琥珀色の戯言

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【読書感想】新日本プロレス12人の怪人 ☆☆☆


新日本プロレス12人の怪人 (文春新書)

新日本プロレス12人の怪人 (文春新書)

内容紹介
アントニオ猪木が立ち上げた新日本プロレスは今年、40周年を迎えました。その間、数多くのレスラーたちが観客を、お茶の間を魅了してきました。元東スポ運動部長で、プロレス取材一筋50年の門馬忠雄氏が、その中でも傑出した12人にスポットを当てます。ただ技を語るのみならず、大男たちととことん酒を酌み交わし、深い交友関係を築いてきたのが門馬氏の真骨頂です。猪木をはじめ、山本小鉄長州力タイガーマスク藤原喜明前田日明橋本真也、、タイガー・ジェット・シンアンドレ・ザ・ジャイアントといった看板レスラーたちの強さはもちろん、リング外(酒場など)での超人ぶりも存分に描かれています。

僕のように小学生時代にタイガーマスクに熱狂し、『プロレス・スーパースター列伝』や『キン肉マン』を観て育った世代には、懐かしいプロレスラーたちが12人。
12人のなかで、棚橋弘至さんは「現役のトップであり、いまが旬のレスラー」なんですけどね。


この新書、題材はまさに「タイガーマスクから長州力の維新軍世代を直撃している」のですが、著者の門馬さん、プロレス記者としては有名な方なのですが、「アンチ猪木」だったり、「80年代以降の新日本プロレスの試合をあまり現場で観ていない」など、「なぜこの人を、この新書の書き手として起用したのか?」と疑問に感じるところもあるんですよね。
もちろん、実際に接した人しか知り得ないような興味深い数々のエピソードもありますし、1970〜80年代にプロレスファンだった人にとっては「懐かしい!」と呟いてしまう有名な事件もたくさん採り上げられているのですけど。


「アンチ猪木」を公言している門馬さんは、アントニオ猪木をこう評しています。

 リング上の猪木はアスリートとして素晴らしい。強くて、凄くてシャープなレスラーだ。リングを降りた猪木は危険過ぎる。そう結論付けている。
 猪木の凄さってなんだろう、とよく聞かれる。私の見るところ、身体機能はズバ抜けていたことだ。なで肩で、身体が柔らかく、ヘビー級の領域を越えた身のこなし。ナチュラルな強さである。天賦の才能だ。


それにしても、プロレス界の人と人とのつながりというのは、どこまでがシナリオなのか、こうして何十年も経ってもよくわかりません。
猪木さんと山本小鉄さん、藤原喜明さんとの関係とか、長州力さんの行ったり来たりとか……


役者の世界でも「悪役のほうが、いいひとが多い」なんて話をよく耳にしますが、プロレスでも、ベビーフェース(善玉)よりもヒール(悪役)レスラーたちのほうが、「良い話」が多いのです。
アンドレ・ザ・ジャイアントの足を骨折させてしまった後のキラー・カーンさんの話。

 アンドレの復帰戦が決まると、WWF(ワールド・レスリング・フェデレーション)はここぞとばかりに、テレビ・インタビューで煽った。当然、キラー・カーンも引っ張り出される。
 真ん中にテーブルが置かれ、ベビーフェース(アンドレ)とヒール(カーン)が左右に分かれて座る。カーンにはマネージャーとして”銀髪鬼”フレッド・ブラッシーがついている。本番前にカーンが、ブラッシーを通して「怪我のこと、悪かったね」とアンドレに詫びると、アンドレは「そんなこと全然気にしていない。ガンガンやって、お互いに金を稼ごう!」と応えた。その言葉が最高に嬉しかったという。

アンドレさん、日本のマットでは「大きくて怖い人」というイメージだったのですが、けっこういい人だったんですね……
ドロドロした権力闘争をやっている日本のレスラーたちよりも、外国人のヒールたちのほうが、プロレスを、日本を楽しんでいたようにすら思われます。


アンドレには、こんなエピソードも。

 極めつけはオシッコの話である。前出の外国人担当の運転手赤坂允之氏の体験談を聞こう。
「ビールを1ケース以上飲んでいるんだから、しばらくすると『バスを停めろ』って言うんですよ。普通、バスのドアは空気圧で開けるから、運転席で操作しないと開かないんですが、アンドレはバスを停めたら、手でガバッと開けたんだよね。我々が押したって引いたって開かないのにね。で、開けたら、ドアのステップのところで、小便したんですよ。
 赤信号で隣に停まっていたクルマにひっかかると思ったら、クルマの屋根を飛び越えていった。『ドッドッドッ!』って物凄い量なんだ。まるで馬並みの小便だよね。あんなにビックリしたことないね」

ああ、僕は子どもの頃、プロレスラーのこういう話、大好きだったんだよなあ。
飛行機に乗ったら、積んであるお酒を全部飲んじゃう話とか、そういう「豪傑伝説」みたいなのが。
まあ、これも隣のクルマは、たまらなかっただろうな、とは思うのですけど。


著者は、「新日本プロレスを支えた功労者」として、とくにタイガー・ジェット・シンの名前を挙げています。
当時、主な外国人レスラーを全日本に抑えられていた新日本が白羽の矢を立てたのが、無名のインド人レスラー、シンだったのです。

 カメラマンや取材記者を襲うにしても、複数の人間(目撃者)がいるところでやってくる。そしてファンや観客には決して手出ししなかった。やることなすこと、すべて計算ずくて、心憎いプロなのだ。常にファンの目を意識し、衆人環視のもとで暴れるのだから、ヒールとしての商品価値があがるわけだ。


子どもの頃の僕は、「シンがサーベルを持っているのに、刺すのではなく柄の部分で殴るだけ」だったのをみて「何のためのサーベルだよ!」なんて内心バカにしていたのですが、本当に使われてしまったら、シャレにならないですよね。


僕のような70〜80年代の新日本プロレスファンが、昔を懐かしむにはちょうど良い新書ではないかと思います。


そして、最後に紹介されている棚橋さんの項を読んでいると、「新日本プロレスも変わってきて、なんとかどん底から這い上がってきているのだな」と、ちょっと嬉しくなりました。
 
やっぱり、プロレスが無くなってしまったら、寂しいからさ。

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