琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

なぜあの人は人望を集めるのか―その聞き方と話し方 ☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
ギスギスした職場で、部下たちは今、人望のある上司を求めている。では「人望ある」とは、どういう人か。理屈や正論を押しつけない、出世欲や権威を感じさせない、一緒にいるとリラックスできる、他人の痛みがわかる―など、その人間像を明らかにし、人がどう人望を集めるか、それを具体的なテクニックにして伝授。相談にきた部下がおのずと答えに気づく話の聞き方や、体験を生かした説得力ある語り口など、人間関係を劇的に変えるヒントが満載。

やっぱり、社会人としては、「人望」がある人になりたいですよね、できれば。
この新書、本文の内容は、率直に言うと「上司が酔っ払って居酒屋でネチネチ教えてくれるような、使い古された人生訓」が多いです。
周囲の人への「ちょっとした声のかけかた」などは、それなりに参考にはなるんですけどね。

 ある女性公務員の方に「この人は人望があると思った人はどんな人でしたか?」と質問したことがあります。
 彼女は自分が入職したときの上司だと答えてくれました。その上司は実務経験がまったくなかった彼女に一から指導してくれたそうです。
 教えるというより、部下が納得できるまで根気よくつきあうといった指導法だったのでしょう。上司はこう言ったそうです。
「わからないことはどんどん聞きなさい。わかることは説明するけれど、ぼくにもわからないことは一緒に調べよう」
 上から見て「俺が正しいのだから教えてやるよ」ではなく、「一緒に調べよう」というスタンス。ちょっといいな、と思います。
 彼女はこの上司に仕事だけでなく、どのように人と接していけばよいのか教えてもらった気がしたと話していました。

こういうのは、たしかに「いい話」なんだけど、その一方で、あまりにもいい人すぎて、なんかちょっといやな感じも僕はするんですけどね。
いや、この上司はこれだけ尊敬されているのだから、「有言実行」だったのでしょうが、こういうことを言う人の大部分は「口だけ」だから。
実際に、「一緒に調べる」のって、かなり大変ですしね。

本当に大事なのは、「言葉の使い方」ではなく、「自分自身の日頃の身の処しかた」ではないかと。

あと、この新書で気になったのは、「著者の知り合いの臨床心理士」がやたらと出てくることです。
飲み会で友達と喋っているのであれば、「そういえば俺の知り合いの臨床心理士が……」で良いと思うのですが、こういう書籍で「誰だかわからないけど、とりあえず専門家っぽい人」が引き合いに出されていると、かえって胡散臭さしか感じません。
その「臨床心理士」がそんなに有名な人じゃないから、あるいは、本人が表に出るのを嫌がったから、なのかもしれませんが、せめて名前、あるいは所属先などを明記しておいたほうが良いのではないかな、と。
僕は「医者」というカテゴリーで仕事をしているのですが、実は「医者」のなかでも個々の能力には大きな違いがあります。
「知り合いの医者がこう言っていた」という内容も、卒後すぐの研修医と専門医が言っているのとでは、ことばの信頼性は大きく異なります(まあ、「専門医」だから、「権威」だから、といって鵜呑みにできない場合もありますが)。
公に売られる本として、そういう「曖昧な肩書きの専門家」の言葉が頻出するのは、かえって逆効果です。
許されるのは、『美味しんぼ』の「俺の知り合いの劇画原作者」(山岡士郎談)くらいでしょうか。

この本で面白かったのは、著者の「上司のお説教」よりも、各章の最後のコラム「もう一言」のほうでした。これは、有名人の「人間関係についての言葉や体験談」を集めたものです。

 元阪神監督の吉田義男氏と言えば名遊撃手で知られた方ですが、『日経新聞』の「私の履歴書」でこんなことをお書きになっています。

 一年目38、二年目30。牛若丸は失策王とも言われたものだ。これだけ失策する遊撃手を使い続けた松本謙次郎監督は辛抱強い人だった。「人は失敗して覚える」が口癖で、失策してしょげる私に「もう一つエラーしてみろ」と言ったこともあった。プロで最初に巡り合った監督がこの人でなければ、以後の私はなかったと思う。

 そして自らも監督のとき「もう一つエラーしてみろ」と声をかけていたそうです。

この吉田さんの話、僕はとても好きです。
僕自身も、エラーを責められると萎縮して、さらにエラーをしてしまうタイプなので、こういう人が上にいてくれたら、きっとリラックスできるし、アグレッシブにやれるんじゃないかと思います。
ただ、それでも我慢して使うというのは、監督自身にとっては辛いことでしょう。
「なんであんなの使うんだ!」ってバッシングもされるだろうし。

まあ、医療の世界では「もう一つミスしてみろ」とは言い難いのも事実なんですけど、こういう話には、すごく考えさせられますし、僕自身も「失敗をプラスに変える意識」を持ちたいと思うのです。

「人間関係の悩みに対する特効薬」にはならない本ですが、薄いし読みやすいので、人間関係にちょっとしたヒントが欲しいときには、それなりに有益だと思います。


参考リンク:「コミュニケーション能力」について考える(琥珀色の戯言)

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