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【読書感想】給食費未納 子どもの貧困と食生活格差 ☆☆☆☆

給食費未納 子どもの貧困と食生活格差 (光文社新書)

給食費未納 子どもの貧困と食生活格差 (光文社新書)


Kindle版もあります。

給食費未納?子どもの貧困と食生活格差? (光文社新書)

給食費未納?子どもの貧困と食生活格差? (光文社新書)

内容(「BOOK」データベースより)
二〇一五年、埼玉県北本市の中学校で給食費未納が三カ月続いた場合「給食を提供しない」ことを決定したニュースが朝日新聞の第二社会面トップで報じられた。アメリカの小学校ではその前年、給食費未納を理由に生徒の昼食が目の前で取り上げられるという事件も起きている。「保護者の責任の問題」「払わないなら食べるな」そう批判するのは簡単だ。だが、そこに潜む本当の問題が見えているだろうか?「子どもの貧困」を食という側面から考え、最新のデータとともに福祉の新しい視座を提言する。


「子どもの給食費も払わずに、高そうな車に乗ったり、ブランド物のバッグを持ったりしている親がいる!」
 僕は実際にそういう親を目の当たりにしたわけではないのですが、ネットではそういう批判がときどきなされています。
 では、そういう「不心得な親」に対して、どう対応していけばいいのか?
 「払わなくてもペナルティが無い」のであれば、真面目に払っている人たちがバカを見るだけではないのか?


 著者は、27年間、参議院事務局で国会議員の立法活動のための調査に従事し、現在は子どもの貧困やDVについての調査研究をされています。
 この新書は「学校給食」の歴史や意義、そして、現在の問題点について、さまざまな角度から分析したものです。


 僕は小中学校の頃、食べるのが遅く、好き嫌いも少なからずあったので、給食じゃなくて、お弁当のほうがいいなあ、と思っていました。
 親の立場になってみると、給食のほうが助かる、というのが本音です。
 僕が作る、というわけではないのですが、息子の小学校では、月に1回、お弁当の日があるんですよね。
 その朝の緊迫した雰囲気を思うと、これを毎日やっていた僕の親も大変だったのだろうなあ、って。
 僕は小学校時代給食で、中学校は公立でしたが、お弁当でした。
 1学年に9クラスもあるような大きな中学校だったので、給食のシステムづくりが難しかったのかもしれません。
 

 公立小学校では、99.6パーセントの子どもたちが完全給食と呼ばれる主食・おかず・ミルクのそろった給食を食べています。しかし、公立中学の完全給食実施率(人数比)は、81.5パーセントで、残り二割は未実施です。中学生の約二割に当たる60万人の中で、全く給食がない生徒が約39万人、牛乳だけ(ミルク給食)の生徒が約20万人、おかずと牛乳だけで主食なし(補食給食)の生徒が約1万人という状況です。
 完全給食未実施率全国第一位は神奈川県で82パーセントです。全国レベルで見ると、実施/未実施の割合が逆転した状況です。神奈川県以外では、近畿地方・高知・広島・佐賀の各県の未実施率が40パーセント以上と高く、他県と大きな差があります(学校給食は市町村ごとに行なわれており、未実施率の高い県の中でも、市町村ごとに完全給食、ミルク給食、給食なしと実施状況は分かれています)。


 2016年度以降、政令市で給食がないのは、横浜市だけとなっているそうです。
 どうしてあんな都会が?と地方都市在住の僕は疑問でしょうがないのですが(東京は給食実施率が低いわけではないですし)、この新書を読むと、各県によって「給食に対する姿勢」というのは、かなり異なっているのです。
 

 凶作と世界恐慌の影響による欠食児童の増加に対して、1932年、満州事変の翌年に、学校給食制度ができました。
 その後、太平洋戦争に向けての「国民体力の増強」のため、戦中・戦後は「子どもの栄養状態の改善」のために行なわれてきたのです。
 高度成長をはさんで、日本も豊かになり、もう必要なくなるのではないか、と思いきや、今度は格差社会での「子どもの貧困」や「共働き家庭の増加」によって、給食の必要性は増してきています。
 「給食があまり好きじゃなかった子ども」だった僕なのですが、たしかに、栄養のバランスが考えられているし、好き嫌いを無くすのに役立ったのは事実でしょう。
 そして、いまの給食というのは、「家でご飯を食べられない、食べさせてもらえない子どもたちのセーフティネット」でもあるのです。
 正直、そういう子どもの姿というのは、僕には見えていないので、こうして本の内容を受け売りで書きながらも、実感がわかないところはあるのですが……
 

 学校生活の中の楽しい時間であってほしい給食ですが、2015年には、埼玉県北本市の公立中学校で給食費未納が3ヵ月続いた場合に給食を提供しないと決定、未納家庭に通知したという報道がありました。ネット上には、次のような保護者のモラルを非難する意見が多く見られます。
給食費不払いの家庭はごく少数だと言われていますが 裕福でベンツに乗って携帯電話の支払いがひと月に7万円——支払い能力があるのに払わないのが問題なのです。」
「滞納者の急増が言われていますが、中には裕福な家庭もいるって話です。生活苦で出せないなら、その様な人だけを対象にした、補助金や貸し出しなどの制度を設ければいいと思います。誰にでも分け隔てない支給は意味が無いと思います」
 また、「未納の主な原因は保護者の意識にあるため北本市の対応は妥当である」というエコノミストの意見もありました。この意見は、北本市の事例では給食費未納の家庭で生活保護を受給している家庭はなく、学校への相談もなかったため、北本市教育委員会が支払う資力があると判断していることも根拠となっていました。子どもは本件の給食停止のような試練を何度も経ることで、メンタル面での「打たれ強さ」を身につけてきた、北本市の手法を批判する人は、具体的な対案を示すべきであるとも述べています。


 ちなみに、著者は、朝日新聞に以下のコメントを寄せたそうです。

 生活保護や就学援助を申請していないからといって「支払い能力がある」と考えるのは短絡的だ。援助を申請できない事情を抱える保護者もいる。滞納を続ける家庭は子どもが育つ環境として何らかのリスクがある可能性がある。学校や行政は懲罰的な対応ではなく、滞納を福祉による支援が必要なシグナルととらえる必要がある。(朝日新聞2015年7月4日)


 国民健康保険の滞納率は約10パーセントですが、給食費の未納率は全国平均で約0.9パーセントにとどまっているそうです。
 金額が違うといえばそれまでですが、子どもに関するお金というのは、優先的に払う、という家庭が多いのです。
給食費さえ」納められない家庭は、他の公共料金や家賃の未納や大きな借金を抱えているケースが少なくありません。
 生活保護を受けるにしても、身内に問い合わせをされたくない、とか、そもそも援助のシステムそのものを理解していない、というケースもあるようです。
 実際は、「本当に給食費も払えない状況」ならば、今の日本では支払いを減免してくれる仕組みがちゃんとあるんですよね。でも、そこにうまくたどり着けない人もいる。
 文部科学省給食費未納の主な原因についての学校の認識を「保護者の責任感や規範意識」が約6割、「経済的な問題」が約3割と発表しているそうです。
 しかしながら、著者は「『払わない』のか『払えない』のかを家庭の外から見きわめるのはとても難しい」と述べています。

 
 僕も「生活が厳しいとしても、給食費くらいは最優先で払うべきだし、払わない親だけが『ごね得』になるのは、真面目に払っている人もいるのにおかしい」と考えていました。
 でも、「自分の机の上にだけ、給食がない子ども」の姿を想像すると、やっぱりいたたまれない。
 ネットでは、こういう親に対して厳しい意見が多いのだけれど、そもそも、「そういう親」へのペナルティとして、「給食停止」が正しいのかどうか。

 埼玉県北本市の給食停止警告事件についてネットでは、
「訴訟よりも給食停止が効果ある。停止は当たり前」
「給食停止でようやく払う気になった家庭は確信犯」
「親の業が子に還る」
「給食停止措置を全面支持。恨むなら親を恨め」
 という意見がみられます。第一章で紹介した自治体の債権回収に関する法律家の検討チームも、子の養育についての最終的な決定権は親にあるのですから、親が給食費を滞納し続けている場合には、子どもへの給食停止もやむを得ないとの見解を示しています。
 このような意見は、子どもは親の所有物ではなく、別の人格として尊重されるべきであるという子どもの権利条約の考え方に対する理解が不十分であるといえます。また、子どもを貧困状態に放置しておくことは、ネグレクト(養育放棄)の状況に放置しておくことと等しく、行政の積極的なアウトリーチ(援助する側から対象者へのアプローチ)が必要とされるべき課題であると考えます。


 そうなんですよね、親がどんな親であれ、子どもが連座させられる筋合いはない、のです。
 「保護者の責任感や規範意識」に問題があるのならば、なおさら、子どもは「保護」されるべきなのに。
 子どもは、自分自身の力で給食費を払うことなんてできないのだから。


 未納が増えることによって、材料費がなくなり、給食が続けられなくなるとか、「集金」のために現場の教員が疲弊する(正直、自分の生徒に「お金払って」っていうのは、先生にとってはキツい仕事だと思うのです)ということを考えると、放置していい問題ではないのでしょうけど。
 現場では先生が肩代わりしている、なんていう話もあるようですし。
 

 子どもへの援助の場合、当事者である子どもに「自分は『貧困状態にある』」と引け目を感じさせないように、より一層配慮しなければならない、という難しさもあるそうです。
 著者は、給食費の全面無料化の可能性についても言及しています。
 2016年3月に内閣府から試算として発表された「平成28年第3回経済財政諮問会議説明資料2」によると、小中学校の給食費の無料化に必要な費用は小学校が3227億円、中学校が1883億円で、合計5120億円だそうです。
 「みんなタダ」にすると、これだけかかるのか……


 「給食費未納の子どもなんて、給食停止にすればいいんだよ!」
 それが「真っ当」だと考えている人にこそ、ぜひ読んでみていただきたい新書です。
 

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