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【読書感想】ゲームの企画書(3) 「ゲームする」という行為の本質 ☆☆☆☆

ゲームの企画書(3) 「ゲームする」という行為の本質 (角川新書)

ゲームの企画書(3) 「ゲームする」という行為の本質 (角川新書)


Kindle版もあります。

ゲームの企画書(3) 「ゲームする」という行為の本質 (角川新書)

ゲームの企画書(3) 「ゲームする」という行為の本質 (角川新書)

内容紹介
賢者は歴史に学ぶ――全クリエイターに捧ぐヒット企画の開発秘話第3弾

ゲームを作る人々の証言や活動の記録を残していきたい。それもできるだけ、躍動感あるクリエイターたちの奮戦の物語として、多くの読者に読まれるものとして──。 「ゲームの企画書」は、そんな想いから始まった連載シリーズ。第3弾では、栄枯盛衰の激しいゲーム業界で活躍し続けるトップランナーたちと、エンタメの本質に迫る。
第1章 『ワニワニパニック』から会長までのぼりつめた男(石川祝男×相木伸一郎×小山順一朗)/第2章 『パワプロ』『みんゴルスポーツゲームの本質(谷渕弘×豊原浩司×小林康秀×村守将志)/第3章 日本ファルコム たった50人の人気ゲーム会社(加藤正幸×近藤季洋×佐藤辰男)


 伝説のゲームクリエイターたちへのインタビュー集の第3弾。
 この『ゲームの企画書』シリーズとして出版されたのは、現時点では、この(3)までです。
 テレビゲームの歴史をつくってきた人たちが、年を重ねてきていることもあり、ものすごく貴重な証言集になっています。


 バンダイナムコホールディングス元会長の石川祝男さんと、同社執行役員の相木伸一郎さん、クリエイティブフェローの小山順一朗さんの章より。

相木伸一郎:そういえば、中館くんが『太鼓の達人』の原型を作っているときは、みんなに内容をけなされていましたけれど、「製品化しよう」と言ったのは石川さんだけでしたよね。


石川祝男当時は営業も販売もみんな否定していて、「いまさら音ゲーなんかいらない、もう勘弁してくれ」というムードだったんですけれどね。私は企画内容を聞いて、「いままでの音ゲーとちょっと違うな」、「シンプルで面白いんじゃないかな」と思って、作らせたんですよ。そこから少しずつ評価が得られて、最終的にはみんなも協力してくれてね。


相木:展示会に出展する前に、会議で『太鼓の達人』の話をしたら、セールスマン全員が「こんなものはいらない」と言っていましたよ(笑)。「これを出したら、自分たちが既存の音ゲーとの違いも含めて説明をしないといけないから」と言って「出す必要はない」の大騒ぎですよ。
 でも石川さんが来て、「出すんだよ! 四の五の言うな!」と言ったら会議が終わった。
 その後はみんなが不満を持ったまま展示会の日を迎えたのですが、『太鼓の達人』は当日から大人気で、筐体はブースの隅っこに何の宣伝もなく置いてあったにもかかわらず、人だかりができていて大変でした。


──いまの人気を考えると、ちょっと信じられないようなエピソードです。


小山順一朗:ドラゴンクロニクル』も、『アイドルマスター』も、石川さんの応援がないとできなかったゲームですよね。


 いまや、ゲームセンターと名の付くところには必ず置いてある『太鼓の達人』も、石川さんがいなかったら、世に出ることはなかったかもしれません。
 石川さんは、企画の良し悪しを判断する基準として、自分の直感とともに、「最初からまったくダメな企画は仕方がないとして、『良いか悪いかで迷ったら、やらせてみたい』という気持ちはあります」と仰っています。
 優しいだけ、甘いだけの上司ではないのだけれど、根底に「やる人の熱意と工夫が感じられるものは、やらせてみたい」という思想があるのです。
 もちろん、うまくいくことばかりではないけれど、そういう姿勢が『太鼓の達人』や『アイドルマスター』の大成功を生んだのです。
 これを読んでいると、何がウケるかっていうのは、ゲームを作って売るプロたちでも、案外わからないものなのだな、とも感じます。


 第3章では、老舗ゲームメーカー、日本ファルコムの創業者であり現会長の加藤正幸さんと、2007年に32歳で社長に就任した近藤季洋さんへのインタビューが収録されています。
 聞き手が『コンプティーク』の初代編集長の佐藤辰雄男さんというのも素晴らしい。
 オールドマイコンゲーマーとしては、懐かしさに浸らずにはいられませんでした。

 僕はマイコンゲームメーカーだった時代の初代『ドラゴンスレイヤー』、「ザナドゥ」の頃から「日本ファルコム」をみてきましたし、今もゲームメーカーとして存在感を示し続けていることを大変嬉しく思っているのです。
 ちなみに、ファルコムには、あの新海誠監督やゲームミュージックの巨匠・古代祐三さんも所属していたことがあります。

──社員数がほとんどずっと変わらないし、いつも人材を募集しているのに、安定して高品質のゲームを作っているというのも謎といえば謎で……。御社がそうしている、あるいはできている”秘密”は何なのかな、と。


加藤正幸:「儲かっていない」、「潰れそう」だとか、「ファルコムはまだ残っていたのか」なんて噂も流れていたりするようだけど(笑)。ウチは──売り上げはそうでもないけど──、利益率は日本一なんですよ。あえて言い返したくもないんですけどね。


──なかなか辛辣な噂ですね。


加藤:それに、赤字だったタイトルはいままでひとつもないんですよ。こぢんまりとやっているからこそ、そういうことができる。


──こぢんまり、と言いますと?


加藤:ハードが進化するにつれて、ある時期から規模を拡大していかないと”良いゲームが作れない時代”が来ましたよね。
 いまもそうかもしれないですけれど……、顕著な例では、スクウェアさんみたいにCGに力を入れてきた頃、ウチもそれと同じことをやろうとは思わなかった。僕は「(CGに力を入れるために)”人員を増やす”というような)ゲーム作り以外で苦労をするのは、まっぴらごめん」みたいな気持ちがあるのでね(笑)。
 雇う人を増やすといろいろ大変だし──僕は基本的に人嫌いなんでね。だから、規模を拡大しなくても会社を続けていける方法はないかと考えて、思いついたのが「ストーリーを充実させたゲームを作ること」なんです。
 たとえば小説は、100人で作ってもロクなものにならないだろう、と(笑)。作家はひとりで十分なんですよ。この方針が上手くいけば、何千人が働くような大手の会社にも対抗できるじゃないですか。
 その結果できた妙なゲームが、たとえば『英雄伝説III 白き魔女』。このゲームはやたらとセリフが多くて、文字数が多いんだよね。


近藤季洋:キャラクター全員に名前がついていますからね。当時、こんなゲームはほかにはなかったんですよ。


加藤:物語重視の方向なら、物好きなすごいオタクが1人いればシナリオが作れる。そういう考えもあって、会社は物量勝負の拡大路線ではなくて、アイデア勝負のほうに行ったわけです。


 コストがかからない「物語」を重視する、という方針を貫いたからこそ、日本ファルコムは「赤字のゲームがない」会社として、ずっと続いているのです。
 しかし、固定ファンがある程度いるとはいえ、「物語重視」というのも、その物語がユーザーの好みとズレてしまえば全く売れなくなる可能性も十分あるわけで、「すごいオタク1人を選ぶセンス」に会社の命運がかかっているわけです。
 それで、ずっと会社が続いているというのは、本当にすごいことではありますね。
 昔から、「日本ファルコムのゲーム」というだけで応援の意味も含めて買ってしまう、というプレイヤーも少なからずいるのだと思います。

 このインタビューを読むと、日本ファルコムというのは、面白いというか、唯一無二のゲームメーカーだな、とあらためて感じるのです。
 
 とりあえず、この(3)で『ゲームの企画書』の書籍化はいったん終わりだそうですが、本当に素晴らしい企画ですし、まだまだ話を聞いてみたい人もたくさんいるんですよね。
 続刊を、楽しみにしています。


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