- 作者: 有吉立(アース製薬研究開発本部生物飼育課課長)
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2018/07/26
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
- 作者: 有吉立
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2018/07/25
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内容紹介
ゴキブリ100万匹、蚊とハエで10万匹、ダニ1億匹などなど……!
約100種類の害虫の“飼育員"による、害虫たちのことがよくわかって、好きになる!? 笑えて深い、いい話。
兵庫県赤穂市にあるアース製薬の研究所では約100種の害虫を飼っている。その虫たちの世話をし、繁殖させている“飼育員"有吉立さん。実はゴキブリに限らず虫が苦手だったという彼女だが、飼育するために観察して生態を知るうちに恐怖心や偏見はなくなった。ゴキブリは人間を襲ってこないし、ハエも蚊も病原菌を持たなければ、恐れなくても大丈夫。飼って分かった害虫たちの意外な素顔を面白カワイイイラストとともに紹介。登場する害虫たちは……ゴキブリ/カメムシ/クモ/アリ/ハチ/蚊/ムカデ/ダニ/マダニ/トコジラミ/ハエ/コバエ/ナメクジ/貯穀害虫/ダンゴムシ/ノミ/衣類害虫/シロアリ/園芸害虫
この本、書店で見かけて購入したのですが、著者の有吉立さんのプロフィールをみて、「ああ、きっとこの本のために設定された、『非実在女性課長」なんだろうな、と思ったんですよ。飼育員の話をまとめて、架空のキャラクターが話をすすめていく、というコンセプトで。
「まさかあなたが虫を飼育する仕事に就くとは思わなかった」
私を昔から知っている友人たちから、何度も言われました。
そう、私は虫が大の苦手でした。大人になってからも、ゴキブリが出ると大慌てで親を呼んでいたくらい。それなのに、害虫の仕事に就いてしまったのです。「就いてしまった」はマズいですね。希望して入ったのですから。
「何で入ったの?」とよく聞かれますが、「地元の優良企業だったから」という理由でした。実は私、東京の美術系専門学校に進学しました。望みは叶わず、仕事を転々として地元・赤穂に帰っていたころ、新聞で「研究に使う虫の飼育」という求人広告を見つけたんです。
「虫かぁ……」と思ったのですが、地元の大企業でしかも正社員。
赤穂に絵を描くような仕事はないし、いつまでも夢を追い続けることはできません。正直、条件に惹かれたんです。応募したのは40人。ただ1人、採用されたのが私でした。
いきなりハエの担当になって、夢でうなされたり、食事がノドを通らなかったりしましたが、「せっかく入社したんだし、ここを辞めたらもう行くところがないぞ」という気持だったんです。
向いていたのかどうかはわかりませんが、いちばん長く続いている仕事です(笑)。ただ私を含め飼育員たちは、そんなに虫が好きじゃない人が多いようです。
まあ、よくできた架空プロフィールだよね、って思っていたのですが……
実在していたのか、有吉さん。
『堤中納言物語』に「蟲愛づる姫君」という話があって、宮崎駿さんがこれに着想を得て『風の谷のナウシカ』をつくった、と言われているのですが、「ゴキブリ100万匹、蚊とハエで10万匹、ダニ1億匹」となると、「愛でる」というよりは、システマティックに「製品開発実験に必要な害虫を供給する」という感じみたいです。
とはいえ、相手は生きものなので、繁殖させるのが難しかったり、不慮の事故が起こったりするし、それなりに愛着もわいてくるみたいです。
あまりにも害虫が「好きすぎる」と、それはそれでつらそうな仕事ではあります。
この本のなかで、有吉さんは、飼育員に必要な資質として、「虫を嫌がらないことと、あとは責任感」だと仰っています。
生き物相手の仕事なので、長い休みをとるのは難しいし、ひとつひとつは単純なことでも、手抜きをすると大きく環境が変わってしまうことがあるのです。
あと、小さい虫を扱う作業が多いので、手先は器用にこしたことはなさそうです。
ずっと絵を描いていたこともあって、有吉さんはかなり器用で、細かい作業を地道にこなしていくのが苦にならず、工夫をして虫を繁殖させていく、ということにも取り組んでおられます。ずっとひとりで作業することが苦にならない、というのも大事なことのようです。
害虫飼育って、案外、芸術的なセンスが活かせる仕事みたいです。
私が入社して、最初の担当がハエでした。
最初に指示された仕事が、バットの中でうごめいているウジ虫を、薬匙で別の容器に移すという作業。もちろん「害虫を飼育する仕事」と知って入ったのですが、「わーっ、これかあ!」と一瞬、衝撃で気が遠くなりました。
そう、本当にウジ虫がウジャウジャいるんですよ。あのときの衝撃とニオイ、今でも忘れられません。ハエの幼虫がウジということも頭から抜け落ちていました。
仕事の内容は理解していても、現実と結びついていなかったんでしょうね。私、家の中でゴキブリが出たら親を呼んでくるような、クモでも無理なくらいの虫嫌いなのに、なぜか応募して、なぜか採用されたんです。
飼育といってもエサを与えて掃除するだけではありません。
入社当初、よくやっていたのがハエの体長と体重の測定です。1匹ずつ何十匹、何百匹と測って、平均を出していました。成虫の大きさにばらつきがあると、試験データに影響するので、定期的に大きさを測ってどのくらいばらつきが出るのか調べていたのです。
これがめちゃくちゃ面倒くさい。エーテルで麻酔をかけてから測るのですが、麻酔が浅いと途中で目が覚めて飛んじゃう。「うわぁ、飛ぶ虫って大変」って思い知りました。
虫まみれになる職場であるのと同時に、きちんと手順を守って作業をしたり、データを取ったりする「研究所」でもあるのです。医学の研究の動物実験と同じなんですね。
むちゃくちゃ面倒くさそうではあるのですが、こういうアカデミックな要素は、この仕事を飽きずに続けられる理由のひとつではあるのかもしれません。
先日、ウチの研究員たちがイギリスとフランスに出かけて、トコジラミにめちゃくちゃ刺されて帰ってきました。わりとグレードの高いホテルだったようですが、もうかゆくてかゆくて眠れなかったようです。
日ごろから研究員たちは、ホテルの部屋に入ると、ベッドと床の壁の隙間などに黒い小さなシミ(血糞)が点在していないか、脱皮した抜け殻がないかなどチェックしているのだそうです。もしそんな痕跡があれば、明かりは煌々とつけたままでアイマスクをして寝る。トコジラミは基本的に、明るい場所には出てこないからです。
明かりを消すとベッドの隙間から出てきて、明かりをつけるとサーッといなくなる。トコジラミの動きはすごくすばやいです。
ただし、明るい場所には出てこないはずなのに、あまりにも空腹だと明るくても吸血すると書かれた文献もありました。このホテルのトコジラミは、腹ぺこだったのかもしれません。
こういう、「害虫に関する、ちょっとした役に立つ話」もけっこう紹介されているんですよね。
ただ、血糞を見分けるのは素人には難しそうです。
外国のホテルでは、明かりを点けたままアイマスクをして寝るのが無難なのかもしれません。
あれこれ知ってしまうと、かえって怖くなってしまうところもあるんですけどね。
害虫についての話も興味深いのですが、世の中にはいろんな仕事があって、何が自分に向いているのかなんて、なかなかわからないものではあるなあ、と感じた本でした。
- 作者: 沼口麻子
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- 作者: 松本嵩春
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- 出版社/メーカー: アース製薬
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