとてももどかしく感じています。
「それでも読まされてしまう」し、「評価されてしまう」のは、この作家にとって、幸福なのか不幸なのか?
この『とんび』って、いかにも『王様のブランチ』で松田さんが「今年のベスト1!」って言いそうな本です。
「定番モノで泣きたい」人にはオススメしますが、「新しいもの」を期待している人向きではないですね。