私が選ぶ名監督10人 采配に学ぶリーダーの心得 (光文社新書)
- 作者: 野村克也
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2018/07/18
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
私が選ぶ名監督10人?采配に学ぶリーダーの心得? (光文社新書)
- 作者: 野村克也
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2018/07/27
- メディア: Kindle版
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内容紹介
『野村ノート』から10年余りを経て、それにも書かなかったことを含め全てを本書に結集させた。
野球界へ贈る「遺書」である。
「選手の動かし方」で分ける監督の5類型
「管理」=川上、広岡
「納得」=川上、水原、森、落合、野村
「情感」=川上、三原、西本、星野
「報酬」=川上、鶴岡
「実績」=川上、長嶋、王
私は「監督の仕事、選手の育成とは、いかに自信をつけさせるか」に尽きると思う。 ほめるのが一つの手段であるし、しかも「タイミング」が大切だ。
そして、監督が使う言葉は、自分の意思を選手に伝達するための「武器」なのだ――
捕手として3017試合、監督として3204試合。日本プロ野球の黎明とともに生を受けた「球史の生き証人」が選ぶ10人の名将たち。歴史をつくったリーダーに見る、部下育成、人心掌握、組織再生の真髄。
野村克也さん、精力的に本を出し続けておられるのですが、これまで野村さんの著書を読んできた僕にとっては、最近の本は「以前読んだものの焼き直し感」が強いんですよね。
もちろんそれは悪いことではなくて、野村さんが言いたいことが一貫していて、知らない、体験していないことは書かないからだとは思うのですが、いま40代半ばの僕からみても、ここで選ばれている「名監督」10人の半分くらいは、あまりにも古いというか、すでに歴史上の人物なのだよなあ。
西本幸雄、川上哲治、森祇晶、鶴岡一人、三原脩、水原茂、長嶋茂雄、星野仙一、王貞治、落合博満、そして、野村克也。
ターゲットとしている読者層が、僕よりも年上の人たちなので、これでちょうどいい、ということなのかもしれませんが。
野村さんは、2009年まで楽天の監督をされていたので(とはいっても、もう10年前になるんですね)、もう少し若い監督、現役の監督についての評価を聞いてみたい(解説などで、断片的には言及されているのだとしても)。
今は、名監督不在の時代なのだろうか、それとも、野村さんは、「まだ評価が定まっていない」と考えているのだろうか。
まあでも、あらためて考えてみると、いまはそんなに長く監督を務める人はほとんどいませんし、最近の監督で候補になりそうなのは原辰徳さんくらいかな、という気もします。
カープファンとしては、この時代にリーグ三連覇を成し遂げた緒方孝市監督は、野村さんにはどう見えているのだろう、と気になります。
名将とはいっても、西武で大きな実績を残した森祇晶さんが、横浜の監督になってからはパッとせずに解任されたり、ソフトバンク時代の王貞治監督のように、最初は勝てずに移動のバスに生卵を投げつけられたりしている例もあるので、本人の能力とともに、そのときのチームの状態や参謀の力というのも大きいのです。
野村克也監督は、弱いチームを強くする知将でしたが、御本人も仰っているように、ヤクルト時代は優勝の翌年にBクラスなど、成績に波があり、阪神監督時代には3年連続最下位という屈辱も味わっています。
阪神は、後任に推した星野仙一監督が優勝を成し遂げているので、地固めはした、とも言えますが。
ちなみに、この本のタイトルは「私が選ぶ名監督10人」なのですが、「はじめに」のなかで、野村さんは、こう仰っています。
私が監督として評価しているのは5人しかいない。私がプロ入り時、すでに「プロ野球の三大監督」と呼ばれていたのが三原脩さん(巨人→西鉄)、水原茂さん(巨人)、鶴岡一人さん(南海)だった。プロ野球生活を実体験する過程で、さらに川上哲治さん(巨人)、西本幸雄さん(大毎→阪急→近鉄)が加わった。
本当は「監督として評価しているのは5人だけ」なんですね。
でも、さすがに2018年にこの5人だけだと売りづらいので、長嶋さんや王さん、星野さんを加えた、ということなのでしょう。
野村さんは、名監督を「管理」「納得」「情感」「報酬」「実績」の5つのタイプに分類しています(野村さん自身は「納得」だそうです)。
名監督のなかで、5つのタイプを兼ね備えている人がいて、それは、川上哲治さんなのです。
野村さんは、川上監督についての王貞治さんの言葉を紹介しています。
「川上さんは野球だけでなく、好きなゴルフでも麻雀でも、とにかく勝つまでやる。大変な負けず嫌いで、勝つまでやるから絶対に負けない。勝利に対する凄まじい執念があったからこそV9を達成できたのだと思う」
この本のなかでは、川上さんの「勝利への執念」の数々が紹介されています。
プロ野球の監督であれば、誰でも「勝ちたい」と思っているはずなのですが、その執念を持ち続け、そのための努力を惜しまないというのは、けっして簡単なことではありません。
勝ち続ければ油断も生まれるし、このくらいでいいかな、と満足してしまう。
川上さんに関するさまざまなエピソードを読んでいると、理想の監督(リーダー)というのは、ここまで孤独(あるいは孤高)なものなのか、とも思うのですけどね。
野村さんは、監督の仕事について、こう仰っています。
会う人ごとに聞かれる。
「プロ野球の監督の仕事で、一番大変なことは何ですか」
采配で言えば、投手の継投である。ただ、それ以前に、私は「監督の仕事」とは「気づかせ屋」だと考えている。
「固定観念は悪、先入観は罪」だ。だから「今のポジションが一番いいと思い込むのではなく、どのポジションが自分の長所を最大限に発揮できるか、もう一度探してみろ」と。
選手自身が気づいていない「潜在能力」を気づかせてやる。戦力として「適材適所」で活用し、的確な指導法で大きく育てるのだ。そうすれば、これまで以上に大活躍できるかもしれない。
つまり、監督の仕事とは「見つける」「生かす」「育てる」だ。
簡潔にまとめられていますが、これを実行するのは、本当に難しい。
この本のなかで最も印象に残ったのは、リーグ優勝を8度も成し遂げながら、一度も「日本一」になれず、「悲運の名将」と呼ばれる西本幸雄さんの話でした。
生前、西本監督は周囲にこう洩らしていたらしい。
「本当に私が悲運なら戦争でとうに死んでいる。3チームで素晴らしい選手に巡り合え、8度も日本シリーズに連れて行ってもらえた。あえて言うなら幸運な凡将や」
西本さんは日本一の監督にはなれなかったかもしれないけれど、本当に素敵な人だなあ、と僕は思います。