琥珀色の戯言

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社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう! ☆☆☆☆


社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう!

社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう!

内容紹介
自分の目で見て、自分の足で歩いて、自分の心で感じよう!
社会派ちきりんの世界の見方。
いま、一番日本で影響力のある大人気ブログ「Chikirinの日記」著者の待望の最新刊!


内容(「BOOK」データベースより)
メディアで流れる世界のニュースは本当なんだろうか?私が今信じているこの価値観は世界でも通用するのか?自分のアタマでよーく考えてみよう。


 僕は海外旅行って、あまり得意じゃなくて、はじめて海外に行ったのは、大学を卒業した、20代半ばの頃だったんですよね。
 それも、彼女(現妻)に半ば強引に連れ出されるような感じで。


 もともと、乗り物酔いが酷くて交通機関での移動が苦手、さらに、英語も苦手だし、知らない人とコミュニケーションをとる意欲にも乏しい、そんな人間ですから。


 でも、一度海外旅行、とくにオーストラリア、アメリカのラスベガスに行ってからは、知らない国、知らない人とのコミュニケーションの煩わしさよりも、未知の世界への興味のほうが強くなって、最近は年に1回は海外に旅行しています。
 といっても、ひとり旅なんて怖くてできないし(というか、現地でひとりで買い物をするのだって、おっかなびっくり)、現地ガイドやオプショナルツアーを利用することばかりなんですけど。


 そういう僕からすれば、ちきりんさんのこの本は、眩しすぎるというかなんというか。
 まあ、いまの大部分の日本人にとっての「海外旅行」って、しょっちゅう行っている人にとっては、肩肘はって行くようなものじゃないだろうし、行かない人にとっては、高嶺の花であったり、わざわざ海外に行く必要なんて感じないものだったりするのかもしれません。
 どんな秘境だって、日本ではたいがいテレビで紹介されていますので、それを「再確認」しに行くようなものですしね。

 ちきりんが海外旅行を始めた1980年代初め、日本では外国から来た労働者はほとんど目に付きませんでした。だから初めての海外旅行で、ロンドンのヒースロー空港に降り立った際、空港のバーガーショップで働く人を見てびっくりしました。アングロサクソンの国に来たはずなのに、アフリカに来たかのように思えたからです。それはフランスでゴミ収集をしている人も、ドイツの建設現場で働く人も同じでした。私は当時の日本では見たことのない風景を目の当たりにして、大いに困惑しました。
 しかしその直後に始まったバブル期には、日本でも3K(「危険、汚い、きつい」の頭文字)と呼ばれる職場をはじめとして、続々と外国人労働者が増え始めました。産業界の要望に応じて、中国からの技術研修生の受け入れや、日系ブラジル人の出稼ぎ就労が始まったのです。さらに、アジアから日本にやってきた留学生の多くが、生活費を稼ぐため、ファストフード店やコンビニでアルバイトを始めました。こうして私が25年前に欧州で見た風景は、今や日本の風景となったのです。

 僕も一度だけ、5年前くらいにヒースロー空港で乗り換えをしたことがあるのですが、そのときに驚いたのは、ファストフード店での店員さんの態度の横柄さでした。
 つたない英語で注文しようとすると「はぁ?」って感じの露骨に癒そうな顔をされて、なんだかすごく腹が立ち、そして、悲しくなりました。
 こんなんで、客商売できるの?って。
 でも、日本ほど、どんな店でも丁寧な接客をしてくれる国のほうが珍しいんですよね、実際は。


 この本を読んでいて感じたのは、ちきりんさんの海外での興味の対象でした。
 もちろん、綺麗な風景やおいしい食事も堪能されてはいたのでしょうけど、こんなふうに「その国の人々の生活を観察する旅」っていうのもあるのだなあ、と。
 いわゆる「横の比較」だけではなく、「縦の比較(同じ土地での、時間が経っての変化)」もされているのが、すごく印象的でした。
 海外旅行って、一度行ってしまうと、「ああ、あの国はああだもんね」なんて、知ったかぶりをしてしまいがちなのですが、人が暮らす土地の雰囲気というのは、常に変動しているのです。

 ドイツのベルリンにあるペルガモン博物館にも、古代遺跡の出土品が多く展示されています。全体を再現展示されている「ゼウスの大祭壇」は、それがもともとあったトルコのベルガマ遺跡の荒涼とした雰囲気を思い出しながら、同じく「イシュタール門」はイラクにある古都バビロン遺跡を想像しながら鑑賞します。
 どちらも息をのむほど美しく装飾されており、これを都会の美術館の屋内ではなく、古代遺跡の現地で鑑賞できれば、どんなにすばらしいだろうと思います。しかし同時に頭に浮かぶ問いは「でも、本当にそれが一番いいと言えるだろうか?」ということです。
 これらの文化財を自国に持ち帰った欧米諸国は、当時の世界において圧倒的な経済力や政治的安定性を誇っていました。もしも彼らがそれらを自国に持ち帰っていなかったら、今頃どうなっていたでしょうか。
 欧米の博物館は、文化財の維持、保存に多額の費用をかけ最先端の技術を適用しています。修復や調査研究でも大きな成果をあげており、それらにより新たに判明した古代の事実も多いのです。さらに大半の国は、それらを安いコストで誰にでも鑑賞できるように展示しています。
 一方、古代遺跡が存在した国の多くは、少なくとも今まではそんな多額の予算を文化財保護のために投入することはできなかったでしょう。予算がなければ、長期間、風雨にさらされて毀損してしまったかもしれないし、盗掘や盗難に遭う可能性も少なくありません。

僕も美術品鑑賞が大好きなので、この件については、「ああ、同じようなことを考えている人もいたのだなあ」と、嬉しく感じました。
植民地時代に欧米が「持ち帰った」美術品も、結果的に「多くの人が見られる環境」に置かれています。
それが「正しい」かどうかはさておき。
そういうのって、やっぱり、その美術品の母国の人にとっては、「腑に落ちない」ことではあるんでしょうけど。


ボストン美術館は、日本の美術品のコレクションで有名なのですが、現地で人が集まっていたのは、ゴッホやモネ、ルノアールなどのヨーロッパの絵画の部屋ばかりで、日本の美術品の展示室にはあまり人がおらず、「ああ、これ日本に持って帰りたいなあ」と悲しくなったことを思い出しました。
でも、ボストン美術館が、日本の美術が不遇な時代に「評価」し、コレクションして保存したというのもまた、歴史的事実なわけで。


各国の美術品の展示様式の違い、なんていうのも面白かった。
日本の美術館の特別展では、だいたい年代別に展示されていることが多いようですが、それは「世界標準」ではないんだなあ、と。
というか、日本にも、「日本の美術品を観るなら、まずはココ!」というような美術館が、どこかにひとつあっても良さそうな気がします。


正直、「こんなに世界を回れる(時間的にもお金にも)余裕がある人はいいなあ」なんて妬ましくもありましたし、いままでの「身近なところからの気づき」に比べると、ちょっと実感しにくいところもありました。
勝間和代さんの『有名人になるということ』の、「本を書き始めたときには、いままでの貯金を使って書けるけど、何冊も書いているうちに、ストックがなくなってきて、あらためて勉強したことを書かなければならなくなり、内容が薄くなる」なんていう話も思い出したりはしたんですよね、いままでとちょっと違う「外国旅行」が題材になっていることについては。
これから、高頻度に本を書かなければならないとすれば、ちきりんさんも大変だろうなあ、と。


この本のなかでは、「幸せとは何か?」についての問いかけが、何度も行われています。
マスメディアが伝える「あの国の不幸」は、本当に正しいのだろうか?
みんな「メディアを疑え!」って言っているわりには、外国のこととなると、「予備知識に乏しい」こともあり、ついつい鵜呑みにしてしまいがちです。

 それにしても、いつ行っても曇天で気の滅入るロンドンや、「最も美味しい食べ物はジャガイモとソーセージだ」という(グルメの私には耐え難い)ドイツ、太陽の光を得るためにわざわざ飛行機にのって移動する必要がある北欧が経済発展し、「神からのギフト」と言われるほどに美しい海や島々をもちギリシャ財政破綻の危機にあることは、とても興味深いことです。人間も国も、恵まれすぎていると頑張らなくなるのでしょうか?
 努力しなくても、太陽の光や自然の恵みをふんだんに受けていられるから、危機感が持ちにくいのでしょうか?
 それでも、もし私が「次に生まれ変わる時に、北欧に生まれるか南欧に生まれるかという、ふたつの選択肢を持っていたら、どちらに生まれたいか」と聞かれたら、一秒も迷わず答えることができます。ギリシャで失業や経済停滞に困っている人達の多くも、「社会福祉が整っていて、失業率の低い北欧に移民したいか?」と聞かれたら、きっと答えは同じであろうと思います。

ネガティブなニュースばかりが伝えられる国でも、現地では、けっこうみんな幸せそうだったりするんですよね。
やっぱり、そこの空気を吸ってみないと、その国のことを実感するのは難しい。
僕の場合、このケースでは、北欧のほうがいいような気がするのですが。


僕も、この本を読んで、またいろんな国に行ってみたくなりました。
「海外旅行って言っても、綺麗な景色をみたり、現地のそんなに美味しくもない名物を食べるだけで、そんなに面白くないよね」という人(要するに、昔の僕みたいな人)のほうが、「ちょっと世界を覗いてみるかな」と重い腰が上がる本だと思います。
海外に行くと、「日本の良さ」を痛感することも多いですし。
「若者の海外離れ」が進んでいる時代だからこそ、「海外の空気を吸うこと」には、アドバンテージが出てきそうですしね。

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