琥珀色の戯言

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苦役列車 ☆☆☆☆


苦役列車(通常版) [DVD]

苦役列車(通常版) [DVD]

内容紹介
山未來、高良健吾前田敦子 豪華キャストで贈る芥川賞受賞作映画化作品 遂にBD,DVD化!
第144回芥川賞を受賞した西村賢太の「苦役列車」。19歳の肉体労働者、北町貫多のどうにもひねくれた青春を綴ったこの小説。その熱狂的な読者を獲得している本作の映画化作品。主演は『モテキ』の超絶的な快演で現代を生きる男子のリアリティをダイナミックに体言した森山未來。孤独と鬱屈にねじり曲がりながら、なぜか憎めない貫多のひそやかな愛嬌を演じる。貫多と友情らしき何かが芽生える同僚、日下部役に透明感のある演技で進境著しい高良健吾。そして、AKB48を卒業した前田敦子が映画オリジナルのヒロイン、康子に扮する。メガホンをとるのは『天然コケコッコー』『マイ・バック・ページ』の気鋭、山下敦弘監督。森山も高良も前田も、山下作品に出演するのが夢だったという。映画ファンの胸を高鳴らせるこの豪華コラボが生み出した、まったく新しい青春映画が待望のブルーレイ&DVD化! !
1986年。19歳の北町貫多(森山未來)は、明日のない暮らしを送っていた。日雇い労働生活、なけなしの金はすぐに酒と風俗に消えてしまい、家賃の滞納はかさむばかり。そんな貫多が職場で、新入りの専門学生、日下部正二(高良健吾)と知り合う。中学卒業後、他人を避け、ひとりぼっちで過ごしてきた貫多にとって日下部は、初めての「友達」と呼べるかもしれない存在に。やがて、古本屋で店番をしている桜井康子(前田敦子)に一目惚れした貫多は、日下部の仲介によって、彼女とも「友達」になる。でも「友達」ってなんだろう・・・不器用に、無様に、屈折しながら、けれども何かを渇望しながら生きてきた貫多は、戸惑いながらも19歳らしい日々を送るが・・・


あの西村賢太さんの『苦役列車』が映画化され、前田敦子さんがヒロインとして出演すると聞いたとき、「えっ、あれを映画化?でも、あんな不快な主人公の映画、観ても誰も感動しないし、幸せにもならないだろ……前田さんの『アイドル映画』にでもするつもりなのか?」と甚だ疑問だったのです。


でも、観てみると、なんというか、まあこれが体中かゆくなるような映画で。
20歳前後くらいの男の「見ているほうが恥ずかしい、ダダ漏れの自意識」が、崩壊した自制心のダムから溢れてくるような、そんな内容なんですよね。
途中、貫多が康子の部屋に強引に上がり込んで、舐めるような視線で康子の後姿を眺めるシーンなんて、AKBファンじゃない僕でも、「うわー、前田さん、逃げてーーー!」って叫びたくなりました。


それにしても、森山未來さん凄い。
この貫多という不快極まりない主人公(作品紹介には「なぜか憎めない」とか書いてありますが、こんなヤツが実際に回りにいたらたまらないだろうな、としか言いようがない)を、「本当はいい人」みたいな言い訳をせずに、「鬱陶しさ」が内面からにじみ出るような演技を見せています。
「いい人を、いい人として演じる」のは、そんなに難しくないんじゃないかと思うんですよ。
でも、「嫌なヤツを、心の底から嫌悪感を抱けるように演じる」のって、けっこう難しいんじゃないかと。


いや、これでも原作を読んだ僕からすれば、貫多はまだ「軽めに」描かれているんですけどね。
原作では、読んでいるだけでも「もう勘弁してくれ……」というくらい、ねっとりと付きまとってきて、にもかかわらず、近くに来ると暴発することの繰り返し、ですから。
むしろ、「映画の日下部は、このくらいで解放してもらえてよかったね」ってくらい。


あと、前田敦子さんの古本屋の店番姿とか、本を読んでいるときの声をかけづらい雰囲気をみて、「前田さんって、こういうのが『適役』なのではないかな」と感じました。
いろいろと異論はおありでしょうが、『ビブリア堂古書店』のヒロイン、栞子さんの内向的で、ちょっと偏屈で、不器用な感じは、前田さんならけっこうハマっていたかもしれません。少なくとも剛力さんの栞子さんよりは……


個人的には、ラストがちょっと気に入らないというか、この物語に安易な「救い」があるというのは(こんな「黒歴史」があるけど、それも糧になっていまは成功してますよ、なんていうのは)、なんだか作品そのものの「潔さ」を殺してしまっていると思うのですが、「褒めていいのか困惑してしまうけど、ウザいものを、きちんとウザく描いた映画」として、けっこうスッキリする映画でした。
観ているときはほんと、「ああ、もう日下部そいつのことは放っておけよ……」「前田さん、逃げてえーーー!」なんですけどね。

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