琥珀色の戯言

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【読書感想】派遣添乗員ヘトヘト日記 ☆☆☆

派遣添乗員ヘトヘト日記――当年66歳、本日も“日雇い派遣"で旅に出ます

派遣添乗員ヘトヘト日記――当年66歳、本日も“日雇い派遣"で旅に出ます

  • 作者:梅村達
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


Kindle版もあります。

派遣添乗員ヘトヘト日記

派遣添乗員ヘトヘト日記

内容(「BOOK」データベースより)
「謝るのが仕事だよ」添乗員自身がなげく“日雇い派遣”。ほとんど憂鬱、ときどき喜び。生活と痛みのドキュメント。


 66歳の派遣添乗員さんによるお仕事日記。
 この本の発行元の「三五館シンシャ」で『交通誘導員ヨレヨレ日記』が売れているため、添乗員とフリーライターを兼業している著者の持ち込みで書籍化された、ということみたいです。


fujipon.hatenadiary.com


 僕自身は添乗員さんが同行してくれるツアーに参加したことは片手くらいしかないのですが(学校の修学旅行に添乗員さんがいたかどうかは記憶にありません。たぶんいたんでしょうけど)、ツアー客には集合時間に集まらなかったり、急に体調が悪くなったり、いろんな人がいるので、けっこう大変な仕事だろうな、とは思っていたのです。
 

 旅行会社が販売する旅行商品は「募集型」と「受注型」に大別される。
 前者は新聞広告やインターネットなどで参加者をつのる、いわゆるパッケージツアーと呼ばれる商品である。「日帰り温泉バスツアー」とか「5泊6日ハワイ・ホノルルツアー」といったものがそれである。
「受注型」は旅行会社の営業社員が学校や会社などを回って商品を受注する。修学旅行や社員旅行などもこれに当たる。旅行会社の社員が添乗員になるケースでもっとも多いのは、修学旅行である。
 いずれにしても、そうした社員が添乗業務を行うのは、全体の中でも、非常に稀なケースである。
 では、一番多い添乗員というのは、どういう人たちなのであろうか?
 それは添乗業務を請け負う派遣会社に所属している人たちである。添乗員の業界というのは、そういう派遣の人たちなしには成り立たない。かくいう私もその一人である。
 私は50歳をすぎてからこの業界に飛びこんだ(飛びこまざるを得なかった)。以来15年以上にわたり、この業界で身過ぎ世過ぎしてきた。

 添乗員って、旅行会社の社員なのだとばかり思っていたのですが、いまは派遣で働いている人が多いそうです。
 著者は66歳で、中高年の人の割合も高いのだとか。

 派遣添乗員の報酬は、だいたい日当1万円ほど。現在では、大半の旅行会社は時給計算をしていて、時給自体は高くないが、仕事柄、長時間拘束されるので、そのくらいの金額になる(なお、時間給は派遣会社にもよるが、おおむね長く在籍していればいるほど、上がっていくシステムとなっている)。
 ここに準備、精算、前泊手当て、後泊手当て、車内販売手当てなどのこまごまとした業務給が加算される。
 おいおい述べるが、添乗員は添乗業務の前後には、旅行会社で準備、精算をしなければならない。そのため添乗業務ができるのは、月に20日くらいが限度となる。
 参考まで、私の2014年10月の勤務カレンダーを次ページに掲載する。この月の休みは6日だけである。ちなみに私の年間の収入を月平均にならすと、およそ月収10万円といったところだ。
 仕事はゴールデンウイークやお盆休みが書き入れ時となる。春のお花見、秋の紅葉シーズンも非常に忙しい。
 逆に冬場は仕事量が急激に減る。月に1~2回しか仕事が回ってこない、というようなこともざらである。いくら働きたいと思っても、仕事がないのが実情で、旅行シーズンのオフはほとんど収入ゼロに近い状態となる。派遣添乗員とはかくも不安定な仕事なのである。


 ツアーが滞りなく進むように手配をしたり、お客さんからクレームを受けたりする、けっこう大変そうな仕事なのに、日当1万円なのか……
 忙しい月で、月収20万円。
 シーズンによってはツアーがほとんどないこともあるそうなので、添乗員専業でやっていくのは経済的に難しく、高齢者が派遣で小遣いや生活費の一部を稼ぐ仕事になっているのです。

 派遣添乗員というのは、その旅行会社の社員ではないので、自らの裁量で判断できることも限られています。
 にもかかわらず、ツアー客からは、「このツアーを仕切っている人」とみなされているのです。

 ツアーがいつも予定通りにいけば良いのだけれど、実際は、桜を見にいくツアーなのに、天候不順で桜が咲いていなかったとか、浜焼き(浜辺での海産物などのバーベキュー)食べ放題が売りのツアーなのに、お客さんが多すぎて作るほうが追い付かず、ほとんど食べられなかった人が大勢いたりとか、交通渋滞に巻き込まれて目的地に着いたときには暗くなり、何も見えなかった、なんてことが少なからず起こります。
 「料理がパンフレットに載っているものと違う」なんてことは、日常茶飯事ではないでしょうか。

 また、X社では、準備に集まった添乗員全体に対して、10分ほどのミーティングが毎日必ず行われていた。さまざまな部署の社員が、持ち回りの交代制で注意や伝達事項を添乗員たちに伝えるのである。
 ある日、クレームに対応する部署の人がこんな話をした。
「われわれは、添乗員に対する苦情が寄せられると、話を鵜呑みにはせず、必ず内部調査を行います。そうすると、クレーム10件に対して、本当に添乗員に責任があるケースは2~3件です。ですから、いろいろなことを言ってくるお客様がいるでしょうが、自信を持って仕事をしてください」
 こうしたことをきちんと伝えられる会社は、必然的に添乗員との信頼関係も築かれていくものである。
 このクレーム係は、「この部署に異動して、さまざまなクレームに対処する中で、人間不信ではないが、多少性格が変わってしまいました」と自虐的に語ってくれた。 
 たしかに添乗員サイドから言わせてもらえば、観光バスに40人の参加者が乗っていたとして、1人や2人は尋常でない人がいるのがふつうなのだ。
 結果、添乗員として仕事を続けている人は、私の周囲を見渡しても、打たれ強い人ばかりである気がする。何しろ春と秋の繁忙期には、毎日のようにツアーがあり、寝ている時間もないほどなのだ。ひとつのクレームにいつまでもクヨクヨしている暇もない。
 またある程度の経験を積めば、クレームにも慣れてくる。
 この打たれ強さに加え、体力さえあれば、添乗員の基礎はできたと言っても過言ではない。サービス精神が旺盛でウケのいい人でも、語学堪能で海外ならまかせてくれという人でも、体力がない人にはこの仕事はつとまらない。


 結局は、知識やサービス精神よりも、打たれ強さと体力が大事(というか必要条件)ということみたいです。
 いわゆる「感情労働」系の仕事って、みんなそうなんだよなあ。

 宴会係には忌み嫌う3つの職業がある。理由は宴会が荒れに荒れるからだという。ベスト(ワースト)スリーは、いずれも私たちの生活に密接に関係している、身近な職業ばかりである。
 (宴会係の)大槻曰く、1つ目は警察、2つ目は教師、3つ目が銀行員だそうだ。予約してきたのがこの職業の人たちだとわかると、「嵐の宴会」を覚悟しなければならないという。
 いずれも安定していて、生活に不安を覚える必要などない職業ばかりである。要するに金銭的には恵まれた人たちである。
 しかし、この職業を聞いて、私はハハーンと思ってしまった。というのもいずれも仮面をつけなければできない仕事だからである。
 もっとも仕事となれば、ほとんどの人が仮面をつけている。人間音痴の私にしても、添乗員業務のときには日常と異なる顔をしている。
 だがベストスリーの職業は、自分を律する度合いがきわめて強い。そのために仮面も堅牢にならざるを得ない。
 アルコールによって堅牢な仮面から解き放たれると反動も大きくなるのではないか。その結果が、大槻が言うところの「嵐の宴会」なのである。


 人は見かけによらぬもの、とは言いますが、旅行に一日付き合っていれば、日頃は他人には見せないような面を目の当たりにすることも多いようです。
 
 日本中のいろんなところに行けて、お金ももらえるんだから、良い仕事なんじゃない?なんて思われることもあるそうですが、旅好きなだけでは務まらないし、待遇も良いとは言えません。
 こういう本を読むと、細かいことでクレームをつけるのはやめよう、と思いますよね。
 まあ、土産物屋にばかり寄っているツアー旅行に参加するなら、家でゲームをやったり本を読んだりしているほうがずっと幸せな僕が言っても仕方がないのですが。


交通誘導員ヨレヨレ日記

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