琥珀色の戯言

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【読書感想】中国共産党 世界最強の組織 1億党員の入党・教育から活動まで ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

日本の中国専門家、全員脱帽。
ーー安田峰俊(中国ルポライター、第50回大宅賞受賞)

なんで中国共産党はあんなに強固なんだろうとつねづね思ってたんですが、全て氷解しました。
ーー井上純一(『中国嫁日記』作者)

「強い中国」を実現した異形の「民主」システム
中国共産党の真の力を「組織論」から解き明かす!

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中国の草の根社会に根差す中国共産党の実態がいま明らかに!

日本人は、隣国かつ最大の貿易相手である中国を支配する共産党の実態をほとんど知りません。というのも、その本質は日本で盛んに報道される党中央ではなく、地域に根差したボトムアップの組織構造にあるのです。本書は、これまで日本で語られてこなかった中国共産党の下部組織を初めて紹介します。約1億の党員がいかに訓練され、企業や地域に浸透しているかを知らずに中国社会は語れません。「なぜ中国は迅速なロックダウンができたのか」「なぜ中国進出する日系企業共産党員を迎える必要があるのか」このような疑問を解く鍵を握るのが共産党組織です。「一党独裁」のイメージからは想像できない真の中国をご案内しましょう。

装画:井上純一

あなたが知るべき「中国共産党」の全貌がこの一冊に!

第1章 どうすれば中国共産党員になれるのか
第2章 中国共産党の最重要組織・党支部とは何か
第3章 中国共産党組織の階層構造
第4章 党組織が統治する中国の地域社会
第5章 共産党組織は企業でどのような活動をしているのか
第6章 外資系企業は共産党組織とどう付き合っていけばいいのか


 新型コロナウイルス禍のなかで、中国は「共産党一党独裁」の利点を活かして、強権的に人々の行動を制限し、あっという間に病院を建て、都市をロックダウンしてウイルスを「封じ込めて」いきました。
 「民主国家」である日本では、政府ができる「制限」にも限界がありましたし、アメリカでは「マスクをしない権利」を訴えていた人たちが、かなり大勢いたのです。
 少なくとも、「有事」に際しては、「有能な政治家による独裁政治」のほうが有利なのではないか?
 そんなことも考えさせられました。
 十数億人という人口を抱える国をなんとか維持できているのも、共産党が強い権力で統制しているからで、ネット上でも検閲が行われている怖い国。

 「共産党のエリートたちがなんでも決めて、上意下達で国民を従わせている」
 僕は正直、そんなイメージを持っていたんですよ。

 この本を読んで、政治局員のような上層部ではなく、日本でいえば町内会の役員や会社の労働組合員のような「中国で生活をしている人たちが日常的に接している共産党員たち」が、中国の地域社会や企業を支えている、ということを知りました。
 彼らは「中央の政治局員に操られる意志のない駒」ではなく、地元の人たちの不満を吸い上げて上層部に報告したり、身近なトラブルに対応したりしているのです。

 党中央なり中国政府なりが、変化の激しい現代中国の社会に対応する政策や方針を打ち出したり、新たに生まれた問題や意見やアイデアをくみ上げたり察知したりできるのはなぜか、という点はあまり多く語られませんでした。その背景には、2021年時点で9500万人以上の党員を抱え、やがて1億に迫ろうという巨大な中国共産党組織があります。どうやって下からの意見を吸い上げ、そして、上で決定された政策を誰がどのように実行するかといった面にこそ、草の根民主主義一党独裁が巧みに組み合わされた中国式の統治システムの、更に言えば今の中国社会の特徴があるのです。本書はその仕組みの要となる中国共産党末端の組織を紹介することを目的としています。


 共産党員、といえば、なんだか秘密結社的というか、共産党の悪口を言っているやつを見つけ出して処罰する、というイメージを持っていたのですが、1億人もの党員がいて、地域社会と一体化している、というのが現実なのです。
 
 地域や職場に設置される党支部では、「学習」や「レクリエーション」も行われ、毎四半期(3ヶ月)に一度、党員大会が開かれます。

 党員大会で最も時間を要するものが討論です。表決の前に支部の党員が意見を表明したり質問をしたりする時間をとります。もし、議論が長引くならば、会議を別の日に持ち越しても問題ありません。討論が終わったら表決ですが、一般的には過半数の賛成で可決、そうでなければ否決となり、少数意見は多数意見に服従することになります。
 この辺りは「民主的」かつ「自由」な仕組みなので、中国と関わったことがない日本の読者の多くが意外に思われるかもしれません。中国人は自己主張が強烈な傾向があります。高い教育を受けた人でもそうでなくとも、意見や要求をバンバン言います。中国共産党について、単に上から言われたことをしているだけの組織というイメージを持っている方も多いかもしれませんし、確かに党是や理念などについては上に服従しているわけですが、実際の細々としたことの決定については、そうでもありません。むしろ日本の様々な組織のほうが、上の決定にはとりあえず従うとか、会議などで強烈な主張や要求をしないという傾向は強いかもしれません。
 とはいえ、党支部の意思決定は民主的な側面だけで構成されるわけではありません。少数は多数に服従し、末端は中央に服従するという仕組みと組み合わされています。この辺りは日本を含む先進資本主義国の人々が社会主義国に持つ専制的なイメージはそう大きく間違ったものではないのかもしれません。


 みんな何も考えずに中央の方針に従っているわけではなく、共産党の末端レベルでは、かなり自由な議論が行われているのです。
 僕も、中国から来た研究者と同じ職場にいたことがあるのですが、日本的な感覚だと「自分の都合ばかり主張するのは悪いな」というようなことでも、その人は「まず、自分の言いたいことを言う。ただし、そこで議論になって自分の意見や都合が否定されても、それを根に持つことは少ない」という印象を持ちました。

 世界一の人口を抱えているとはいえ、中国がこれほどまでの経済成長を達成し、世界での存在感を増してきたのには、共産党を支柱とした合理的な社会運営のシステムがあったからなのだな、ということも理解できたような気がします。

 例えば、2020年の新型コロナウイルス肺炎の流行に際して、中国では大規模かつ厳格なロックダウンがなされました。区域の外に住民が出ることや、区域の中に住民以外が侵入することが厳しく制限されました。
 中国のロックダウンについて、日本では「一党独裁ゆえに強権的な厳しい措置ができたのだ」と知ったようなことを言う評論家や言論人が多かったと記憶しています。「感染防護ができているように外国に見せつけるための偽装ではないか」と疑う知識人や言論人も少なくありませんでした。
 しかし、いかに強権を持とうが、独裁であろうが、実際に人々の往来を管理・監督する労力を割き、また、決まりを破らないよう住民を教導・説得する手間をかける人々がいなければ、実効力を伴う外出制限など不可能です。にもかかわらず、多くの日本の論客は、「誰がそんな面倒くさいこと(外出しないように指導したり見張ったりなど)を担当しているのか」という点にほとんど注意を払わず、「一党独裁が」「厳しい支配が」というような決まり文句を繰り返すだけでした。普段は「決まりや列を守らない中国人観光客」をたくさん日本で見てきたはずなのに、「誰が現場で指導・管理しているのか」を彼らはなぜ考えなかったのでしょうか。これでは絵に描いた餅にもなりません。彼らに不足していたものは、地域コミュニティの「基層」に対する認識でした。
 中国において厳しい外出制限が実行できたのは、区域内外の往来を制限するための権力と手段と労力が既に各地域に用意・組織化されていたからです。それは、「社区委員会」や「居民委員会」と呼ばれる、一種の地域自治組織です。これらの自治組織と住民との間で意思疎通のチャネルやそれなりの信頼関係が既に築けていたからこそ、中国のロックダウンは可能となったのです。


 僕も関わってきた(今でもやっています)新型コロナウイルスに対するワクチン接種を思い出しました。
 ワクチン接種の担当大臣がいくら声高に「日本国民みんなにワクチンを打とう!」と叫んでも、それを実現するためには、大勢の人の力が必要なのです。
 1億人もの人々にアナウンスし、副作用もあるワクチンに対する理解を求め、ワクチンを準備して実際に接種するというのは、「大事業」で、医療関係者のみならず、会場の準備やワクチンの仕入れ、広報など、さまざまな現場での苦闘がありました。

 「独裁」のトップばかりに注目が集まりがちですが、それぞれの現場での組織力や個々のメンバーの能力が上がっているからこそ、中国で「ロックダウン」が可能だったのです。
 まだまだ未熟な面もあるけれど、もう、「ドラえもんのニセモノが出て来る遊園地の国」というイメージは過去のものになりました。
 現在の中国は、ドローンの技術では世界でもトップクラスで、これまで通貨の信頼度が低かったために、かえって、キャッシュレス社会にスムースに移行しています。

 共産党のシステムが「理想的」なのかと言われると、疑問もたくさんあるのですが、僕の先入観よりもずっと、「日常生活レベルでは、民意が反映されやすい仕組み」になっているのだな、と感心しながら読みました。
 いまの共産党は、「強権で人々を支配している」だけではないみたいです。


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