- 作者: 青山文平
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/07/08
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
- 作者: 青山文平
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/07/31
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内容紹介
女が映し出す男の無様、そして、真価――。
太平の世に行き場を失い、人生に惑う武家の男たち。
身ひとつで生きる女ならば、答えを知っていようか――。
時代小説の新旗手が贈る傑作武家小説集。
「ひともうらやむ」「つゆかせぎ」「乳付」「ひと夏」「逢対」「つまをめとらば」
男の心に巣食う弱さを包み込む、滋味あふれる物語、六篇を収録。
第154回直木賞受賞作。
青山文平さんの作品をはじめて読んだのですが、それなりの時間を生きてきた人間ならでは(青山さんは1948年生まれ)の人生の滋味、みたいなものを感じる作品集でした。
舞台は江戸時代、出てくる男は「英雄」というよりは、太平の世の中で、いま自分がいる場所になんとなく「違和感」を持ちながらも、自分がいる世界を壊すほどの甲斐性もない、そんな人々です。
なんのかんの言っても、「置かれた場所」や時代によって、人の生き方は変わらざるをえない。
どんな花の種でも、水たまりやコンクリートの上に落ちては、咲きようがない。
ただ、そんな世の中でも、彼らは「ただ生きていれば、食べていられればそれでいい」というほど単純でもなく、「世の中を騒がせて爪痕なりとも残したい」というほどの迷惑な本能を持っているわけでもないのです。
どちらかというと、「譲れないところは守りつつ、自分の世界に籠もって、人生を全うしたい」。
ある意味、現代人に多いタイプのように、僕には思われます。
この作品集を読んで、あらためて痛感するのは、男女の仲というやつの難しさ、なんですよね。
お互いに大好きで結婚したはずなのに、離婚してしまう夫婦もいるし、なんとなく結婚までいったような感じなのに、一緒に暮らしていくうちに絆を深めていく夫婦もいる。
結婚して「妻」になったり、「母」になったりすると、(男性側からすれば)信じられないような変化を遂げてしまう「女」もいる。
本当にわからないものだよなあ、と。
そして、そういうふうに感じているのは、僕だけではないのだなあ、と。
この作品は、時代小説なのですが、登場人物たちの考え方は、現代にも通じるというか、むしろ現代的ですらあるのです。
もしこれと同じような話で、現代が舞台だったら、この「甲斐性のない男ども」を受け入れるのが難しい読者が多いような気がします。
でも、「時代小説」であれば、「徹頭徹尾、男目線」でも、許されやすいのではないかなあ。
この作品集の場合は、つねに、どちらか一方の視点で語ることが徹底されていて、「パートナーの(妻側の視点から描いた作品もあります)内心をあれこれ想像しすぎて苦しんでしまう」という状況に、読者も入り込んでしまうのです。
あらかたの男は、根拠があって自信を抱く。根拠を失えば、自信も失う。
句会に出る男の顔は、見立て番付の場処次第で、顔つきが変わる。御勤めの役職や位階でも、同じことが言えよう。
けれど、女の自信は、根拠を求めない。子供の頃から、ずっと目立たぬために周りを注視してきた私だから、そう見えるのかもしれぬが、女は根拠なしに、自信を持つことができる。
その力強さに、男は惹きつけられる。男のように、根拠を失って自信を奪われることがない。
僕は女性になったことがないからわからないのですが、そういうものなのだろうか……