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トルコ東部のワン湖に棲むといわれる謎の巨大生物ジャナワール。果たしてそれは本物かフェイクか。現場に飛んだ著者はクソ真面目な取材でその真実に切り込んでいく。イスラム復興主義やクルド問題をかきわけた末、目の前に謎の驚くべき物体が現れた! 興奮と笑いが渦巻く100%ガチンコ・ノンフィクション。
高野秀行さんの今回のターゲットとなるUMA(Unidentified Mysterious Animal 未確認不思議生物)は、トルコのジャナワール。
高野さんは、UMAマニアの科学ライター・本多さんとの雑談のなかで出てきたこのジャナワールを半信半疑で追いかけることになるのです。
あとがきが書かれているのは、2007年5月。
ジャナワールについては、UMA業界を十年以上遠ざかっていた私も話だけは聞いていた。今から十年ほど前に、彗星のごとく現れたニュースターである(日本では「ジャノワール」もしくはその省略形「ジャノ」と訛って発音されているが、ここではトルコ語本来の音である「ジャナワール」もしくは「ジャナ」に統一しておく)。
トルコ東部にあるワン湖に棲むとされ、一言でいえば、ネッシー型の巨大水棲生物ということになっている。隊長は約十メートルとネッシー級だが、特徴的なのは、水を上に噴き上げる様子が何度も目撃されていることだ。どうもそれがいわゆる「潮を吹く」といった感じらしいので、UMAファンの間では「クジラの祖先であるバシロサウルスがかつて海だった可能性のあるワン湖に取り残されて生き残っているのではないか」と推測するというか夢見る人もいる。もっとも実際にはバシロサウルスは子孫のように潮を吹かなかったらしく、それは成り立たないらしいのだが、なにしろ関心がないので細かいことはよく知らない。
「ジャナワールは現代メディアが生んだ共同幻想ではないか」と考えていた高野さんは、当初、ジャナワールに関心がなかったのですが、現地の人が書いたジャナワールの目撃証言を集めた本(しかもこれ、著者だけではなく、目撃者の顔写真や生年月日、住所、電話番号まで、個人情報が全部書かれていたそうです。それも、48人分!)を見たことや、自分で「そんなものはいるわけがない」と決めつけようとしていたことに「引っかかるもの」を感じ、現地での調査をはじめることになるのです。
高野さん一行は、現地で目撃者たちから証言を集めたり、撮影された映像をみたり、ワン湖に行ってみたりして、調査をすすめていきます。
「UMAの現地調査って、こんなふうにやるんだな」と僕は感心しつつも、「まあ、高野さんも今回に関しては、『脈あり』ではなくて、調査のプロセスや途中で会った興味深い人、トルコの中でもクルド人問題などを書いて、一冊の本にまとめようとしているのだな」と思いながら読んでいました。
ザマン本社は警備が厳しかった。サングラスをかけ、銃を腰に吊るしたセキュリティの男たち三人でわれわれの行く手を阻んだ。アポイントがないと、門から中に入れてもらえないのだ。建物にもたどりつけない。
「ウナル・コザックという、十年前ここの記者だった人の居場所を知りたい」と言うと、「なんだ、この胡散臭い連中は」という顔で手を振る。まさに門前払いというところで伝家の宝刀を抜いた。
「私たちはワン湖のジャナワールを探しに来た」と言うと、コワモテのセキュリティたちがいきなりプッと噴き出した。
「日本から? ジャナワールを探しに? 本気で?」というとまた爆笑。笑いながら、彼らは「わかった。中に聞いてやるから待っててくれ」と内線電話をとりあげた。
イスタンブールに着いてから、「ジャナワールを探しに来た」というと、ホテルでも旅行代理店でも、どこでも大笑いされている。ジャナが本場トルコではお笑いのネタにすぎないというのが悲しいが、逆にいえば「ジャナ探し」が万能のカギのようにどこでも通じてしまう。
限りなく「存在しそうもない」し、現地の人たちも、「ジャナワールの話をしただけで、場が和む」という反応を示します。
こいつらは利口じゃないかもしれないが、少なくとも悪意はなさそうだ、って。
証言者の大部分は胡散臭いというか、自分の商売のために観光客を呼ぼう」とか、「いろんなもの(霊とか幻覚とか)を「見てしまう人」なのですが、わずかな割合で「信頼できそうな目撃者や目撃証言」も含まれているのです。
僕はUMAを扱ったノンフィクションが好きで、けっこう読んでいるのですが、どれも、「はっきりいるとは証明できないけれど、絶対にいない、と断言しきれないような証言や記録が残っている」のですよね。
そもそも、「いる」ことを証明するのに比べて、「絶対にいない」ことを証明するのは難しい。
コザック・ビデオはヤラセであった。しかもそれはトルコ全国に公表されていたのだ。
イスタンブールでもワンでも、なぜあれだけ多くの人が、「ジャナワールなんていない」「インチキだ」と鼻で笑ったのかも、今になってようやく腑に落ちた。
ジャナはビデオに撮られマスコミが熱心に報道したものである。本来ならもっと信じているという人が多くてしかるべきだ。それに「よく知らない」「よくわからない」「さあ、いるのかねえ」という人すらいなかった。私だって、ネッシーについて訊かれたら、信じてなくても「いない」とは断言しない。「さあ、いないんじゃないの」くらいのところだ。
それが、誰も彼もが「ノー」と言う。ひとえにウナル・コザック演出のフェイクのおかげなのだ。
ネッシーの有名な写真の一枚がヤラセだとわかって「ネッシーは実はウソだった」という人が日本でも激増した。それは科学的・論理的に明らかな間違いなのだが、そう信じてしまう人はほんとうに多い。
ジャナはそれと同じことをもっと強烈に食らったのだ。
なまじビデオがセンセーショナルだっただけに、それがヤラセと判明したとたん、ジャナに関するすべてがインチキだとトルコ国中に広まってしまったのだ。直接新聞を読んでいない人でも「ジャナ=インチキ」という短絡形で頭に刻み込んでしまったのだ。
ネッシーに関しても、「あの有名な写真が捏造であったことが公表された」というのは「あの写真がウソだった」だけで、「ネッシーが絶対にいないと証明された」わけじゃないんですよね。
でも、僕もその話を知って、「ああ、ネッシーってデマだったんだな」とずっと思ってきました。
こういう調査で、「本当にいた!」という事例は、ほとんどありません。大型の生物の場合はとくに。
とはいえ、シーラカンスみたいに、信じられないような生物が、偶然見つかることもないわけではない。
最近のUMAを扱ったノンフィクションって、「本当にいた!」というのではなく、「こうやって調査を進めていった」というのを記録したものが多いですし。
というか、本当に見つかっていたら、もっと大ニュースになっているはずだしさ。
……とか思っていたら、高野さん一行の「ジャナワール探し」は終盤で風雲急を告げ、意外な展開をみせます。
本当に、そんなことがあるのか?
見ようと思っている人には「見える」のか、それとも、単なる偶然なのか……
その後の話を読んでみると、高野さん自身も、「あんまりこの話を突き詰めないほうがいいのかな」と考えていそうな気もするんですけどね。
こういうことは、「もしかしたらいるかも……」くらいに留めておくのが、いちばん良いのかもしれません。
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