琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】テレビ最終戦争 世界のメディア界で何が起こっているか ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
アメリカのIT企業が日本の放送業界を支配する!「メディアの王様」テレビの運命は?アマゾン、グーグル、アップルなどのIT巨人企業に続き、ネットフリックス、DAZNなどの新興勢力が勢いを増す一方、視聴率の低下と番組の劣化の悪循環に苦しむ日本のテレビ業界。ローカル局の疲弊と広告費の減少も追い打ちをかける。我が世の春を謳歌してきた放送ビジネスモデルは、ついに限界なのか?2兆円市場をめぐって熾烈さを極める「デジタルメディアウォーズ」の勝者を占う!


 Amazonは通販、グーグルは検索、アップルはスマートフォンと音楽、というようなイメージを僕は持っていたのですが、これらのIT企業が、いま、覇権をめぐって争っている最大の激戦地が、この「映像配信」なんですね。既存の大勢力であるテレビ局に、アメリカではFacebookTwitterに、ネットフリックス、DAZN、ケーブルテレビなど、まさに戦国時代を迎えているのです。


 著者は、この2017年に、ウォルト・ディズニー21世紀フォックスからニュースやスポーツを除いた映画やテレビなどのコンテンツ部門の大半を6兆円で買い取ったことを紹介しています。

 いま世界のメディア界で何が起きているのでしょうか? いったい何が、このようなメディア巨人同士の合併を余儀なくさせているのでしょうか? 一言で言えば、「今世界のメディアは、FANGというモンスターの攻勢に飲み込まれようとしている」となると思います。「FANG」とは、SNSの巨人フェイスブックFacebook)、ネット通販の巨人アマゾン(Amazon)、動画配信の巨人ネットフリックス(Netflix)、そして検索エンジンの巨人グーグル(Google)という四つの巨大企業のことです。これにアップル(Apple)も加えてFAANGと呼ぶこともあります。
 いずれも90年代後半からITを駆使してビジネスを展開し、世界を席巻して来た新興企業です。これら企業が、2005年頃からテレビや映画などメディアビジネスに相次いで参入してきました。世界中がインターネットで繋がり、多くの人が個人所有のスマートフォンを利用して情報共有する時代に対応して、映像ビジネスに乗り込み、既存メディアの牙城を崩し始めているのです。これは、19世紀から続いている放送・映画産業に大転換を迫るものです。


 既存のテレビに以前ほどの影響力がなくなったと言われながらも、「映像」というコンテンツは、やはり大きな力を持っているのです。
 僕自身は、YouTubeAmazonプライムビデオを利用することが多いのですが、レンタルビデオ店に借りに行って返す手間や失くしたり破損したりするリスクを考えると、ネット配信というのは便利なんですよね、やっぱり。形としてのDVDやブルーレイディスクがないことに、まだ多少は違和感もあるのですが。
 これだけネットが普及していると、近い将来はネット配信だけになり、店舗型のレンタル店は無くなってしまうのではないか、とも思うのです。実際、何年か前に比べると、お客さん減ってるなあ、と感じますし。


 アメリカ・カリフォルニア州に本社があるネットフリックスの創業者リード・ヘイスティングス氏がネットフリックスというビジネスを思いついたのには、こんなきっかけがあったそうです。

 1985年にスワジランドから帰国したヘイスティングス氏は、すぐには仕事につきませんでした。時はインターネットの勃興期。彼は、帰国後スタンフォード大学に入学しコンピュータ・サイエンスを学びました。厳しい勉強に耐えながら晴れてMBAを取得、卒業後はネット関係の小さな会社に就職します。その会社で仕事をしているうちに、ネットフリックスのビジネスのアイディアが生まれました。ある時レンタルビデオ店からDVD「アポロ13」を借りたのですが、返却が遅れ延滞料として40ドル請求されてしまいます。「なんて高い延滞料だ。みんな同じ思いをしているに違いない、それならここにビジネスチャンスがあるぞ」。そう思ったのが、ネットフリックスの創業のきっかけです。1997年のことです。社名の由来は「ネットの映画館(フリックス)」。将来映画流通はネット配信が主流になることを、ヘイスティングス氏は予見していました。


 『アポロ13』は、映画化されても、「成功した失敗 ("successful failure")」を生み出したのだなあ、なんて思いながら読んだのですが、こういうときに、「ああ、ちくしょう、大損した!」で終わらずに、そこに新しいビジネスチャンスを見出すのが、「すごい人」なんですよね、きっと。
 自分が「割に合わない」と思っていることは、たぶん、多くの人もそう思っているのです。


 ヘイスティングス氏は、最初は宅配便を使っての月額定額制のビデオレンタルをはじめて成功を収めたのですが、郵送のコストが高いことに気づいて、ネット配信に転換していきました。


 ネットでの映像配信の当初の問題点として、テレビ局や映画会社などが、コンテンツをなかなか使わせてくれなかったことがありました。映画は劇場公開から、DVD発売(レンタル)、テレビ放映、衛星放送という順番で、最後にようやくネット配信されていたのです。
 それならばとネットフリックスは、オリジナルのドラマやバラエティなどのコンテンツ制作に乗り出していったのです。
 ネット配信のドラマでは、最初から1クール(12話)分が一度に配信され、「一気に見ることができる」、あるいは、テレビ番組に比べて、表現の規制が緩く、制作者がつくりたいものをつくれる、というようなメリットもあったのです。
 デビット・フィンチャー監督が制作し、ネットフリックスが2013年に配信した『ハウス・オブ・カード』は大ヒットし、ネット発のドラマは大ブレイクしていったのです。
 潤沢な予算で、自分がつくりたいものをつくれる、ということで、有名な監督や俳優も、ネット発の作品にどんどん流れ込んでいきました。
 その一方で、「ノミネートの権利を得るために、映画館で申し訳程度に1週間公開されるだけ」のネット発の作品が、アカデミー賞の対象になってもいいのか、というような反発が既存のメディアから起こってきてもいるようです。


 これらのIT企業たちは、つねに戦っているわけではなく、ときにはお互いに協力したり、共生関係にあったりもするのです。

 コンテンツを配信するのに、ネットフリックスは当初自前のデータセンターを構築していましたが、2009年からはアマゾンのAWS:Amazon Web Service(アマゾン・ウェブ・サービス)というクラウド・コンピューティング・サービスを活用しています。当初はコンテンツサーバーとネットワークインフラを自前で開発して事業を展開しましたが、大規模なシステム障害を引き起こし3日間システムが停止するという危機を経験しました。このため世界的なクラウドシステムを構築し、障害にも強いアマゾンを利用することで、本業の配信に集中することを選んだのです。
 ネットフリックスは大口顧客であるため、アマゾンに対する発言力も強く、当初から自社の要求をアマゾンに伝えて改良させたそうです。配信事業では競争しながら、実はシステムでは協力関係にあるのです。AWSへの使用料は毎年、売上の3%程度と言われており、全世界でネットフリックスの売上が上がると、アマゾンにも還元されるという、いわば二人三脚の関係なのです。


 Amazonは通販のイメージが強く、自ら映像配信も行っているのですが、映像配信に必要なサーバーやネットワークなどのインフラを提供するというサービスも行っており、現在ではこのAWSが収益の大きな柱になっているのです。
 

 ここで、既存テレビビジネスモデルとネットフリックスなど新興メディアを比較してみましょう。なぜネットフリックスやアマゾンプライムが、これほどまでに世界に受け入れられたのでしょうか? あるいは、世界の人々から好意的に受け入れられたのでしょうか?
 それは次のようになります。


(1)視聴者が求めている映画やテレビ番組を制作して提供したこと。
(2)スマホタブレットで、いつでもどこでも手軽に視聴可能にしたこと。
(3)ハリウッドのみならず世界各地の著名プロデューサーやクリエイターを動員し話題性のあるコンテンツを世界各地で量産するようになったこと。
(4)制作上の規制を排して、できるだけ制作者の作りたいように作らせたこと。


 つまり、ネットフリックスやアマゾンが世界中で良質のコンテンツ制作を行い、それを世界中にネット配信することで、新たな映像エコシステム、映像文化圏が作られつつあるのです。これまでのハリウッド映画圏やフランス映画圏を超えるコスモポリタンな映像文化圏を、ネットフリックスなど新興メディア企業が作り出しつつあるのです。これは映像文化革命と言い得るものです。
 これまでの映像ビジネスとは全く違います。映画はまず映画館上映が前提でした。またテレビドラマは、まずテレビ放送が前提でした。いずれも好評なら、有料チャンネルに番組販売され最後にネット配信に回されるというもので、ネットは一番後回しだったのです。
 しかし、ネットフリックスもアマゾンもネットファーストです。映画館上映やテレビ放送はそのあとです。
 ターゲットにする市場は始めから全世界です。最新の加入者数で、ネットフリックスは1億2500万、アマゾンは1億を突破しました。世界中の視聴者はそのネット配信を全面的に支持している証拠ではないでしょうか? そして、収入は課金モデル(アマゾンプライムも年会費119ドルなどで有料モデルです)、月額にすると約1000円で世界中のワクワクするコンテンツをいつでもどこででも視聴できるのです。


 いまのネットファーストのコンテンツは、下世話なほうに偏りがちなのではないか、とも感じるんですよ。それこそ、「視聴者の好みに合わせている」のかもしれませんが。
 あらためて考えてみると、これまでのテレビ番組って、視聴者の前に、スポンサーの意向というのがあったので、こうして直接視聴者が課金する仕組みになれば、本当に観たいものがつくられるようになっていく可能性もありそうです。
 コンテンツはたくさんあるけれど、人間の寿命はそんなに長くなったわけじゃないんだよな、とも思うんですけどね。

 日本でも、おそらく、近い将来、ネット配信が映像コンテンツの主流になってくるはずです。
 それが、「良質な番組ばかりになる」ことにつながるかどうかは別として。


Amazonプライム・ビデオ

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