琥珀色の戯言

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【読書感想】知ってても偉くないUSA語録 ☆☆☆☆


知ってても偉くないUSA語録

知ってても偉くないUSA語録


Kindle版もあります。

内容紹介
気鋭の映画評論家・コラムニストの町山智浩氏による
週刊文春」人気連載の単行本化、第二弾!


アメリカの政治・経済・エンタメを現地リアルタイムレポート。
澤井健氏の爆笑イラストも収録しました。


(「まえがき」より要約)
アメリカで話題の言葉は、面白い。面白くて怖いーー。
「共和党の候補だったミット・ロムニーは、20億ドル以上を投じた2012年の大統領選を、たった二つの失言でしくじりました。本書では政治家の発言以外にも、『トロフィー・ワイフ』のように学校や職場では使うのをためらう言葉、『フォトボム』などネットとスマホの時代に生まれてアッという間に広がった新語も紹介しています」


〈本書に登場するUSA語録〉
レッドネック=貧乏白人
キッズヴォート=こども投票
マンスプレイン=男がドヤ顔で講釈垂れること
ドーマ=結婚防衛法
パンプ&ダンプ=ボロ株を使った詐欺
プライムエア=アマゾンの無人ヘリによる宅配
デトロピア=デトロイト+デストピア など 全74のキーワードを収録。


町山智浩さんのコラムに、ハズレなし。
ゴールデンタイムのニュース番組では採り上げられることのない、下世話な、本音のアメリカ。
この本、元は『週刊文春』の人気コラムで、前作『教科書に載っていないUSA語録』に続く第二弾です。
2012年8月から2014年3月まで、実際にアメリカで流行っていた言葉と、それに関するエピソードが紹介されていくのですが、スケールでかいなあ、なんて、感心してしまうような話ばかりです。

ミック・ジャガー(69歳)、生涯に寝た女性の数は4000人」。
 ローリング・ストーンズ結成50周年の今年、ミックの女性遍歴を集めた『ミック:ジャガーの野蛮な人生と狂気の天才』という本が出た。著者のクリストファー・アンダーソンは英国王室スキャンダル本のライター。
 ユマ・サーマンファラ・フォーセットサルコジ前大統領夫人のカーラ・ブルーニなど錚々たる美女が並ぶが、さすがのミックも50歳を過ぎてからは、そんなにモテモテでもなくて、たとえば32歳下のアンジェリーナ・ジョリーに袖にされて、彼女の留守電に涙声のメッセージを残したりする。「愚か者の涙」ですな。
 4000人という数について、著者のアンダーソンは「ミック・ジャガーにしては意外に少ない」と書いている。

 ちなみに、KISSのジーン・シモンズは自伝に「4897人」と書いているそうです。
 なんでそんな細かい数字までわかるのだろうか……日記をつけていたのかな。
 ジェームス三木さんもびっくり(たぶん)。
 上には上がいるもので、2010年に出版された『スター/ウォーレン・ベイティはいかにしてアメリカを魅了したか』という本によると、ベイティの女性遍歴は、1万2775人(!)だそうです。
 関係した女性だけで、日本武道館が超満員!

 ブラジルの女優ソニア・ブラガはハリウッドに招かれた時、「ベイティさんに抱かれましたか?」と訊かれて「当たり前でしょ。ニューヨークに行ったら自由の女神を見るようなものよ」と答えたとか。もう、スタンプみたいな存在ですね。

 そんな「豪傑」にはほど遠い僕からすると、その生活、無茶苦茶キツいんじゃない?って思うんですけどね。


 また、”Obama Reelection Will Bring 1,000 Years Of Darkness"(オバマ再選で1000年の暗闇が来る)という発言をした俳優のチャック・ノリスさんについての、こんな話題も紹介されています。

 2006年、ネットで「チャック・ノリスの事実」というジョークを作るのが流行した。
チャック・ノリスコブラに噛まれると5日後に死ぬ・コブラが」
チャック・ノリスは腕立て伏せをしているように見えるが実は地球を押し下げている」
リンカーンは丸太小屋で生まれた。チャック・ノリスもそう。ただし自分で作った丸太小屋で」
「スーパーマンがあんなにダサいコスチュームを着ているのはチャック・ノリスに負けた罰ゲームだから」
 このジョークを作ったネット小僧たちは、チャック・ノリスを最強の男と本気で尊敬しているわけじゃない。アメリカにはホラ話のスケールの大きさを競い合う伝統がある。チャック・ノリスはそのネタにすぎない。これがスタローンやシュワだったら笑えない。田舎の老人のようなのんびりした風貌と、凄みのないソフトな話し方で、ちっとも強そうに見えないノリスだからこそおかしい。

 僕はこれを読んでいて、「草野仁伝説」を思い出してしまいました。
 日米を問わず、こういう「スケールアップしていくホラ話(草野さんの場合は「ホラ」じゃないエピソードもたくさんあるらしいのですけど)」が好きな人はいるのだなあ、と嬉しくなってしまいます(僕もこういうの大好きなので)。
 ただ、このチャック・ノリスさん、銃規制に反対するNAR(全米ライフル協会)と、キリスト教福音派のスポークスマンとして登場することが多いらしく、「オバマ再選で……」というような「何それ……」発言もしているそうなのです。
 

 アメリカでの銃による犯罪は、「笑いごと」で済むようなものでは、到底無いんですよね。

 射撃場ならバズーカ撃ってもいい。アメリカの問題はそこらじゅうに銃があふれていることだ。2012年12月14日、コネチカット州の小学校に20歳の白人青年が乱入して小学生20人と大人6人を射殺した。アメリカの学校では1980年からの22年間で137件の銃撃事件が起こり、計297人が死んでいる。
 ところが銃の規制を厳しくすべきだと考える国民は1994年の56%から、現在(2013年1月)46%へと減っている。銃による犯罪が増えれば増えるほど、銃で身を守りたいと考える人が増えるかららしい。しかし調査によると乱射事件の際、銃を持った一般人がその場にいたことで死傷者が防げた率はわずか1.6%しかない。最近の銃は高性能のため、撃ち始めの数秒で大量の死者が出てしまうからだ。

 最近話題になった、「3Dプリンターを使って、銃を自作した人」は、この話を知っていたのでしょうか。
 彼は「女性が銃を持つことによって、性犯罪などを防げる」というようなことを主張していたらしいのですが、みんなが銃を持ちやすくなれば、悪いことをするヤツのほうが、より銃を持ちやすいでしょうし、銃を使い慣れてもいるはずです。
 となると、かえってリスクが高まるだけだと思うのですけどね。
 でもまあ「みんなが銃を持っていない社会」を経験したことがなければ、「目には目を」という発想になってしまうというのもわかります。
 リセットするのは、難しいんでしょうね……


 僕は、町山さんがアメリカでの家庭生活について語った、この文章に驚いてしまいました。

 家で話すのは100%日本語だし、食事も完全に和食だし、テレビもNHKばかり観ている我が家で、自分がアメリカで子育てしてるんだと実感したのは、6年前、小学校の図書館で児童書の販売があるというで娘に小遣いを10ドル持たせた時だった(アメリカでは街の本屋さんが全滅してしまったので、児童書出版社は各学校に直販に来る)。

 僕の息子も、幼稚園から「オススメの絵本」の紹介をときどき持ってくるのですが、そのほとんどは「そこらあたりの書店で買える本」なんですよね。
 ネット通販が発達し、電子書籍が普及しているアメリカとはいえ、2000年代後半には、もうこんな状況になっていたのかと、驚きました。
 

 別の項では、アメリカの書店について、こう書かれています。

 現在、アメリカに唯一残った新刊書点のチェーンはバーンズ&ノーブルただ一つ。そのバーンズ&ノーブルも、アマゾンのキンドルに対抗して作った電子ブックリーダーNOOKが売れなくて店舗数を減らし、今はサンフランシスコのような大都市にたった1〜2軒ずつしかない。信じられる? 人口82万人に対して新刊書店1軒だよ! これじゃ「アメリカ人は本を読まない」と言われてもしかたがない。

 信じられない……というか、信じたくないです。書店好きとしては。
 みんなが電子書籍に移行してしまったから、新刊書店が潰れていったのか、新刊書店がなくなったから、電子書籍を買うしかなくなったのか……
 いずれにしても、アメリカのリアル書店事情って、ここまで厳しいものになっていたんですね。


 政治やハリウッドスターのことはもちろんなのですが、町山さんがさりげなく触れている「アメリカでの中流の暮らし」も、すごく面白く読める一冊です。
 興味を持たれた方は、ぜひ(できれば『教科書には載らないUSA語録』から読むことをオススメしておきます)。


 

教科書に載ってないUSA語録

教科書に載ってないUSA語録

教科書に載ってないUSA語録

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