Kindle版もあります。
人手が足りない!
個人と企業はどう生きるか?
人口減少経済は一体どこへ向かうのか?なぜ給料は上がり始めたのか、経済低迷の意外な主因、人件費高騰がインフレを引き起こす、人手不足の最先端をゆく地方の実態、年間労働時間200時間減のワケ、医療・介護が最大の産業になる日、労働参加率は主要国で最高水準に、「失われた30年」からの大転換……
10万部突破ベストセラー『ほんとうの定年後』著者がデータと取材で明らかにする、先が見えない今こそ知りたい「10の大変化」と「8つの未来予測」――。
長年、「給料は上がらないが、物価も上がらない国」だった日本。
僕が若かった1980年代くらいは、円が強くて、日本人観光客が海外のブランドショップで「爆買い」しているというニュースを見ていたのですが、今や物価もサービスも世界の中で「安い国」となった日本で、海外からの観光客が「爆買い」していくのです。
安い給料でも、安い物価でなんとか生活できていた日本は、高齢化による働き手の不足もあって、近年、物価は上昇傾向で、大企業での賃上げも報じられるようになりました。
その一方で、その賃上げの恩恵は一部の大企業に限られ、それ以外の人々は、給料は上がらず、物価だけが上がっていくことに苦しんでいます。
僕自身も(年齢的なものもあるのですが)給料は全然上がっていませんし。
著者は、この本の「はじめに」で、こう述べています。
これまで世界の人口が長期的に増加を続けていた事実からもわかるように、近代の世界経済を振り返れば、経済というものは基本的には人口が増加している状態のもとでそれと並行して成長をしていくものだという暗黙の前提があったといえる。しかし、日本の人口はいままさに調整局面から減少局面へと移行しつつある。そうであれば、人口減少とともに歩むこれからの日本経済の構造はこれまでのそれとは異なるものになる可能性が高い。近代で日本のような大きな経済規模を有する国において、人口が持続的に減少した事例はほかに類を見ない。そう考えれば、人口減少が経済にどのような構造変化を及ぼすのかということは、これまで必ずしも自明ではなかったと考えられる。
本書の目的は、これから迎えることになる人口減少時代において、日本経済の構造がどのように変化していくかを予想することにある。実際に統計データを確認していくと、近年の日本の経済にはさまざまな変化の兆しがみられる。本書ではここ最近において起こっている変化の兆候を捉えながら、人口減少局面に突入する日本経済の将来の姿を考えていきたい。
経済成長にともなって子どもに高い教育水準とそのための費用が求められるようになり、避妊の知識が浸透し、晩婚化が進んでいくことで、世界全体の人口も、近い将来にピークとなり、その後は減少していくと予想されています。
日本は、世界に先駆けて、戦争や疫病が理由ではない人口減少に直面していく国なのです。
そんななかで、企業にも大きな変化が起こってきています。
大企業では賃上げが行われているのに、中小企業や地方では給料が上がらない、そんなイメージを僕は持っていました。
しかしながら、著者が実際に調査したところでは、地方の中小企業の多くは人手不足で、仕事はあってもそれをやる人がおらず、生き残るために労働条件の改善や生産性の向上に取り組みはじめているのです。
地方の企業が直面している局面は、大都市の企業のように儲かっている利益を従業員に還元するという次元にはもはやない。地方の企業は人手不足が深刻化するなかで、賃金をはじめとする労働条件の抜根的な改善を行わなければ、容赦なく市場から淘汰される圧力にさらされているのである。
個々の労働者とすれば、情報技術が発展した現代において、地元の企業と大都市圏の企業との労働条件の格差は手に取るようにわかるようになっている。そして、情報が可視化された現代において、多くの労働者は豊かな生活を送るためにも、目の前にある就労の選択肢の中から合理的に選択を行なっている。
この本で紹介されているデータをみると、少子化が進んでいくなかで、企業に対して、労働者の力が強くなってきていることがわかります。
賃金が安い職場で働く人たちも、転職のハードルの高さにためらってしまう面はあるにせよ、生活環境や地域への愛着、仕事に費やす時間と余暇のバランスなどを考えて、あえてそこで働いている、働き続けている場合が多いのです。
僕が「現在でも、日本では非正規労働者が多くて、生産性が低く、労働時間が長い」という思い込んでいたことを否定するさまざまなデータも採りあげられています。
先のグラフでは主要国の実質GDP成長率のほか、総労働時間数と時間当たり実質労働生産性の成長率も掲載している。日本の労働者の1時間当たりの労働生産性は、2000年から2010年の間は年率1.1%の伸び、直近の2010年から2021年までの間は年率で0.9%の伸びとなっている。近年の実質労働生産性上昇率はドイツが1.1%、米国が1.0%で日本はそれに次ぐ水準である。この結果を見ると、日本の労働生産性は主要先進国と比較してもわりと堅調に上昇しており、日本経済の低迷にあるわけではないことがわかる。
なお、これらの数字はいずれも1時間当たりでみていることは留意しておきたい。「一人当たり」ではなく「1時間当たり」としているのは、一人当たりでは働く時間が少ない高齢者の増加などによる影響をかなり受けてしまうため、本来の生産性の動向をみるのであればマンアワー当たりの生産性をみるほうがよいと考えるからである。
国際的にみても日本の労働時間の減少は際立っている。2000年当時は年間1839時間と平均的日本人は米国人と並んで長時間労働をしていたが、足元の2022年には1626時間と欧州先進国の水準に近づいてきている。
(中略)
総務省「労働力調査」から、性・年齢階層別に労働時間の変化をみても、あらゆる年齢層で労働時間が減少していることが確認できる。特に男性若年層の労働時間の減少が顕著になっている。20代男性の週労働時間は2000年時点の46.4時間から2023年には38.1時間まで減少している。20代は進学率の上昇なども影響しているとみられるが、同様の傾向は30代男性も確認される。30代男性は2000年の50.9時間から2010年の48.1時間、2023年には43.6時間まで減少した。実際に多くの企業では長時間労働が是正されており、このような変化を実感できる企業人は多いだろう。
労働時間の減少は賃金水準にも影響を与える。たとえば、ある会社の新人社員の年収水準が現在と20年前で変わっていなかったとしても、週労働時間が50時間から40時間に減っていれば、その人の時給水準は25%上昇する。こうした事象が日本全国の企業で起こっていると考えられる。
近年の日本の労働市場を振り返ったとき、大きな出来事としてあげられることにはなんといっても女性の労働参加の急伸がある。2000年に56.7%であった日本の15〜64歳の女性就業率は、足元で72.4%まで上昇している。ドイツでも女性の就業率が急上昇しているなど、女性の社会進出は世界的な潮流となっているが、その傾きは日本が最も急である。
女性の就業率について、他国と比べて特徴的なのは変化幅だけではなく、水準でも同じである。2022年の時点で日本の女性就業率は既に米国や英国などよりも高く、主要国ではドイツ(73.1%)に次ぐ水準となっている。
日本は、すでに「生産性が低い労働をしている国」ではないのです。
日本では賃金が上がらない、とはいうけれど、労働時間は20年と比較して大きく減り、サービス残業も是正されるようになりました。
「労働時間を増やして、たくさん稼ぐ」よりも、「がむしゃらに稼ごうとするのではなく、労働時間を短くして、余暇を楽しむ」というライフスタイルが、若年層には浸透してきています。
以前のように、高級車に乗ることや持ち家を建てること、結婚して子供を育てることが「若者の目標」ではなくなり、残業をして稼ぐより、早く仕事を終えて趣味を楽しんだり、家でゆっくり過ごすほうがいい、と考える人が増えてきたし、それが許容される社会になってきた、ともいえそうです。
家でサブスクのAmazonプライムやNetflixを観たり、ゲームで遊んだりして、贅沢を望まなければ、そんなに稼がなくても、日々、それなりに楽しく生きていける。
日本は世界のなかで相対的に貧しくなった、と言われることも多いのですが、スマートフォンのなかでも高価なiPhoneのシェアが最も高い国でもあります。
女性が働きやすい社会、女性の労働参加の促進を政府は推進していますが、実際のところ、日本は「管理職に女性が少ない」などの性差の問題がある一方で、働いている女性の割合はすでにかなりの高水準です。
また、非正規労働者の増加と正社員との格差が問題視されてきましたが、近年では非正規の割合は減少に転じてきており、自分のライフスタイルに合わせて仕事していきたい若年層に対して、企業側は、人手不足もあって、正社員として安定して働いてくれる若者を求めるようになってきています。
新入社員の給料も、上昇傾向にあるのです。
「ただし若者に限る」というのは、僕のような中高年にとっては、なんだか自分たちだけが生まれた時代で損をしてしまった、みたいな気分にはなるのですが。
著者は、AI(人工知能)やロボットなどのテクノロジーの進化が今後の労働環境に与える影響や、少子高齢化にともなって、今後は医療や介護などを中心としたサービスへの需要がさらに増していくとも述べています(本の中ではもっと詳しく書かれているので、「これから起こること」が気になるかたは、ぜひ読んでみてください)。
日本の経済は停滞している、日本は貧しくなった、という言説は多いのだけれど、この本を読んでいると、高度経済成長期のような熱狂は失われてしまった一方で、いまの日本人、とくに若い人たちの多くは、「無理をせずに必要な分だけ稼いで、穏やかな日々と小さな幸せを得られればいい」という「選択」をしているだけなのではないか、とも思うのです。
これだけ、定額で楽しめるサービスが充実し、ひとりで過ごしやすい環境があれば、それは、きわめて合理的な変化であるのかもしれません。