- 作者: 福岡元啓
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2014/03/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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内容紹介
☆『情熱大陸』を作る情熱はどんなビジネスにも応用できる!
“補欠入社"で30代半ばには“窓際寸前"までになった著者が、もがきながら身につけてきた、仕事で「本当に必要なこと」を綴った一冊。
いま、『情熱大陸』のプロデューサーとして日々学んでいる“一流の人"たちのビジネスマインドも独占紹介!
番組制作の裏側も満載! !
☆本書より
■「通る企画書の条件」――敏腕ディレクターの“新聞の切れ端"企画書/『情熱大陸』で通った実例
■「売れっ子の秘密」――「くまモン」の製作者、“スーパーマン"作家2人の想像を超える仕事術
■「非効率が成果を生む」――香川真司選手がきっかけだった!
■「“会いたい人"になるための3つのこと」――壇蜜さんに教えられたこと
■「“もう一人の自分"を持つ」――「今でしょ! 」林修先生の分析力
■「リーダーがすべきたったひとつのこと」――楽天・嶋捕手の「責任論」
ほか
現在の『情熱大陸』のプロデューサー、福岡元啓さんの著書。
文化系で、人づきあいもあまり上手ではなかった、という福岡さんは、大学卒業後、なんとかMBS毎日放送に採用されます。
ところが、本社が大阪にある毎日放送では、東京出身の著者は、言葉に馴染めず、周囲から浮いてしまったり、深夜ラジオを終えたあと、定期的に先輩の「お供」をさせられたり……
そうしてなんとか毎日放送に入社したのですが、新人の頃には、酒屋さんや魚屋さんがよくつけている紺色の前掛けをして出社していました。ジャケットの日、シャツの日……、およそ前掛けをするにはミスマッチな服装でも必ず前掛けをしていました。朝、家を出るときから、電車に乗って会社に行き帰宅するまでの全行程でです。
なぜか? 上司に、「ずっとつけて出社しろ!」と怒られたからです。
たまたま立ち寄った魚市場の作業服売り場で見つけた前掛けを先輩と一緒に買って、休み時間にオフィスでつけてはしゃいでいたら、よっぽどうるさかったのでしょう、それを見つけた当時の上司が、
「そんなに前掛け好きなら、ずーっとしとけよ! 絶対だぞ、わかったか!」
とブチギレたのです。
それから、僕は、くる日もくる日も、結局1年間も前掛けをせざるを得なくなりました。週に2回ほど東京への出張で新幹線に乗らなければならなかったのですが、新幹線でもしていました。自由席でも、隣に座っている人はいませんでした。まあ、当然ですよね、どう考えても変な服装で、ちょっとオカシイ人なのですから。
パーティーなどのフォーマルな場では、ちゃんとしたジャケットを着て、前掛けをしていました。社長室にも前掛けで行きましたが、それを社長にいじられることもなく、黙殺されていました。
何もそこまでずっとつけなくても、と思われるかもしれませんが、怒った上司は空手部出身の武闘派で有名で、もし、前掛けをしていないのが見つかったら、本当にしばかれます。僕は、とにかくビビっていたのです。
そんな僕に対して、面白がって話しかけてくれる人はごく少数。ほかの人は「珍獣」を見るような目で、僕を眺めていました。
福岡さんは1974年生まれですから、僕と同じくらいの世代です。
ということは、僕も、もしこういう仕事をやっていたら(マスコミとか、絶対受からなかったと思いますが)、同じような目にあっていたのか……
この本を読むと、福岡さんの「粘り強さ」と「言われたことを素直に聞く能力」が成功の要因なんだろうなあ、という気がするんですよ。
でも、「こういう上司って、いまの感覚でいえば、『パワハラ』だよなあ……」と。
非体育会系の僕は、なんだかそれがすごく引っかかってしまって、書かれていることに納得しきれないところがあったんですよね。
「取材対象に密着する『情熱大陸』」という番組をつくるには、誰かがずっと張りついていなければなりません。
ということは、仕事は定時、残業なし、なんてことには、絶対になりません。
取材対象の中には、気難しい人もいれば、なかなか本心を出してくれない人もいる。
福岡さんの仕事術って、読んでいると「僕の父親世代のモーレツ社員みたい」なんですよ。
あの『海賊とよばれた男』の社員たちのような。
取材相手の警察の幹部にコンタクトをとるために、何時に帰ってくるかわからないのに、何日も家の前で待ち続けていたり、「特ダネ」をモノにするために、身の危険を感じるような相手に「突撃取材」をしたり。
「体育会系」が苦手な僕としては、「これはついていけないな……」という状況での仕事なのですが、「面白い番組をつくる」というのは、すごく泥臭くて大変なことなのだな、と思い知らされます。
「本当にその『前掛け』って、福岡さんの人生にプラスになったのだろうか……」という気はするのですが、それを「プラスになったんだ!」と思えるというのが、強さなのでしょうね。
関連会社に出向となるなど、さまざまな経験を積みながらキャリアを重ねた福岡さんは、2010年に、毎日放送の看板番組のひとつである『情熱大陸』のプロデューサーに異動となりました。
毎週日曜日に放送がある情熱大陸。
番組に出演していただく人はどうやって決まっていくのかを、簡単に説明します。
番組には、局のプロデューサーの僕が1人いて、たくさんの制作会社(約30社くらい)から、こういう人を取り上げたらいいのではないかというプレゼンを受けます。または、自分を取り上げてほしいという本人からの売り込みが直接くることもあります。あとは、僕が興味のある人をリサーチして、出てもらうことを決めることもあります。
そうやって決まった企画は、常に20本ほど走っています。
決まった企画を作ってもらう制作会社にもプロデューサーがいて、現場の仕切り役・交渉ごとなど、制作を進行していくのに欠かせない大切な役割をしていただいています。
実際に出演者と向き合うのはディレクターで、どうやって撮影していくのか常に考えながら取材は進んでいきます。
いま走っている企画の進捗状況の報告、どうやって撮っていこうかなどの相談を適宜受けながら、同時に今週放送する回の編集やナレーションなどの作業を進めていくのが、僕の主な仕事の中身です。
こうして、「常に20本ほど企画が走っている」という情熱大陸なのですが、VTRの編集が完成するのはだいたい金曜日で、ナレーションを録るのは放送前日の土曜日なのだとか。
そして、回によっては、放送開始直前まで編集をすることもあるそうです。
WBCに出場した前田健太投手を採り上げた回では、試合が当日にあったため、番組の前半を放送しながら、後半の編集を行い、なんとか間に合わせた、ということでした。
そうやって、必要なときには「ギリギリまで粘って、より良いものをつくろうとしている」のです。
この本の読みどころのひとつは、福岡さんや『情熱大陸』のスタッフたちが接した、有名人たちの「素顔」なんですよね。
そして、スタッフたちは、それを、どう切り取って、視聴者に伝えようとしているのか。
2011年7月に放送された、(当時)AKB48のセンター、前田敦子さんの回について。
取材と取材の間に10分間しかなかった食事の場面も、カメラは捉えていました。
「(時間が)ヤバイですね〜。この後、着替えないといけない」
と言いながらも、彼女はサラダを頬張って笑顔を浮かべます。
ですが、VTR終盤、ドラマでの真剣な演技に臨む彼女を追う取材カメラは、撮影NGとなってしまうのです。
その後も彼女は、僕たちのカメラを頑なに拒みます。
取材カメラが演技の邪魔になってしまったという部分もあります。普通ならアイドルとして怒っている姿を放送することは駄目でしょう。だけど超多忙なアイドルとして生きる彼女のリアルを映し出している箇所だと思ったので、覚悟を持ってそこを描き放送しました。
結果、多忙な彼女、懸命な彼女のことが、よく伝わるものになったと思っています。
硬軟、緩急、剛柔、2つの側面があってこそリアルな人間なのだと思うのです。
といってもイヤなところを積極的に見せたいわけではありません。ただ、物事はともすれば少しかっこう悪く見えるようなスパイスが入ってるほうが、より良く引き立って見えるのです。
褒め言葉だけを並べるよりも、かっこいい一面だけを捉えた映像だけを流すよりも、より深く伝わっていく。そして、それは結果的に、みんなの共感につながっていくのだと思います。
僕もこの前田敦子さんの回は観ていて、当時「わがまま」「愛想がない」などとも言われていた前田さんの、まさにそんな一面が放送されたことに、ちょっと驚いたのです(その一方で、「これも秋元康の作戦にちがいない!」とか、勘ぐってもいましたけど)。
しかしながら、そういう、決してポジティブとはいえない面、人間的な一面をみることによって、僕の中での前田さんへの好感度は、けっこう上昇したんですよね。
ああ、あの今をときめくアイドルグループのセンターも、周囲に愛想良くできないときも、あるんだよな、それが「あたりまえ」だよな、って。
僕自身、誰かの「すごいところ」よりも、「失敗してしまったり、うまくいかないところ」をみて、なんだか好きになってしまうこともあって。
すごいひとの、すごいところには、憧れるけれど、近づきにくさがある。
でも、すごいひとの、すごくないところには、ちょっとホッとする。
芸能人でも「共感されること」が大事な時代でもありますしね。
田中さん(「前掛け指令」を出した先輩)は、使えない僕をわざわざ構ってくれました。厳しく育てることにも、大変な労力が必要だったに違いありません。
田中さんのイジリはありがたいことでしたが、入社以来そんな風に、かっこ悪く生きてきた僕は、ずっとコンプレックスを持って会社員生活を送ってきました。でも、情熱大陸で毎週いろんな人の生き方を見るうちに、大きく意識が変わりました。それは「かっこ悪いもののなかにこそ、かっこいいものがある」ということを学んだからです。
女流本因坊戦で敗退し、楽屋でうずくまって涙する女流棋士の謝依旻さん。もちろん、勝ってこその勝負の世界。負けて涙を流すのは、本来はかっこ悪い姿です。でも、泣きながら本気で悔しがる彼女の姿は、とてもかっこよく見えました。必死になってもがくところに情熱があり、だからこそ、その情熱は伝わるのだと思います。
最近の『情熱大陸』は、以前より、「対象者のうまくいかないところや葛藤」を描く場面が多くなったような気がするんですよ。
そういう「かっこ悪い姿」が、たしかに「かっこよく見える」のは、福岡さんのような「かっこ悪いというかっこよさ」を知っている人がつくっているからなのだな、と、これを読んでわかりました。