亡き父の跡を継ぎ、家業である「駒田蒸留所」の社長に就任した駒田琉生。経営難に陥った蒸留所の立て直しを図る彼女は、災害の影響で製造できなくなった幻のウイスキー「KOMA」の復活を実現させるべく奮闘する日々を送っていた。そんなある日、自分が本当にやりたいことを見つけられず転職を繰り返してきたニュースサイトの記者・高橋光太郎が、駒田蒸留所を取材に訪れる。
2023年映画館での鑑賞21作目。 休日のお昼からの回で、観客は20人くらいでした。
事前にネットで評判を少しチェックしましたが、『花咲くいろは』『SHIROBAKO』などのP.A.WORKSの「お仕事アニメ」シリーズの5作め、とのことでした。すまん、その「お仕事アニメ」シリーズを僕は一度も観たことないや。
『SHIROBAKO』のタイトルくらいは知っているくらいです。
なんか気分転換に、あんまり長くなくて、重くもない映画でも観に行こうか、と思って調べたら、これがちょうど良さそうだったので観た、という感じです。
そして、その僕のお手軽な要求に、過不足なくこたえてくれる作品ではありました。
この作品の「あらすじ」をはじめて読んだとき、僕は「これ、『夏子の酒』のウイスキー版?」って思ったのです。
おそらく、今の若いアニメファンは『夏子の酒』というマンガ、テレビドラマを知らない人が多いのではないかと思うのですが、父親が遺した酒造を広告代理店に勤めていた娘が継いで、幻の酒を復活させる、という作品だったんですよね。
僕は大学生くらいのときに読んだ記憶があるのですが(『モーニング』での連載は1988年から1991年、テレビドラマは1994年放映)、夏子役の和久井映見さんが魅力的で、主題歌の『風と雲と私』もすごくよかった。まだインターネットが普及する前の『モーニング』や「テレビドラマ」に活気があった時代ではありました。
「お酒」「酒造」を題材にしていたのも、当時としては画期的だったのです。僕にとってのその頃の日本酒というのは、飲み会で盛り上がってきたときに、酔うために飲むもの、というイメージだったので、お酒というものがこんなに丁寧につくられているのか、という驚きもありました。
あれから30年、か……
この『駒田蒸留所へようこそ』を観て、ウイスキーの味を決めるためのブレンドの難しさや、美味しいウイスキーをつくるための製造者たちの努力、そして、地元に根付いた家族経営の理想と現実、みたいなものを考えずにはいられませんでした。
「自分たちの会社」だからこそ、作りたいものを作れるし、大量生産よりも質を追究することができる。
その一方で、雇用の安定とか経営の効率化を考えれば、大企業の傘下に入るべきなのかもしれない。
経営は綺麗ごとだけでは済まないし、働いている人たちにも、それぞれの生活がある……はずなんですけどね。
90分でうまくまとめた、「ある家族と生きる目的を見つけられなかった若者のウイスキーを通じての再生の物語」なんですよ。
観終えて、「良かったね、うん」と思いつつ映画館を出たのですが、僕としては「まあ、現実はこんなにうまくはいかないだろうけど」みたいなネガティブな感情もモヤモヤと浮かんできたのです。
ニュースサイトの記者が急にやる気を出すところでは「そんな簡単に気合い入っちゃうの?それならこれまでの人生で、もっとどうにかできたんじゃない?」と思ったし、駒田社長のテイスティングノートが「話題」になるところとか、オタクに目配りしているようで、かえって媚びているようにしか見えなかったり。いまや、ネットで話題になることも、炎上することすら、そんなに簡単ではありません。
出てくるのが「いいひと」ばっかりで、それはそれで観ていてラクだし、90分でまとめるには仕方なかったのかもしれないけれど、なんというか、もうちょっと心がざわめくような場面があっても良いのではなかろうか。気軽に観ることができるものを求めていた人間がこんなことを言うのは筋違いではあるのですが、のど越しが良すぎて、何も印象が残らない。
『夏子の酒』には、「日本の農業の現状」という裏テーマみたいなものがあったわけですが、ウイスキーのブレンドって大変なんだな、とか、日本の「ものづくり」も経営する側にとってはきついよなあ、とは思うのですが、ウイスキーの製造工程も、ブレンドの部分以外は、そんなに丁寧に説明されているわけではないので「知識を得る映画」としてもちょっと足りない。
安易に「恋愛要素」に頼らなかったところと、久しぶりに、早見沙織さんが、「いかにも早見沙織さんが演じそうな役ど真ん中」をやっていたことには好感を持ったのですが(早見さん歌も上手い)、「AIがつくった90分で観客を感動させるお仕事アニメ」を見せられたような気分です。
AmazonプライムビデオとかNetflixみたいな無料(定額)配信サービスで観たらお得感があるけれど、映画館で2000円払うのであれば、もっとアトラクション型の映画のほうがいいかな……というくらいの印象でした。
けっして、つまらなくはないんです。ここがダメ、というのもとくに思いつかない。
でも、なんだか物足りないんだよなあ、当初の予想どおりではあったし、「そういうもの」なのかもしれないけれど。