Kindle版もあります。
おもしろすぎるゼロイチ挑戦の物語――。
任天堂、ポケモン、DeNA、手塚治虫、BL、コミケ、ジャンプ、コロコロ、正力松太郎、ディズニー、東アニ、エヴァンゲリオン、ジブリ、鬼滅、ソニー、ナベプロ、ジャニーズ、宝塚、松竹、吉本、力道山、グレイシー、東映、角川、巨人、新日本プロレス……本書は、エンタメ産業がどんな環境下で誰の手によって生まれ、どんな手段でビジネスモデルを構築していったのか、そのエポックをまとめたエンタメビジネスの教科書である。同時に本書は、ゼロイチでビジネスを生み出すための教科書にもなる。なぜならエンタメは市場ゼロから生み出されたものだからだ。人を喜ばせたいというピュアな発想から生まれ、その可能性を見いだした投資家などの支援者がついて、コンテンツを供給するクリエイターが企業の中に入り、ユーザーが定期的にお金を払う状態に至るまで、並々ならぬ過程を経ている。
この本、現代のさまざまな「エンターテインメント産業」について、それが「産業」として成り立つまでの簡単な歴史と現状について語られたものです。
読みながら、なんだか教科書みたいだなあ、と読み疲れてしまうところもあったのですが、網羅的、かつ簡潔に、「エンターテインメントビジネス」についてまとめられているのです。
山川出版社の『世界史』の教科書を思い出してしまいました。
あれを授業で使っていたときには「事実の羅列ばかりで、退屈だなあ」と思っていたのですが、大人になって、「再学習」のために読み直してみると、「ものすごく複雑な歴史の要点が、ここまで簡潔に、そして広範囲にまとめられていること」に驚かされたんですよね。
著者自身も、エンタメビジネスを学ぶ人のための「教科書」にしたい、という意識があったようです。
本書が対象とするのはコンテンツ市場(12兆円)、スポーツ市場(10兆円)、コンサート・演劇などのライブ市場(6000億円)である。この年間合計20兆円を超える消費市場を「興行」「映画」「音楽」「出版」「マンガ」「テレビ」「アニメ」「ゲーム」「スポーツ」の9つの分野に分けて、歴史から紐解いていく。それぞれの産業がどんな環境下で誰の手によって生まれ、どんな手段でビジネスモデルを構築していったのか。そのエポックを押さえていく。
この本を読んでいて実感するのは、まず、自分自身がイメージしている「エンタメの市場規模とかスケール感」と「実際にそのジャンルで動いている金額」には、けっこうギャップがある、ということでした。
コロナ前で2600億円という日本の映画市場は、テレビの10分の1、ゲームの6分の1と、必ずしも大きなものではない。だが20世紀後半がテレビの世紀だとすれば、20世紀前半は確実に映画の世紀だったと言える。
特筆すべきは、テレビの台頭とともにバタバタと倒産し、1970年代にはもはや消えゆく産業とされていた映画が、今も作品の”発信源”として機能し続けている点だ。当時の悲観論が嘘のように、映画は今もテレビやインターネットと併存している。
AmazonプライムビデオやNetflix、ディズニープラスのような動画配信サービスは、コロナ禍もあって日本でも大きく契約者数を伸ばしましたが、「映画」というのは動画配信サービスにとっても重要なコンテンツであり続けているのです。これらのサービスが、有名な映画監督や俳優を起用して、「映画」や「映画より予算をかけたドラマ」を創るようになっています。
インターネットによって、アーティストのライブや演劇は、廃れていくのではないか、とも予測されていましたが、実際にインターネット社会になってみると、「生で、その場で観ること」の価値は、かえって高まり、実際にその市場規模は、インターネット普及後の2010年代に大きく成長しているのです。
映画にしても、動画配信で観られるからいいや、という人もいれば、「やはり映画館で観たい」派も多いんですよね。
これから「映画館で観ることにこだわる世代」が退場し、「動画配信ネイティブ」が多数派になったらどうなるのだろう、とも思うのですが。
エンタメ産業には、予測がつかないところがあるし、売る側にも、さまざまな「見せかた」があるのです。
日本は、「世界一のCD大国」だそうですが(それでもCD売上は年々減少しています)、その理由はAKB48の握手券などの「付加価値をつけてCDを売る」作戦が成功をおさめているから、なんですよね。
ひと昔前ならともかく、いつでも無料で、ディスクの入れかえの必要もなく配信で観られるアニメのブルーレイディスクを買ってもらうために、数々の「特典」がつくようにもなっています。
コンテンツそのものを売るのではなく、「特典」や「ファンアイテムとしての価値」が重視されるようになってきたのです。
日本がマンガ大国であることはもはや言うまでもない。書籍・雑誌も含めたすべての出版物売上の3割を超える5000億円がマンガである。マンガ文化があるフランスのバンド・デジネでも出版全体の1割を切る程度、米国のアメコミは同3%弱である。世界全体で1.5兆円規模になるマンガ・コミックス市場において、日本1ヵ国だけで3割のシェアを握っている。
ちなみに、アニメのシェアは、ハリウッドが40%、日本は25%だそうです。
全世界で観られているアニメの4分の1は日本のアニメって、すごいですよね。
『キャプテン翼』を観ていたというヨーロッパの有名プロサッカー選手が大勢いるのも、当たり前だといえるくらいに、日本のアニメは「輸出」されているのです。
そして、アニメの収益構造も変化してきています。
作家主義と商業主義の折り合いに1つの解をもたらしたのが、『鬼滅の刃』を製作したアニプレックスである。『鬼滅の刃』の製作委員会はアニプレックス、集英社、ユーフォーテーブルの3社で形成され、出資の大半は自社で持っているため、大ヒットした際には大きな利益を得られる。テレビ局や広告代理店を入れずに(その分、彼らが負担をしてくれるはずの放送費や広告費などを自社で負担しなければいけないが)、自由に放送・配信先を選べるようにして、どのチャンネルでも鬼滅アニメを見られる状況を作った。特定のアニメを見るために、特定の放送・配信サイトを視聴するという従来型の枠組みを壊したのである。『鬼滅の刃』はジブリの持っていた興行収入の記録を塗り替えただけでなく、25年続いたテレビ局・広告代理店主導のアニメ製作委員会時代の終わりを告げたのであった。
近年は、同じアニメの「製作委員会方式」という名称であっても、構成しているメンバーが変化しているのです。
だから、地上波放送の翌日に、さまざまなサービスで最新回を観ることができる。
そして、「観ることができるチャンネル、方法がたくさんある」ということで、その作品自体の人気が出やすくなり、キャラクタービジネスで大きな収益を生むこともできるのです。
Netflixではオリジナルアニメ作品をお金も人手もかけて製作していますが、独占配信で「覇権」と言われるようなものはまだ出てきていません。やはり、アプローチする経路が狭くなると、盛り上がりも限定的になるのでしょう。
もちろん、独占配信だと、配信会社にお金を出してもらえる、という大きなメリットもありますし、これから大ヒット作が出てくる可能性は十分にあるのですが。
僕がその黎明期からずっと見てきたゲーム業界にも、大きな変化がみられています。
ゲーム業界にとって、アーケードゲーム、家庭用ゲーム、PCゲームの始まりや隆盛よりも、「スマホ以前/以後」という変化が、規模の上では最もインパクトが大きい。マンガ(→電子マンガ)も映画もテレビ(→配信)も音楽(→配信)も、スマホによるポータブルなオンライン化によって産業の地平は大きく広がった。それらの業界のオンライン売上の割合はまだ全体の2~3割、マンガ配信は2021年に急成長して5割を超えたが、ゲームのスマホシフトは段違いだった。スマホ以後は市場規模が倍以上になり、市場全体の8割以上がオンライン化している。
著者は、以前の著書でも、この「スマホ(ゲーム)市場のキャラクタービジネスにおける重要性」を指摘しています。
僕はそんなにスマホでゲームをやらないのですが、人気キャラクターとモバイルゲームのコラボが多いのは、ゲーム運営側が人気や注目度を上げるだけではなく、金銭的な面でもキャラクター(ライセンスを持っている)側が得るものが大きいから、でもあるのです。
そして、僕が「普通のテレビゲーム」だと思っていたオフラインの買い切りのゲームは、市場規模的には、もはやモバイルのオンラインゲームよりずっと小さなものになってしまいました。
「課金ビジネス」にあまり良いイメージは持っていなかったのだけれど、「課金」こそが新しいゲームを生むための収益の柱になっているのです。
トレンドというか、エンタメビジネスの「主戦場」の移り変わりをみていく、現状を数字を元に再確認する、という意味でも、すごく興味深い本でした。僕などは「興味」なのですが、エンタメビジネスにかかわってみたい、という若い人たちにとっては、まさに「教科書」になるのではないかと思います。