琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】結局、日本のアニメ、マンガは儲かっているのか ☆☆☆


内容紹介
「MANGA」が世界共通語として使われ、
アメリカやヨーロッパでは、アニメのコスプレが日本文化として人気を集めているという。


しかし、日本のアニメ、マンガは本当に産業として成り立っているのだろうか?


作品の、芸術としての評価と、ビジネスとしての評価は別物である。
「クールジャパン」と胸をはる日本人だが、
実は、世界で儲かるコンテンツを確立しえていないのだ。


作品がすばらしいのは、ディレクター(作家)の才能。
作品が売れるのは、プロデューサー(統括管理者)の才能だといえる。
日本はディレクター大国であり、アメリカはプロデューサー大国なのである。


アニメ、マンガ等のコンテンツ産業を、外貨を稼ぐ「本当の産業」とするための知財立国への道を探る。


〈帯コピー〉 日本のマンガは海外で高評価? ジャパニメーションは世界一?
たしかに作品の質は最高だ。しかし、「商売」にはなっていないのだ。

アメリカで日本のアニメやキャラクターグッズなどのコンテンツビジネスを手がけてきた著者による、「商売としての日本製アニメ・マンガの現在」。
本当に海外で日本のアニメやマンガの人気はあるのか?
そして、それは作っている人たちを幸せにしているのか?
そんな疑問にこたえようとしている本です。

 本書の結論からいえば、日本のアニメやマンガは、海外で人気はありますが外貨を稼ぐ収益性の高いビジネスにはなっていません。


(中略)


 アニメ、マンガ産業の現状を詳しく分析すると、日本の産業モデルの縮図であることがわかってきます。アニメやマンガは従来、国内完結型の閉鎖的産業でよかったのですが、これからは、アメリカのようにアニメに関心がない人にもアプローチする開放的な産業となり、さらに国際的競争力ももたないと生き残れない時代になってきました。
 本書での提言は、アニメやマンガ、コンテンツ産業だけではなく、今の日本のすべての産業に共通する、国際競争、市場開拓、グローバル化など、諸問題への取り組みにおいてもおおいに参考になるものと自負しています。

 つまり、「クールジャパン」なんて言って、アニメやマンガを「推して」いるけれども、いくら品質がよくても、それを「どう売るか?」が確立されていないのが現実のようです。
 現場の労働環境の厳しさも、なかなか改善されず、「好きなことを仕事にしているのだから良いだろ!」などと言われることもあります。

 ここでアニメの市場規模と動向について見てみましょう。アニメ業界売上高は、2001年に1522億円でしたが、2006年には2587億円まで拡大し、高い成長率を実現しました。しかし、2006年度をピークに減少傾向にあり、2008年度は2201億円にまで落ち込みます。


 さらに、アニメのビジネスをより理解するために、一つのモデルを紹介しましょう。
 テレビアニメの多くは、テレビ放映によって誰でも無料で視聴することができます。スポンサー収入ではまかなえないため、放送局がアニメ制作に支払う放映権は、アニメ制作費を下回っているケースが多いのです。
 従って、アニメ制作会社はコンテンツ自身ではない部分に収益を求める必要があります。つまり、アニメ制作費のかなりの部分を、キャラクター商品などの二次利用の使用料で成り立たせる必要性があるのです。つまり、映像そのものの収益に加えて、二次的な派生事業で収入を得るというビジネスモデルです。
 たとえば、アニメ業界の最大手である東映アニメーションの2010年3月期の売上は210億円です。そのうち、映像における売上は46パーセントであり、その他キャラクター商品などの版権ビジネスにおける売上は54パーセントです。いかに二次利用での売上が重要であるかが理解できると思います。

 日本でも、昔から、作品そのものだけではなくて、登場するキャラクターを売る、ということは行われてきました。
 懐かしい「超合金」やガンダムのプラモデル。
 こういった「キャラクター商品を売る」ために、アニメや特撮では巨大ロボットが登場することになっていた、という話もあります。
 しかし、ハリウッドでは、よりいっそうその「ビジネスモデル」が確立されてきているのです。
 最近、アメコミ発の映画って、多くなりましたよね。
 その陰には、こんな「戦略」があります。

 このマーベルの戦略について、再びチャヴェスさんに話を聞くと、2007年からアメコミ業界ではコミックそのものを売るために販売しているのではなく、映画のプロモーションのためにコミックをつくるようになったそうです。
 これは数字的にもよくわかります。たとえば、コミック1冊が3ドルとして10万部売れたところで、30万ドルです。映画1本が大当たりすれば10億ドル越えとくらべてしまうと、ハイリスクハイリターンを好むアメリカ人が、コミックを地味に売るよりも、ハリウッドの博打に挑むのは理解できます。

 ちなみに、「最近はマーベルの紙のコミックを買うと、電子版のコミックが無料でついてくる」そうです。
 コミックに無料でデジタル版が読めるようになるパスワードが含まれているのだとか。
 これは、放っておいてもデジタルの「海賊版」が出るので、それならば正規のデジタル版を最初から「おまけ」にして、売上を伸ばしたほうが得策という判断(そして、デジタル版の顧客情報をマーケティングに利用している)と著者は述べています。


 そういえば、日本でも「『ドラえもん』は、年に1回の映画のために、視聴率が振るわなくなってもずっと金曜日の7時にテレビ放送され続けている」なんて噂話を聞いたことがあります。
 『ドラえもん』の場合は、映画だけではなく、キャラクタービジネスとしての価値も含めて、息の長い作品になっているのでしょうけど。
 深夜アニメの『ノイタミナ』枠は、リアルタイムで観てもらって制作費を回収するのではなく、「DVDを売る」という戦略だという話もありますし。


 アメリカの場合、アメコミと映画の主従というか、優先順位は、完全に逆転してきているんですね。
 映画があるからこそ、アメコミは生き残っていける。
 日本の場合は、マンガのマーケットがかなり大きいので、そこまで割り切ってはいないのでしょうが、そろそろデジタル版が付いてくるくらいのサービスがあっても良さそうなんですけど。

 

 日本のおけるコンテンツ産業の市場規模は14兆円といわれ、世界第1位のアメリカの市場規模45.5兆円に次いで世界第2位のエンタテインメント大国になっています。
 しかし、売上はあるものの、ほとんどは国内完結型のビジネスモデルのため、市場規模を海外動向と比較すると、日本のコンテンツ産業の海外輸出比率はわずか5パーセントです(「デジタルコンテンツ白書2009年)。
 それに対して、米国のコンテンツ産業の海外輸出比率は17.8パーセントと日本の4倍近い数値になっています。このことからも、日本は海外からの高い評価を実際の売上に転化できていない現状が浮き彫りになってきます。
 またその内訳も、現在は、家庭用ゲームソフトの売上が97パーセント以上とされています(「CESAゲーム白書2009年)。従って、ゲーム産業以外の分野において、海外展開はほとんど進んでいないということになります。

 苦戦していると言われつつも、日本のゲーム産業は、まだまだけっこう頑張っているんですね……
 しかし、「それ以外」がわずか3パーセントというのは、たしかにあまりにも少ない。
 海外では、日本のアニメがけっこう放送されているのですが、それをうまく収益に結びつけられていない、というのもあるようです。
 作品そのものは高く評価されているのですから、ここをなんとか「開拓して、お金になるようにしたい」というのも、よくわかります。
 言葉や商習慣の壁などもあり、なかなか難しい面はありそうですが。

 以前、日本のマンガ業界に精通している人に、ウォルト・ディズニー手塚治虫との違いを聞いたことがあります。答えは「ディズニーはすばらしいプロデューサーであり、手塚は優秀なディレクターである」ということでした。
 アメリカでは、プロデューサーといえばお金を集め、総合的に製作からビジネスまで仕切るもっとも力のある人という存在になります。従って、この作品にどう価値をつけるか総合的に考える人なのです。

 日本には、手塚先生をはじめとする「ディレクター」=「クリエイター」はたくさんいるのだけれど、優秀な「プロデューサー」が少ない。
 それが、日本のコンテンツビジネスの弱点だと著者は述べているのです。
 たしかに、そうかもしれません。
 日本でもっとも有名な「ディレクター」である宮崎駿監督には、鈴木敏夫さんという敏腕「プロデューサー」がついています。
 鈴木さんのやり方にも毀誉褒貶がありますが(作品にプロの声優ではなく、有名なタレントを起用することとか)、鈴木さんの存在がなければ、ジブリ作品がこれほど多くの人に観られていたかどうか。
 

 もちろん、良い作品がなければどうしようもないのですが、ディレクターとプロデューサー、その両輪がうまく機能しなければ、いまの世界で「作品を成功させる」のは難しいのです。
 これからの日本にとっては「世界に通用するプロデューサーづくり」が、いちばんの課題なのかもしれませんね。


 170ページ弱で、1000円+税と、このテーマにものすごく興味がある人以外にとっては、そんなにコストパフォーマンスが高いとは思えないのですが、日本製のアニメやマンガを海外にアピールしたい、という人にとっては、興味深い本だと思います。

アクセスカウンター