
- 作者: 門馬忠雄
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/10/20
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。

- 作者: 門馬忠雄
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/10/21
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内容紹介
取材歴50年以上! 伝説のプロレス記者による昭和プロレス回顧録3部作の完結編。
取り上げたのは以下の14人。●鉄人ルー・テーズ
・・・来日中、酔った男に額をピシャピシャと叩かれたとき、人格的にも世界最高のプロレスラーがとった行動とは。
●神様カール・ゴッチ
・・・東京・渋谷のリキ・スポーツパレスで開かれた「ゴッチ教室」。
●噛みつき魔フレッド・ブラッシー
・・・記者でさえ近づきたくなかったヒール(悪役)の結婚秘話。
●黒い魔神ボボ・ブラジル
・・・「真面目で誠実」と馬場に評された男の素顔。
●鉄の爪フリッツ・フォン・エリック
・・・著者が身をもって味わったアイアン・クローの威力。
●生傷男ディック・ザ・ブルーザー・アフィルス
・・・「世界一の無法男」の意外なファッション・センス。
●荒法師ジン・キニスキー
・・・和式トイレを自分で掃除した未来のNWA世界チャンピオン。
●人間発電所ブルーノ・サンマルチノ
・・・「ニューヨークの帝王」の頭髪に隠された秘密。
●狂犬ディック・マードック
・・・「ビールを飲むためにプロレスをやっている」愛すべき天然バカ。
●オランダの赤鬼ウィレム・ルスカ
・・・世界最強は誰か? と問われたら、即座にその名前を挙げる。
●人間風車ビル・ロビンソン
・・・東スポの1面をかざった「夜の帝王」との大阪・北新地の夜。
●放浪の殺し屋ジプシー・ジョー
・・・国際プロレスの末期を支えたタフネス。
●韓国の猛牛・大木金太郎
・・・放った頭突きは5万発の元祖韓流スター。
門馬忠雄さんの「昭和プロレス回顧録」第3弾。
懐かしい顔ぶれが次から次へと……と言いたいところなのですが、物心ついたときには、タイガーマスクの空中殺法に魅了されていた僕にとっては、リアルタイムで観ていたのはディック・マードックくらいかな、というラインナップなんですよね。
それでも、『プロレス・スーパースター列伝』などで読んだことがあるレスラーたちの素顔は、興味深く読めました。
「生傷男」ディック・ザ・ブルーザーの項より。
ブルーザーは”東洋の巨人”馬場を小僧呼ばわりし、一瞥してニタリ。まったく格下扱いの貫禄ぶりで、この時ばかりは日本プロレスのエースも形なしだった。
185センチと、身長はさほどではないが、肩幅が広い。胸板も分厚く、ゴツイ体つきだ。みつからにタフそうだ。用意された特大のグラスにビールを注ぎ、グビリ。報道陣をグイとひと睨みし、葉巻をくわえて専門誌のグラビアを飾った得意のポーズ。黙っていても絵になった。しびれたね。
ひと通り記念撮影が終わったあと、「東スポ」のスタッフが用意したU字の鉄パイプを直接手渡した。するとブルーザーは表情ひとつ変えず、その太いパイプをグイと逆Uの字に曲げてしまった。これには周りの関係者もビックリで、「ウォッ、凄い」のどよめきが上がった。鈴木カメラマンは「ぶったまげた!」のひと言。我々は”世界一の無法男”のパフォーマンスにすっかり魅了されてしまった。
昔の外国人レスラー、とくに悪役レスラーには、こういう「得体の知れない存在感」というか「怖さ」みたいなものがあったんだよなあ、と思いながら読みました。
悪くて、怖くて、強いヤツ。
著者は、「神様」カール・ゴッチのこんなエピソードも紹介しています。
こんな厳しいゴッチが休んだことがあった。休んだきっかけは虫歯で、「生きているから虫歯になったんだ!」と言って上下の歯を全部抜いてしまったためだった。正気の沙汰ではない。高熱を出して1週間近く休んだのである。
道場でしごかれている選手たち、この時ばかりは「鬼の霍乱だ!」と大笑いだった。
俳優が役作りのために歯を抜く、という話は聞いたことがあったのですが、虫歯でここまでやるのか……というか、ものすごく不便じゃなかろうか。
本当に、何においても「過激」な人たちだったんですよ、当時の僕が見ていた「プロレスラー」たちは。
また、外国人レスラーたちのこんな苦労話も。
(ジン・)キニスキーの旅日記で欠かせぬのは、初来日での和式トイレの失敗談。ジョー樋口著『プロレスのほんとの楽しさ』(ベースボール・マガジン社)から借用する。
キニスキーがある旅館の便所で、モップを持って懸命に掃除をしていた。
「ジョー、長くかがんでいられないんだ。立ったまま狙いをつけてやったんだが、床に散ってしまった。これではあとの人が入れないから、バケツとモップを持ってきて掃除していたんだ」
その2年後にNWA世界チャンピオンになるキニスキーの、日本式トイレの初体験、周章狼狽ぶりは、想像しただけでも噴き出したくなる。
外国人レスラーの日本式トイレの失敗談は数限りなく、初来日のジ・アラスカンも立ったまま用を足し、マトをはずして泣きそうな顔でバケツとモップを持ってセッセコ掃除していたという。一度でいいから、見てみたかった。
親分肌のハーリー・レイスも和式トイレを苦手とした。「あれはいくらヒンズー・スクワットでトレーニングしてもできないよ。日本のサーキットで困ったのはトイレだった」とコボしている。いかにも昭和の巡業旅らしいこぼれ話である。
リングの上では大暴れしていても、こういうところは、けっこう律儀なんだなあ。
ちゃんと後の人のことも考えて掃除しているなんて。
今や、日本人でも和式トイレが苦手、という人が多い時代になりました。
というか、僕もここ数年は、和式を使った記憶がないんですよね。
結局のところ、洋式のほうがラクだったから、和式は無くなってしまった、ということなのでしょうか。
この本のなかに、「鉄人」ルー・テーズが、ジャイアント馬場さんの訃報に接した際、1999年2月2日の朝日新聞に掲載されたコメントが紹介されています。
「馬場さんはプロモーターとしても優秀で、契約した金は必ず払ってくれる誠実な人だった。これはこの業界ではとても大切なことで尊敬に値する」
「ちゃんと払ってくれない人」が、いかに多かったか、という話でもあるんですよね、これは。
約束を守る、というのは、本当に大切で、当たり前のことのようだけれど、きちんとやるのはそんなに簡単ではないのだよなあ。
昭和プロレスの「空気感」が込められている一冊だと思います。
いままた、プロレスが盛り上がっているのは、オールドファンとしては、ちょっと嬉しくもあるんですよね。
プロレスには、総合格闘技の「リアルファイト」とは違う魅力があるのです。