- 作者: 川崎草志
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2017/01/28
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
- 作者: 川崎草志
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2017/01/28
- メディア: Kindle版
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内容(「BOOK」データベースより)
ベータ基板が盗まれた!?ありえないほどの高得点を打ち立て続けるプレイヤー?発売後に見つかったプログラムの改竄…。ゲーム産業の過渡期に巻き起こった数々の事件。それらを乗り越え、ゲーム会社「ネットワ・テック」は、果たして生き残れるのか!?シューティングゲーム、バイク型筐体ゲーム、アドベンチャーゲーム…。懐かしくも新しい全6篇!
2000年前後のゲーム業界を舞台にした連作短編集。
僕は子供の頃、「ゲームを作る人」か「ゲーム雑誌の編集者」になりたいと思っていたので、「当時のゲーム業界で働いている人たちって、こんな破天荒で遊び心に溢れた人たちだったのかなあ」なんて思いながら読みました。
とはいっても、ゲーム制作現場そのものではなくて、「ゲームをつくっている人たちをその周囲で支える存在」が描かれている作品が多いのですけど。
2017年でも、もっと初期のファミコン黎明期の混沌とした時代ではなく、2000年前後が舞台なのだろう、と疑問だったのですが、作者はセガ・エンタープライゼスに勤務経験があるとのことで、自分自身が実際に見聞きしたものをベースにしているところがあるのでしょうね。
2000年といえば、ゲーム業界にとっては、ちょうど「インターネット黎明期」であり、ネットワークとどう向き合っていくか、という問題が生じてきた時期でもあります。
僕がインターネットにはじめて触れたのも、このくらいで、「2000年問題」の際には、大晦日に不測の事態に備えてみんなで病院に泊まり込んだのを思い出します。
コンピュータが動かなくなって、人工呼吸器が急に止まったらどうする?
本当にそんなことになっていたら、どうしたんでしょうね……
人力でやるしかないのでしょうけど、それを状況が回復するまで続けることを想像すると、恐ろしい……
ところどころに、ゲームマニア心をくすぐる昔のゲームのタイトルやエピソードが挿入されていて、嬉しくなってしまうのです。
「これ『フェロー・パイロット』ですね」
「知っているのか」
真城は頷いた。
十二、三年前、真城がまだ小学生の時に発表された多人数対応のゲーム機だ。一度に八人が戦闘機パイロットとなってプレイできる。日本経済がまだバブル景気の終盤にあった時だから作ることができた、贅沢な製品だった。ただ、価格が数千万円したために、さすがに当時でも買い手はなく、一セットのみ製作された『フェロー・パイロット』は、テーマパークや大型の商業施設にリースされていたと聞いている。
ああ、これはナムコの「あのゲーム」がモデルなのでは……
そういうことを考えながら読むと、けっこう楽しい。
当時のゲーム業界の守秘義務の厳しさや他社との駆け引き、たぶん現在もあまり変わらないであろう、開発者たちの締めきり前の状況など、「ゲーム業界って、こういうところなんだな。ゲームクリエイターだけの力で、ゲームがつくられているわけじゃないのだな」ということもわかります。
いわゆる「暴露本」ではないし、企業ミステリでもない。
ゲーム会社で働いている人たちの、けっこう地味な人間模様を描いた小説なのですけど、こういうのって、ありそうでなかった。
万人向けではないでしょうけど、ゲーム業界に憧れたことがある人にとっては、すごく「感じの良い本」だと思います。
いまの30〜40代のゲーム好きって、一度は「ゲームクリエイターになりたい!」って夢見たことがあるんじゃないかなあ。