- 作者: 斉藤康己
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2016/10/08
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (3件) を見る
Kindle版もあります。
- 作者: 斉藤康己
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2016/12/02
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
内容(「BOOK」データベースより)
人間とは違う「思考」で戦うモンスター。2016年3月、世界中の囲碁ファンが世紀の対決に息を呑んだ。グーグル・ディープマインド社が開発したアルファ碁が、韓国のイ・セドル九段と五番勝負を戦い、アルファ碁が4勝1敗で勝利した。将棋と違い、盤面の広い囲碁では、機械が人間を負かす日は遠い将来のように言われていたが、驚くべき進歩を遂げていたのだ。なぜアルファ碁は人間に勝てたのか?人間に再逆転の可能性はあるのか。それとも、このまま人間の敗北は決定し、ついには人工知能が世界を支配する日も遠くはないのだろうか。
近年、将棋では、コンピュータが人間のトップ棋士と互角以上の勝負をみせてきました。
しかしながら、将棋よりも囲碁のほうが打てる選択肢が多く、コンピュータが人間に勝てるようになるには、将棋よりも時間がかかる、というのが「定説」だったんですよね。
そんななか、行われたのが、アルファ碁とイ・セドル九段の勝負でした。
2016年3月9日からの1週間、韓国ソウルのフォーシーズンズホテルにてその対戦は行われました。アルファ碁(AlphaGo)という名前の囲碁プログラムと、韓国のトッププロ棋士の一人であるイ・セドル九段の5番勝負です。アルファ碁は、グーグルが2014年に買収したイギリスのディープマインド社が開発、最新のAI技術を駆使したプログラムで、2016年1月末には『ネイチャー』にその強さを報告する論文が掲載されていました。
囲碁では、まだ人間のほうが強いのではないか、と僕は予想していたのですが、終わってみれば、アルファ碁の4勝1敗。
第4局でイ・セドル九段が辛うじて一矢を報い、全敗は免れた、という印象でした。
将棋の次は囲碁、だと思っていたのですが、将棋とほぼ時を同じくして、囲碁もコンピュータが人間のトップを凌駕してしまったのです。
いつかはそうなるだろう、とは思っていたものの、まさかこんなに早いとは。
この新書では、著者が、アルファ碁の強さの秘密、どのようにして、その思考ルーチンが磨かれていったのか、を詳しく説明しています。
正直なところ、コンピュータやプログラミングに対する、ある程度の知識がないと、読みこなすのはちょっと難しいとは思います。
「アルゴリズム」という言葉を聞いて、「何それ?」というくらいだと、ちょっとキツいんじゃないかな。
著者は、アルファ碁と人間の囲碁棋士とでは、同じルールのゲームをプレイしているけれど、アルファ碁と人間は、「違うやり方で囲碁というゲームを行っているのだ」と仰っています。
人間の場合と、アルファ碁の思考ルーチンについて、かなり詳しく説明されているのですが、これはもう、僕には簡単に説明することが不可能なので、興味を持たれた方は、この本を読んでみてください。
この本のなかで、著者は「ここまでの説明を読んできてくださった読者の方には、とても簡単にアルファ碁を言い表すことができます」と述べています。
アルファ碁は、畳み込みニューラルネットとモンテカルロ木探索をうまく組み合わせて高速の計算機を何台も連携させた、ハードウェアの上で実現した囲碁プログラムです!
うーん、これ、わかりますか?
僕はこの部分まで、けっこう集中して読んできたのですが、「まあ、半分くらい、わかった、ような気がするな……」という感じでした。
基本的に「コンピュータと囲碁の双方に、それなりの予備知識を求める内容」ではあるんですよね。
著者は「アルファ碁」が人間に比べて「強い」理由のひとつを、こんなふうに紹介しています。
ややもすると、人は今まで人間との対局で養ってきた相手のモデルを持っていて、相手も自分と同じように考えているはずだと思いがちです(その相手のモデルは自分のやっている思考をベースにしているからです)。実際、計算機と人間の対局の解説とかでは、しばしば人間にしか当てはまらないような説明が飛び出してきます。
曰く、「アルファ碁、何を考えているのでしょうか?」とか「これは勝負手ですね」とか「アルファ碁はもう勝ちが見えているので、ここは手を抜いてきたのでしょうか?」とか、挙げればきりがありません。
このように「擬人化」したプログラムの挙動の説明は、しばしば正しくないので、注意して聞く必要があると思います。計算機プログラム、特に人工知能のプログラムについて考えるときに人間が陥りやすい罠の一つではないかと思います。
また、プログラムすべてに言えることですが、プログラムは疲れず、ミスを犯さず(プログラムに含まれているバグに起因する間違った動作はすることがありますが)、淡々と計算を進めます。失敗を失敗と認識することもなく、失敗の影響を受けてその後の思考が乱れるということもありません。
持ち時間が少なくなってきても焦ることもなく、秒読みで計算を途中で打ち切らざるを得なくなっても「平然と」(これも擬人的なので使わないほうがよい言葉ですが)、計算を打ち切ってしまいます。アルファ碁には心理的な弱点がないと言ってもよいかもしれません。このように勝負に関して強いプレッシャーを感じる人間よりは、計算機は計算機であるというだけで、相当大きなアドバンテージを持っているのかもしれません。
コンピュータはどんなに長時間思考を続けても疲れないし、ミスもしない。
勝負所だからといって、緊張もしない。
そりゃ強いよね。
でも、観客からすると、そういう「人間的なドラマ」をコンピュータに投影しがちだし、人間どうしの対局の面白さというのは、そういう「人間らしいミスをしてしまう可能性があること」が大きいのです。
もしかしたら、これからは、人間らしいミスをしてくれる「手加減するコンピュータ」が求められるのかもしれません。
というか、普通の愛好家が勝負して楽しいのは、ある程度「いい勝負」ができる相手なわけですし。
著者は、アルファ碁のみならず、AI(人工知能)の現状と今後の展望についても、楽観論、悲観論の双方を踏まえて話をしています。
人工知能によって人間の仕事が奪われていくのは事実だけれど、「その仕事が人間相手だと(具体的には教育、医療、介護、接客、営業などの分野)、なかなか機械やロボットでは置き換えられないと思う」と仰っています。
これはかなり幅広い分野ですよね。
では、人間ではなくて物を相手にする仕事はどうでしょうか? 物を相手にした単純な作業はすでに多くの工場などで機械に置き換えられています。そのほうが効率もよく、間違いも少ないからです。もうすこし複雑な「物を相手にした仕事」、例えば工事現場の肉体労働とかはどうでしょうか? 「スコップで穴を掘る」というような動作は典型的な単純肉体労働だと思われていますが、そんなに簡単なことでしょうか。どんな場所でも目的に合致した適当なサイズの穴をうまく掘ってくれるロボットというのはそれだけで案外チャレンジングな課題だと思われます。スコップという人間向けに作られた道具を使いこなす部分がまずは大きな課題でしょう。スコップをやめてぐるぐる回るドリルのようなものにすればうまくいくでしょうか? 少し思考実験をしてみてください。
また、穴掘りロボットは、人間の現場監督からの言葉による指示通りに作業をしなければならないということも見逃されがちなポイントです。
人間と関わる以上、人間の曖昧さを「解釈する」という難しさがついてまわるのです。
初心者向けとは言いがたい新書ですが、「コンピュータは何を考えているのか?」(実は「考えているわけではない」)について興味がある人は、挑戦してみる価値がある本だと思います。
人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?―――最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質
- 作者: 山本一成
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2017/05/12
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る