琥珀色の戯言

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収監 ☆☆☆


収監 僕が変えたかった近未来

収監 僕が変えたかった近未来

内容紹介
懲役2年6カ月の実刑が確定したホリエモン。収監を目前に控えた彼が、インターネットから特捜検察、婚活や東日本大震災まで、問題を抱える日本の近未来を鋭く予測し、ばっさり斬る。批評家・東浩紀氏との対談も収録した注目の書。


週刊朝日』に連載されていたからなのか、いつもの堀江さんの本に比べると、ちょっと堅い感じがするエッセイ集。

もっと「刑務所に入る前の心境」とかが、ざっくばらんに語られているのではないかと期待していたのですが、その点はちょっと残念でした。
(『週刊朝日』に「ホリエモンの近未来大予測!」が連載されていたのは、2010年7月から、2011年5月号までだそうなので、ほとんどは、いつ収監されるかわからない状況で書かれていますから、致し方ない話ではあるのですが、それなら『収監』っていうタイトルは、ちょっと釣りっぽいな、と)

 私は保釈中に週刊朝日で連載を始めた。私が情報収集を徹底することにより、近未来(私的にはそれが現在なのであるが)を予測して、言い当てているようにみえたていたことで、「ぜひ連載を」というありがたいお話をいただいたのである。その連載に書き下ろし作品を加えたのがこの本である。ちょうど収監のタイミングだったので「収監」というおどろおどろしいタイトルになってはいるが、これはあくまでも日本や世界のこれからの近未来がどうなるかを私の視点で語った本である。

検察のこと、政治のこと、IT社会のこと、お金のこと……
内容は多彩なのですが、どちらかというと、「あたりまえのことが、あたりまえに書かれているだけ」で、いつもの堀江さんのエッセイほど、「挑発的」ではありません。
週刊朝日』という媒体の影響なのか、それとも、堀江さんの「暴言」を引き出してくれる「話し相手」がいないと、こんなものなのか?
基本的には、真面目で融通がきかない人なんだろうなあ、と思いながら読みました。
ほんと、週刊誌の連載エッセイだったら、どんな堅いテーマでも、「笑えるところ」を多少は入れるのではないかという気がするのですが、そういう「脱線」もほとんど無いですし。


もちろん、堀江さんの専門である、IT社会については、なるほど、いう指摘が随所にみられます。

 私はこれから収監されるが、それが終われば、日本中、いや世界中を飛び回りながらいろんなところで仕事をしていきたいと考えている。ひとつのところに滞在しなくても、インターネットを使えばスカイプなどのテレビ電話機能を使って会議やインタビューを行うことも可能だし、もしトークライブをやりたければニコニコ動画ユーストリームを使えばいい。
 このような現状で、私は大きな企業を作ることに疑問を感じつつある。せっかくインターネットの登場で便利になったのに、会社のパソコンは持ち出せなかったり、会議室で携帯電話の使用が禁止されたりするケースも珍しくない。過度なセキュリティは従業員を性悪説で見ることになっている証左でもある。実際、前職時代は社内監査を外注して行っていたが、その過程で不正が見つかることが頻発した。そんな会社を経営することに、はたして意味があるのだろうか。最近はそのように思うことが多くなった。
 私が提案したいのは、単独あるいは小規模組織が案件単位でチームを組んで独立採算で仕事をする新しい働き方だ。もはや大規模組織は、クラウドサービスなどの普及でメリットよりもデメリットのほうが大きくなった。

こういうのって、たぶん、気付いている人にとっては、目新しくもなんともないのでしょうけど、たしかに、「これからの時代、大規模組織である意味があるのか?」という指摘には頷いてしまいます。
僕も、おそらく堀江さんが書いているような方向にすすんでいくのではないかと思います。
その一方で、会社という組織に守られなくなれば、大部分の「飛び抜けた力が無い人(僕もそうです)にとっては、どんどん生きづらくなっていくのかもしれません。


この本を読んでいて、ちょっと引っかかったのは、「専門外のところでの、堀江さんの無防備さ」でした。

 振り返れば、2004年の球団新規参入騒動で、私は渦中にあった。もともと球団を持とうと考えたのは私の地元福岡の講演会での出来事だった。講演を終えた私に話しかけてきたのが当時のダイエー球団関係者だった。冗談だったとは思うが、関係者は私に「ダイエー球団を買いませんか?」と語りかけてきたのだ。

 今回の(原発)事故でも、現地の作業員などを除けば健康被害が起こる可能性は低い。さらに日本産の農作物や工業製品を使うくらいで有意差のある健康被害など発生するわけはないのに、BSE問題と同じように各国政府は日本製品に対して過剰な対応をすることだろう。

前者については、「冗談、あるいはお追従だろそれは」と僕なら思ったはずです。
当時、ダイエーホークスの経営が厳しかったのは事実なのですが、それでも、「一球団関係者の『買いませんか?』で、少しでもその気になってしまう」というのは、あまりに素直すぎるのではないかな、と。
そして、後者はもう言わずもがなです。
堀江さんは、「健康被害が起こる可能性が低い」と、サラッと書かれていますが、チェルノブイリ後に、現地の人々にどれだけの健康被害が出たかなんてことは、それこそ、ちょっとググレばわかることです。
知らない、あるいは「わからない」のなら、それなりに調べて書くか、触れなければいいのに、それでも「知ったかぶり」をしてしまう。
堀江さんの「IT社会」に対する未来予想は、かなり正確だと思われます。
しかしながら。堀江さんは、「わからないことを、わからないと言えない」。
それが、堀江さんのいちばんの弱点なのではないでしょうか。


悪気はないはずです。
堀江さんは、コンピューター、そしてインターネットの力を信じているのでしょう。
そして、「合理的」であることを、最上の価値だと判断しているように見えます。
ところが、「自分の力を信じすぎている、あるいは、カッコ悪いことはしたくないという美学にこだわりすぎている」ことによって、自分の首を絞めているのです。


「堀江さんは、心の中で、舌を出しながらも、土下座でもして、執行猶予を求めるべきだったのではないか」と、僕は考えてしまうのです。
収監されるときに、「頭をモヒカンにする」なんて、中途半端な「反抗」のポーズをしてみせるくらいであれば、泥水を飲んでも、刑務所に入らずにすむように「恭順」してみせればよかったのに。
モヒカン頭なんて、所詮、中学生の反抗です。
僕は堀江さんの本を何冊も読んでいるし、同世代人として共感しているところもたくさんあるのです。
この年齢での「2年」は、本当に大きいよ。


最後はかなり脱線してしまいましたが、正直、この『収監』というタイトルには、釣り要素満載なので、御注意ください。
つまらなくはないのですが、「ホリエモンらしさ」は、これまでのエッセイのなかでも、かなり薄いと思います。


徹底抗戦 (集英社文庫)

徹底抗戦 (集英社文庫)

「堀江さんらしい本」を読むのであれば、こちらのほうがオススメです。文庫になってますし。

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