琥珀色の戯言

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【読書感想】書店員が本当に売りたかった本 ☆☆☆☆


書店員が本当に売りたかった本

書店員が本当に売りたかった本

出版社からのコメント
最後くらい、自分たちが本当に売りたい本を売ったっていいじゃないか!
閉店を目の前にして、誰ともなく言いだした企画は店全体を巻き込む大フェアになり、ネットを介して、「棚がアツい! 」「本への愛情が炸裂している! 」と瞬く間に多くの人に広まりました。多くの人の心を動かした手描きPOPを新宿店の棚にある状態そのままで撮りおろし掲載。書店に足を運びたくなる、魂のPOP集。

ジュンク堂新宿店の「閉店セール」、ネットでもかなり話題になっていましたね。
参考リンク:閉店する「ジュンク堂」書店員の最後の本気(NAVERまとめ)


残念ながら、僕自身は遠方ということもあって直接行くことはできなかったのですが、ネットでの本好きたちの熱い反応をみて、「うらやましいなあ、行きたいなあ」と思っていました。
この本、「伝説の閉店セール」で、本につけられていたPOPの数々を、セール時の写真で紹介しています。
内容は、8〜9割POPの写真。
書名、著者名、出版社名は紹介されていますが、書影はPOPの陰になってほとんど見えない本がほとんどです。
それぞれの本の「あらすじ」も紹介されていません。

 文庫化なんて待たずに 今すぐ読んでほしい。(『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』新潮社)

 かっこいい内装のピザ屋で、店内とピザを一心不乱にケイタイで撮影している女性がいた。
 ブログにでものせたいのかもしれないが、あの姿には正直引いた。
 ネットでの自分をアピールする手段で、現実社会で変人扱いされるのどうですか?
 何か見失っている気がする。
(『自己愛過剰社会』河出書房新社

 まさかこんなベストセラーになるとは…
 いろんな意味でこの7年間で一番印象に残った本です。
(『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』ダイヤモンド社

こんなふうに、その本への熱い思いやオススメの言葉もあれば、書店員さんの個人的な感想もあり。
シンプルな言葉もあれば、思いがあふれて、POPに入りきれないような長いコメントもあり。
個人的には、ヘンリー・ダーガーの資料部屋をみて、「この人はものもちが良いね」「空の色がキレイやが、あと子供さんが可愛いが」と祖母が言っていたというPOPがすごく気に入りました。
そうだよね、本には、いろんな読みかたがあるんだ。


これほど「紹介されている本を読んでみたくなる」ことって無いよな、と感心してしまうくらい、「この本を売りたい、誰かに読んでもらいたい!」という、書店員さんたちの本への愛情が、つまっているんですよこの一冊には。


僕は最近、「書店のPOP商法」にちょっと食傷気味で、面白くない本をPOPで大々的に宣伝して売ろうとしているのを見ると、「うずくまって泣きました詐欺」と内心毒づいているのですが、この本で書店員さんたちが紹介している本って、「まず、僕が自分から手にとることはないだろうな」と思うような、比較的マイナーなものが多いのです。
もし書店で見かけて気になっても、値段が高かったり、出版社の名前を聞いたことがなかったりで、「本当にこれ、買ってもだいじょうぶなのだろうか?トンデモ本じゃないだろうか?」って考え込んでしまうものもあります。
でも、「ジュンク堂の書店員さんたちが、これだけ薦めている」というだけで、なんだかすごく安心できるな、と。


僕はこれを読みながら、こんな書店がある新宿・そして東京というのは、やっぱり「文化の裾野が、地方よりもはるかに広いな」と感じました。
ここに並べられているのは、いくらネットサーフィンをしたりAmazon内をうろついたりしても、僕にはなかなか見つけられない本だから。


「書店員」という仕事は、地味な重労働だけれども、「本を並べることによって、世界を少しずつでも変えられる可能性がある」のではないか、と感じたのです。
その本を買わなくても、POPを読むだけで、「いまの世界にある問題のかけら」を知ることができる。
書棚をつくるというのは、それだけで、ひとつの世界をつくることでもあるのでしょう。
もちろん、いまの大部分のリアル書店にはそんな余裕はなくて、「なんとか売れる本を仕入れて並べているだけ」なのが現実なのだとしても。
街の小さな書店にも、きっと、「これを読んでほしい」と思っている本を、そっと目立つように並べている書店員さんがいるのではないかな、と想像してしまいます。

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