解説: 登山中の思わぬアクシデントで究極の選択を迫られた若き登山家アーロン・ラルストンのノンフィクションを基に、『スラムドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイル監督が映画化した感動的なサバイバル・ドラマ。山中で断崖に腕を挟まれた状態のまま、生と死のはざまで127時間を過ごした登山家を襲う絶望と希望を、圧倒的な映像で描く。『スパイダーマン』シリーズのジェームズ・フランコが、迫真の演技で登山家を熱演。主人公が見せる生命力の強さに胸を打たれる。
2011年16本めの劇場鑑賞作品。
公開初日の土曜日の19時からの回で、観客は30人くらいでした。
けっこう前評判が高く、期待していたのですけど、「こういうのがカッコいいと思ってやってるんだろうけど、見づらいだけなんじゃない?」と思われるような目まぐるしい場面転換と意味不明の映像が続くオープニングに興ざめし、序盤のアーロンの「アウトドアナンパ野郎」っぷりに感情移入が難しい映画ではありました。
そんな「爽やかアウトドア野郎」の物語も、主人公のアーロンが、岩に腕を挟まれるシーンで暗転。
この作品の凄まじさは、主人公・アーロンの「痛み」や「苦しみ」がスクリーンを通じて、観客に伝わってくるところです。
上映中、何人かの人が、顔をしかめながら、シアターの外に出ていきました。あれを飲むシーンなんて、僕もかなりつらかった。
とはいえ、大震災の映像を何度も観ている影響なのかどうかはわかりませんが、フィクションのどんな惨い映像をみても、「それでも、あの震災に比べたら……」と考えてしまう自分もいました。
自分が被災したわけでもないのにね。
アーロンが「脱出」のためにとるべき「正解」がひとつしかないことは、観客にも、アーロン自身にもよくわかっています。
でも、それを実際に行うことは、とても難しい。
なんとかなるんじゃないか?と考えずにはいられません。
最終的に、彼がどうなるかは、ネタバレになるので書きませんが……
しかし、この映画のタイトルの『127時間』って、それだけでかなりのネタバレではありますね。
「少なくとも、127時間経つまでは、決定的なことは起こらない」ことを、観客は察してしまうのだから。
94分間と、短めの映画なのですが、観終えて、一気に力が抜けてしまいました。
僕も観る前は「短いな」と思っていたのだけれど、これ以上長いと、途中で緊張感に耐えられず、退席してしまったかもしれません
「痛み」のリアルな描写こそ、この映画の生命線なのですけど、妊娠中の方や血を見るのが苦手な方、食事摂取直後の方などには、おすすめしかねます。
最初は「どうも感情移入できないな」と思いながら観ていたこの映画、最後の場面では、なぜか僕も泣いてしまいました。
『さや侍』の美学は、「僕としては受け入れ難かった」のですが、この『127時間』では「みっともないくらいの生きることへの執着」に、なんだかすごく勇気づけられたような気がしたのです。
「生きろ。」
ああ、そういえば、自然と闘って大事なものを失うという点で、この『127時間』は、『もののけ姫』と共通点を持っているなあ。
「その後」の選択についても。
残酷描写が苦手な方は避けたほうが無難な作品ですが、大勢の人々の「統計的な数字としての死」に圧倒されている、いま、この時期だからこそ、「ひとりの人間の生命力」を再確認できるこんな作品を観るべきなのかもしれません。
最後に、印象に残ったシーンをひとつ。
主人公は女性ふたりを案内しながら、「岩なんてしょっちゅう落ちてるさ、自然ってそういうもの。あとは、自分がそこにいるときに落ちてこないのを祈るのみ、だね」と達観したような言葉を口にしていました。
でも、自分の腕が岩に挟まれてみると、「このファッキンロックがあーーっ!」と嘆き悲しみまくります。
こういうのがまさに、「誰かに起こる可能性があることだとわかっているのに、それが自分に起こると受け入れられない」という人間の「本心」なんですよね、きっと。