琥珀色の戯言

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日本人の誇り ☆☆☆


日本人の誇り (文春新書)

日本人の誇り (文春新書)

内容(「BOOK」データベースより)
「個より公、金より徳、競争より和」を重んじる日本国民の精神性は、文明史上、世界に冠たる尊きものだった。しかし戦後日本は、その自信をなぜ失ったのか?幕末の開国から昭和の敗戦に至る歴史を徹底検証し、国難の時代を生きる日本人に誇りと自信を与える、現代人必読の書。

あの『国家の品格』から6年。
藤原正彦先生、渾身の書!
……などというのを見て、ついつい買ってしまったのですが、率直に言うと、「うーん、これを読むなら、小林よしのりの『戦争論』シリーズのほうが、情報量にしても、歴史的検証にしても、そしてまた心に訴えかけてくる力も、よっぽど上なんじゃないか……」と思いました。
書いてある内容は、ほとんど同じですしね。
むしろ、この『日本人の誇り』のほうが、あまりに日本人を「美化」しすぎているような気がします。

 多くの欧米人がいろいろの観察をしていますが、ほぼすべてに共通しているのは、「人々は貧しい。しかし幸せそうだ」ということです。だからこそ、明治十年に動物学者として東大のお雇い教授となり大森貝塚を発掘したアメリカ人モースも、「貧乏人は存在するが貧困は存在しない」と言ったのです。欧米では一般に裕福とは幸福を意味し、貧しいとは惨めな生活や道徳的堕落など絶望的な境遇を意味していました。だから、この国ではまったくそうでないことに驚いたのです。

この項では、明治時代の初期に日本に来たさまざまな外国人たちの「日本人は貧しくても幸福そうだ」という言葉が紹介されているのですが、あの時代の外国人が、「本当に貧しい日本人がいる地域」を見聞することができたのか?という疑問もあります。
そういう本だから、しょうがないのだろうけれど、あまりに「日本の支配階層を美化しすぎている」ように思えるんですよね、藤原さんもそういう立場の人だから、しょうがないんだろうし、日本が「総中流社会」として、比較的「平等に近い社会」であったことは事実だとしても。


ただ、『バカの壁』のときも感じたのですが、新書のベストセラーというのは、けっこう「こんなのあたりまえじゃないか……」と言いたくなるようなことが書いてあるんですよね。
多くの人が理解できる程度の「あたりまえのこと」を平易に書くというのが「売るためのコツ」なのでしょうけど、なんというか、「昔の日本人はよかった」という懐古主義ばかりが目立つ印象で、これなら、前述の『戦争論』や『それでも日本人は「戦争」を選んだ』のほうが、はるかに「なぜ日本は戦争をしなければならなかったのか?」の真実に近いのではないかと。
アングロサクソン人は大局的な戦略に長けている」っていうのも、ある意味「差別」のようにも思えますし、なんかやたらと「共産主義者の陰謀」が繰り返されているし。

 1999年末、アメリカのAP通信社は、世界の報道機関71社にアンケートを求め、二十世紀の十大ニュースを選びました。5位がベルリンの壁崩壊、4位が米宇宙飛行士による月面歩行、3位がドイツのポーランド侵攻、2位がロシア革命、そして何と第1位になったのが広島・長崎への原爆投下でした。これだけの非人道的行為を、息も絶え絶えの日本に行ったのです。

「原爆は戦争犯罪である」という点などは、深く頷いてしまいますし、原爆投下というのは、多くの日本人が思っているよりも、「世界を変えた出来事」だったのです。
それは「悲劇」という面だけではなく、多くの国が「核を保有することによって、自国の発言力を高めたい」と考えたり、原子力発電所が世界に建設されるようになる「契機」になったことも含めて。
日本人には信じられない話なのだけれど、世界には「自国が核兵器を持つようになった」ことにお祝いをする国だってあったのです。


太平洋戦争が世界に与えた「良い影響」についても、歴史家・アーノルド・トインビーが英紙オブザーバーに書いたという、こんな言葉を紹介しています。

「日本は第二次大戦において、自国ではなく大東亜共栄圏の他の国々に思わぬ恩恵をもたらした。(中略)それまで200年の長きにわたってアジア・アフリカを統治してきた西洋人は、無敵で神のような存在と信じられてきたが、実際はそうでないことを日本人は全人類の面前で証明してしまったのである。それはまさに歴史的業績であった」(1956年10月28日付・藤原正彦さん訳)

歴史には、たしかに「そういう一面」もあるのだと思います。
子どものころから「平和教育」を受けてきた、もうすぐ40歳の僕には、なかなか素直には受け入れられない面はあるとしても。


藤原先生のこれまでの人生を考えると、「太平洋戦争に向かわなければならなかった日本の事情」に共感してしまう気持ちもわかります。
Wikipediaの記載より。

戦後いずれも作家となった新田次郎藤原てい夫妻の次男として、満州国の首都新京に生まれる。ソ連軍の満州国侵攻に伴い汽車で新京を脱出したが、朝鮮北部で汽車が停車したため、日本への帰還の北朝鮮から福岡市までの残り区間は母と子3人(兄、本人、妹)による1年以上のソ連軍からの苦難の逃避行となった。母・藤原ていのベストセラー『流れる星は生きている』の中でも活写されたこの経験は、本人のエッセイの中でも様々な形で繰り返し言及されており、老いた母を伴っての満州再訪記が『祖国とは国語』(2003年)に収録されている。

こんな体験があれば、ソ連に対して、反感を抱くのは自然な感情だと思うんですよ。
藤原先生ほどの人でも、「先入観」からは逃れられない面もある。
「日本人の誇り」というより、「あの戦争(太平洋戦争)は間違っていたのか?」という問いかけの本のように思われますが、それはある意味「あの戦争」に対する戦後日本の向き合いかたこそが、いまの「日本人の誇り」を左右しているからなのかもしれません。


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