誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命 (星海社新書)
- 作者: 数土直志
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/03/25
- メディア: 新書
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内容紹介
20年ぶりの大転換が、静かにはじまっている
製作委員会を立ち上げてお金を集め、深夜にTV放送し、DVD・ブルーレイを売って回収する―この20年の間、日本のアニメ業界を発展させてきたビジネスモデルが大きな転換点を迎えている。変化のきっかけをつくったのは、潤沢な資金を惜しみなく投入する中国、そして、Netflix・Amazonをはじめとした、定額映像配信サービス企業だ。彼らの登場によって戦局は大きく変化し、混迷している。本書は、15年にわたって日本のアニメを取材してきた現役のジャーナリストが、激変する日本のアニメをとりまく状況を分析し、未来を予測する1冊である。主役もいなければ正解もわからないこの時代をサバイブするのは誰だ……!?
「世界に冠たる」日本アニメ。
『千と千尋の神隠し』がアカデミー賞のアニメーション部門賞を獲得したり、『君の名は。』が、中国で大ヒットしていたりと、「クール・ジャパン」の代表格として認識されています。
1兆8253億円。
一般社団法人日本動画協会が「アニメ産業レポート2016」で発表した2015年の日本アニメの産業現場だ。テレビアニメ、劇場映画、映像ソフト、さらにキャラクター商品、イベント、海外など日本のアニメに関するほとんどの市場が含まれる。
この数字をみて、どう感じるだろうか。
意外に大きいと思った方も多いかもしれない。国内の出版市場は1兆5220億円(2015年/出版科学研究所)、ゲーム市場は1兆3591億円(2015年/ファミ通ゲーム白書)だ。これらと比較してもかなりの大きさである。
近年「世界に誇るアニメ」と形容されるのもうなずける。
しかし、日本動画協会は、もうひとつ別の数字も発表している。
2008億円。先の数字の約1/9となる。1兆8253億円に比べると数字はぐっと小さい。国内のアニメ制作会社の売上高だ。
著者は、この「アニメの市場」と「アニメ『制作』の市場」の大きな差から、考察をはじめているのです。
現在のアニメの海外販売では、アメリカと中国が重要なマーケットとなっており、中国企業から日本のアニメ制作会社への番組の発注も増えているそうです。
僕は、「中国って、偽ドラえもんのテーマパークとかつくって、パクリが横行しているんじゃないの?」などと考えてしまうのですが、中国の知財に関する意識は急激に高まってきており、お金と勢いもあるのです。
海賊版の違法配信で商売にならない、というのも、すでに過去のことになっているのだとか。
日本のアニメは、中国ほど政府による表現規制が強くないし、現在は、インターネット配信で安価に世界中で見てもらうことができますし。
最近のハリウッド映画での中国の扱われ方をみていると、「中国マネーの影響力」というのは本当に大きいのだな、と痛感させられます。
観客としては、なんで入場料を払ってみているのに、中国企業の宣伝を作中で見なくちゃいけないんだ?とも思うんですけどね。
ただし、中国企業から、日本のアニメ制作会社への投資については、まだ先行き不透明なところはあるようです。
テレビアニメの収益回収の方法として代表的なのは、ブルーレイ・DVDなどの映像ソフト販売だ。しかし、一昔前は収益の8割とも言われたこのビジネスモデルも、配信サービスの広がりによって陰りを見せている。今、映像ソフトだけでの回収は、大ヒット作でもなければ難しい。イベントや音源、キャラクター商品の展開も必須だ。
中国色の強い作品は、この二次展開が出来ていない。中国市場に戻っても、ゲーム展開、商品化は活発ではない。
ここに危うさがある。つまり、中国企業の日本アニメ進出は先行投資の意味合いがかなり強く、なにより「ライバル企業に負けたくない」という意識からきているものと見られる。競合に市場を渡したくないのだ。
いまは先行投資の時期だということで、そんなに儲からなくてもどんどんお金を出してくれるけれど、こういう状況のままでは、いつまでその景気の良い時期が続くかはわからない、ということのようです。
僕は深夜アニメなどが、DVDやブルーレイディスクの売り上げまで含めて、制作費を回収、利益をあげるモデルでつくられているところまでは知っていました。
しかしながら、ネット配信の影響で、DVDやブルーレイの売り上げは停滞、下降してきています。
それに、このやり方だと「DVDがコアなファンに売れそうな作品」しかアニメ化できない、という問題点もあるのです。
著者は、これからのアニメの「主戦場」として、ネット配信の現状と将来像について、詳しく解説しています。
米国系映像配信会社の日本進出は、中国企業の日本進出の状況とも重なる。中国から日本アニメに進出する企業も、その多くが映像配信会社である。むしろ米国だから、中国だからではなく、そもそもアニメビジネスの中心が、いまや世界規模でインターネットにダイナミックにシフトしている。
現在の映像ビジネスの主戦場はインターネット。これは中国、米国だけではなく日本でももちろん同じだ。
日本の映像配信の売上は、2015年で1397億円(デジタルコンテンツ協会)だった。これに対してテレビ放送は3兆9307億円(平成27年版情報通信白書)、映画興業が2016年に2355億円(日本映画製作者連盟)、映像ソフトは販売だけで2044億円(日本映像ソフト協会)になる。映像配信はこれらにまだまだ及んではいない。しかし、従来型のビジネスの成長がいずれも伸び悩み、下がっているのに対して、映像配信は2015年で前年比13.5%増だった。さらに今後の成長が期待される。
テレビ放送にはまだまだかなわないものの、ネット配信は、映画や映像ソフトにどんどん迫っているのです。
ネット配信が主流となることによって、作品の構成にも影響が出てきています。
配信ならではの試みで、とりわけ大きいのは番組の長さである。アニメ『モンスターストライク』は、1話の長さが7、8分程度にされている。アニメと言えば、テレビシリーズ30分枠で本編22〜23分が視聴者には馴染み深い。7分の長さはやや短く感じられるかもしれない。しかし、本作のプロデューサーでウルトラスーパーピクチャーズの平澤直氏によれば、これはYouTubeの動画の平均視聴時間10分以内に基づき、メディアに最適化されたものなのだそうだ。視聴者のニーズに合わせた長さで、ストレスを感じさせない。一方で、映像のクオリティは従来のテレビシリーズと遜色がない。また、7分とすることで、ストーリーのテンポをあげている。アニメの演出も変化するわけだ。
しかも、その約7分も厳密に決められているわけではなく、各話ごとに異なる。なかでも2016年8月に配信された特別版『マーメイド・ラプソディ』は約50分の中編。また2016年11月には長編映画『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』が全国公開された。配信アニメがテレビを経ずに劇場化されたのも、新しい試みだ。
たしかに、テレビの放送時間枠という制約がなければ、もっと多彩な長さの作品がつくられて良いはずですよね。
その一方で、短くて、テンポを上げる演出は、作品から重厚さを奪ってしまうのではないか、と僕は考えてしまうのです。
正直なところ、最近は映画館で2時間映画をみているのも途中で集中力が途切れてしまうので、短くなるのは歓迎、でもあるのですが。
日本のアニメは世界中で愛されている一方で、アメリカの大作アニメーション映画には水をあけられています。
ネット配信によって、日本のアニメは、ディズニーやピクサー作品と肩を並べるような「世界標準」になっていけるのか?
アニメのつくられかたも、観られかたも、いま、大きな転換期を迎えている、ということがよくわかる新書です。