地球を「売り物」にする人たち――異常気象がもたらす不都合な「現実」
- 作者: マッケンジー・ファンク,柴田裕之
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/03/11
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
- 作者: マッケンジー・ファンク
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/03/21
- メディア: Kindle版
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内容紹介
「北極が解ければ、もっと儲かる」
氷の下の資源争奪戦に明け暮れる石油メジャー、水と農地を買い漁るウォール街のハゲタカ、「雪」を売り歩くイスラエルベンチャー、治水テクノロジーを「沈む島国」に売り込むオランダ、天候支配で一攫千金を目論む科学者たち……。
日本人だけが知らない地球温暖化ビジネスの実態とは?
ニューヨーカー、ウォール・ストリート・ジャーナル、ネイチャー、GQ、ワイアード、タイム・・・絶賛の超話題書、ついに日本上陸!
この本のタイトルと内容紹介を最初にみたときには「地球温暖化を利用して儲けようとする、悪の秘密結社の正体を著者が突き止め、告発する本」だと思ったのです。
でも、読んでみると、著者は「地球温暖化」を危惧しながらも、「それを利用して、一山当ててやろうとしている人たち」の熱気に圧倒されているようにも感じました。
読んでいる僕も、最初は「地球が温暖化し、北極の氷が溶けるおかげで多くの都市が水没するっていうのに、世界の不幸を利用して金儲けしようなんて、酷い連中だ」と憤っていたのに、途中からは、「しかし、温暖化が不可避であるならば、それで稼ぐのは、悪いことばかりだとも言い切れないかもしれないな……」という気分になってきました。
地球温暖化に対して、僕がイメージしている「とるべきスタンス」って、「なるべくエネルギーを節約する生活をして、地球環境を守っていこう。もう、人類は右肩上がりではないのだから」という「慎ましい方向」だったんですよ。
この本のなかでは、「地球温暖化による弊害も、よりいっそうテクノロジーを進化させることによって、抑えこむことができるはずだ」と考え、そこにビジネスチャンスを見いだしている人々が出てくるのです。
そんなにうまくいくのだろうか、というのと、少なくとも、これまでの人類はそうしてきたではないか、というのと。
ほんと、人間ってしぶといというか、ピンチをチャンスに変えていくのだな、と頼もしく感じるところもあったのです。
気候変動への適応と水管理の知見に関して世界で指導的な立場に立つことを決意したロッテルダムは、「デルタ都市連携」と称するネットワークを創設し、会議を主催したり、世界6大陸に散らばる加盟都市に対して、専門家の派遣や専門技術の提供を加速したりしている。港の向う側には、気候に特化したこのロッテルダムのキャンパスの一翼を担うよう説得されたシェルやBP、IBM、アルカディスをはじめとする企業が並んでいた。「キャンパスはやがて、水に浮かぶことになる可能性が高いでしょう」とある役人が私たちに言った。港の残りのうち、ある場所は浮遊式の街区に、またある場所は浮遊式の研究所になり、RDMの学生たちがかつてはホーランド・アメリカ・ラインの看板だった客船SSロッテルダム号に暮らす日が来るかもしれない。「浮遊式の拘置所さえあるんですよ」と言う者もいた。
オランダは、国土の多くが低い土地であることが知られており、さらに地球が温暖化すれば、水没してしまうのではないか、もっとも地球温暖化をおそれている国なのではないか、と思っていました。
ところが、逆に考えると、オランダはこれまでの歴史で、さまざまな「浸水」を体験している「海面上昇対策先進国」なんですよね。
それを利用して、オランダには、これから地球温暖化で水位が上がっていくことを恐れる各国に、そのノウハウを売ろうとしている人たちがいるのです。
商魂逞しい、というべきか。
また、北極圏の氷が溶けることによって、あらたな航路が生まれたり、溶けた氷の下の資源を採掘する、というチャンスが生まれてきたのです。
氷の下には、大量の石油が眠っている。
世界各国は地球温暖化を危惧する一方で、その「利権」を自らのものにしようと動いているのです。
ロシアだけが、ほかの北極海沿岸諸国が気づきはじめたことを声高に口にすることになる。「地球温暖化は一部の国にとっては壊滅的かもしれないが、われわれにとってはそれほどでもない」と。天然資源省のスポークスマンは言いきった。「むしろ、好都合でさえある。農業や工業に使えるロシア領が増えるだろうから」。プーチンは、もっとくだけた言葉を使ったこともある。「われわれば、毛皮のコートなど、防寒具の出費を節約できるだろう」
国家にしても、企業にしても、みんなが「地球温暖化」を危惧しているわけではないのです。
むしろ、「チャンス」だと考えている人も少なくない。
彼らは、地球が温暖化すると聞けば、その対策を行う企業に投資していくのです。
グリーンランドは、温暖化のおかげで鉱物資源の採掘が可能となることが有望視され、それをアテにして、デンマークからの独立を目指しています。
グリーンランド住民の誰のせいでもないが、おそらくモルディヴ諸島は消滅するだろう。ツバル諸島も消滅するだろう。キリバスも、マーシャル諸島も、セーシェル諸島も、カーテレット諸島も。バングラデシュは少なくとも国土の5分の1を失うだろう。フィリピンのマニラ、エジプトのアレクサンドリア、ナイジェリアのラゴス、パキスタンのカラチ、インドのコルカタ、インドネシアのジャカルタ、セネガルのダカール、ブラジルのリオデジャネイロ、アメリカのマイアミ、ヴェトナムのホーチミンの大半も水没するだろう。これらの土地を水浸しにするだけの水量が、世界最大の貯水槽であるグリーンランドの氷床(島の81パーセントを覆う内陸部の氷の塊)に貯えられている。1996年以来、氷床が解ける割合は毎年7パーセントずつ増している。いつの日か完全に解けてしまったら、世界の海面は6メートル以上上昇する。
グリーンランドの氷が溶けると、とんでもないことになる。
しかし、これは「グリーンランドの人々のせい」ではないし、氷がなくなるおかげで、資源開発などの経済的なメリットがもたらされることになるのです。
この本を読んでいて痛感するのは「地球温暖化は、全地球人類にとって悪いこと」ではないのだ、ということなんですよね。
僕はそう思いこんでいたのだけれど、それによって恩恵を受ける人も、少なからずいるのです。
それで恩恵を受ける人の多くが、これまで二酸化炭素を多量に排出し、工業化をすすめてきた先進国の人や企業である、というのも事実なのですが。
自分たちが温暖化の原因をつくっておいて、困ったことなったら、「お前らはこれからもう『贅沢』をするな、それが人類のためだ」と言われたら、途上国の側としては、「はいそうですか」とは言いたくないですよね。なんでお前らばっかり、って思うのが当然だと思う。
そのうえ、「温暖化対策」「資源開発」で、先進国はさらに稼ぐのだから。
科学技術で気象を制御しようという「気候工学」の権威であるネイサン・ミアヴォルドさんは、こんな話をされています。
「気候変動を防ごうとする運動家のなかには、解決策について広範に議論するのはいっさい回避すべきだという立場をとる人がいます」と、ミアヴォルドは最後に会ったときに口にした。「彼らは自分たちの解決策が唯一だと思っていて、それは、排出削減をして再生可能エネルギーなどへ進むことです。彼らは気候工学という概念を死ぬほど嫌っています。自然を保護し無理をせずに暮らすというイデオロギーに染まっていて、それが時として強い反テクノロジーの態度につながります。もしそのようなイデオロギーを持っていれば、地球温暖化は結局、自分の望むことを人々に納得させる根拠となるのです」
こういうのを読むと、たしかに、もっといろんな方向から「解決策」を探ってみるべきかもしれないな、という気もするんですよね。
人間って、停滞とか我慢よりも、発展とか贅沢を望みがちなものなのに、これからの人類に「つつましさ」を押しつけることができるのかどうか。
気候変動のおかげで金持ちになれると考える人に、私は何百人も出会ったのだ。自分の二酸化炭素排出量枠をはるかに超えるほど飛行機に乗り、24か国とアメリカの十数州を訊ねながら、本書に収録した文章を書くために費やした6年の月日に、私は、暴利を貪る商人、エンジニア、軍閥の長、傭兵、自警団員、政治家、スパイ、起業家、泥棒など、温暖化した新しい世界で勝ちを収めようとしている人々と出会った。その誰もが私に親切に接してくれた。そして、イデオロギー、恐れ、非情な現実主義のいずれか、あるいはすべてに衝き動かされた彼らのほぼ全員が、自分は必要なことをしているまでだと考えていた。この6年間で、私は1人として悪人には出くわさなかった。
僕は「悪の秘密結社」みたいな連中が告発されると思って読んでいたんですよ。
でも、そんな人や国や企業は、出てこなかった。
「地球温暖化なんか、テクノロジーで抑えこんでしまえ!」と言い切れるほど共感はできませんでしたが、結局、自分が得することをやろうとするんだよな、と、かえって清々しい気分になりました。
みんな、けっこうしたたかだよなあ、地球や人類の未来のことはさておき(……って、それがいちばんの問題、のはずなのだけれど)。