- 作者: 西加奈子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2012/08/07
- メディア: 単行本
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マルキ・ド・サドをもじって名づけられた、書籍編集者の鳴木戸定。
彼女は幼い頃、紀行作家の父に連れられていった旅先で、誰もが目を覆うような特異な体験をした。
その時から、定は、世間と自分を隔てる壁を強く意識するようになる。
日常を機械的に送る定だったが、ある日、心の奥底にしまいこんでいた、自分でも忘れていたはずの思いに気づいてしまう。
その瞬間、彼女の心の壁は崩れ去り、熱い思いが止めどなく溢れ出すのだった――。
「ひとり本屋大賞」9冊目。
西加奈子さんは『さくら』を読んで以来、僕にとっては「苦手な作家」でした。
まあ、なんと言いますか、いかにも宮〓あおいさんが喜んで演じそうな「自意識過剰で、自分では社会にうまく適応できていないという振る舞いをするけれど、実際は『普通のひと』」が描かれているのが、どうもダメで。
「私って、変わってるよね!」って言う人の「ありきたりさ」っていうのは、日常で飽き飽きしてもいるから。
それで、この『ふくわらい』なのですが、正直、僕はやっぱり苦手でした。
こんな女、いねーよ!って何度ツッコミを入れたことか。
でも、西さんの小説のなかでは、いちばん好きでもありました。
定は、「自称ヘンな人」じゃなくて、実際の行動もかなり過激ですしね。
皆が皆、顔を隠さずに歩いていることが、すごいと思う。顔の肌も、乳房の肌や、内腿の肌と同じなのに、堂々と白日の下にさらして、しかもそれが、ひとりひとり、違うのだ。
これを読んでいると、人間にとって、「顔」とは一体何なのだろうか?と考えてしまいます。
むしろ、なぜ、「顔は見せて歩いて良い」ことになっているのか?
逆に「顔を隠す文化」にも、それなりの理由もあるのだろうな、と。
あと、「感情」っていうもののあてにならなさ、とかね。
奇人変人大集合みたいな小説は、なんだかとても「ズルい」というか「面白いというより、あざとい」感じもするのですが、定のように「共感する心を喪失してしまった人」は、けっして少なくないと思うし、その「回復」(と言っていいのだろうか……)の過程は、なんだかとても身に染みました。
個人的には、プロレスラーの守口廃尊さんの生きざまに、プロレスファンとして、ウルウルしてしまいましたよ。
映画『レスラー』を、ちょっと思い出してしまいました。
「いや、猪木さん身内にとっては、そんな良いところばっかりじゃないだろ……」とツッコミたくなりましたし、ナンパ男にムカつきもしたんですけどね。
「きれいはきたない。きたないはきれい」
そんな言葉を思い出させてくれる、なかなか力強い小説だったと思います。