- 作者: 小林昇
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2018/12/20
- メディア: 新書
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- 作者: 小林昇
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内容(「BOOK」データベースより)
昭和三十三年、国産プラモデルが産声を上げた。以来六十年、プラモデルは常に少年の夢であり続けた。パンサータンク、ウォーターラインシリーズ、ガンプラ、ミニ四駆、ガレージキット…。豊富な写真で解説する僕らの憧れの過去、現在、そして未来。
1970年代のはじめに生まれた僕にとって、プラモデルは、ゲームウォッチやファミコンが出るまで、「おもちゃの王様」でした。
僕自身は手先が不器用で、プラモデルを作るたびに自己嫌悪に陥ってはいたのですが、それでも、避けては通れない世界ではあったのです。
「ガンプラ」(『機動戦士ガンダム』のプラモデル)が大ブームになったときには、友達と一緒に、デパートの売り場まで開店と同時にダッシュしたこともありました。
この新書、『田宮模型の仕事』などの編集に携わった小林昇さんが、日本のプラモデルの歴史を概説したものなのですが、60年間を一冊にまとめた、ということで、けっこう駆け足になっている感じはします。
ただ、それは僕がこれまで、プラモデルの歴史に関する本をそれなりに読んできたから、というのもあるんですよね。
プラモデル史初心者にとっては、まずは、このくらいの分量で丁度良いのかもしれません。
日本最初のプラモデルとされる(異論もあり)ノーチラス号(マルサン)について。
五島はプラモデルという商品名と出来上がったばかりのノーチラスを持って、百貨店の玩具売り場の担当者に見せて廻ったというが、評判はどこでもいまひとつだった。この年、日清の「チキンラーメン」が発売されており、「ラーメンだってインスタントの時代に、わざわざこんなバラバラの部品を組み立てるやつなんているか」というのが大方の反応だった。
なかなかプラモデルに対する認知度も上がらないうちに、ノーチラスは発売日を迎えた。昭和33年12月15日のことである。販売価格は250円。当時、マルサン商店
が海外向けに作っていたブリキ製のキャデラックが1500円だったのに較べれば安いが、子どもの小遣いですぐに買える金額ではなかった。
現在、プラモデルメーカーの業界団体である「日本プラモデル工業協同組合」は、この日をもって国産プラモデルの誕生した日としている。
「わざわざバラバラのものを組み立てるのが、プラモデルの楽しさなのに」と言いたくなるのですが、当時の反応は、こんな感じだったんですね。
売り出され、値段も手ごろになり、テレビや少年漫画誌とのタイアップも行われるようになると、プラモデルは、「子どもの遊びの定番」となっていきました。
昭和35(1960)年から36年はプラスチックモデルが大きく社会に認知され、市場を広げた時期だった。国産プラモデルの誕生からわずか3年ほどでメーカーは30社近くに増え、多くは10円から50円度の低価格帯が中心だったが、発売されたアイテムは1000種近くになっていた。
この時期のプラスチックモデルの特色はこの低価格帯と、もうひとつは「動く」ということにあった。動くことへの製作者側のこだわりはかなり強いものがあった。ニチモの江田信太郎は最初の伊号潜水艦を作るにあたり、「ゴム動力ではあるが、動くものにしたい」という強い意志があったと後年述べている。そしてニチモは次に発売する1/750戦艦大和でモーターライズによる水上走行を可能にさせる。
この特色は欧米のプラスチックモデルには無かった日本独自のものだった。アメリカのレベルも1950年代の半ば、子ども向けにリスや猫といったアイテムを発売するが、それは毛を貼り付けたりする凝ったものではあったが、動くということはなかった。
日本のプラスチックモデルが開発と同時に「動く」という方向に向かったのは、ひとつにはマブチモーターの存在が大きく影響している。マブチモーターの創業者である馬渕健一は、終戦後すぐに関西理科研究所を開設、小型のマグネットモーターの開発に成功した。それまでのコイルを巻く形式ではなく、マグネットを利用したモーターは小型で軽量であり、コイルを利用しない分、故障しにくく性能が安定していた。そして何より、馬渕はこのモーターを玩具に使用するという明確な意図を持っていた。昭和29年、東京に東京科学工業を設立、本格的な販売に入った。
その当初は木製の艦船模型や戦車に使用されていたが、プラスチックモデルの登場とともに、その販路は格段に広がった。
欧米でのプラモデルは、飾って楽しむのが主流だったのに対して、日本では、「作ったプラモデルが動く」ようになっていったのです。
それには、小型で性能が安定している、マブチモーターの登場が大きく影響していました。
むしろ、「なぜ、欧米では、プラモデルを『動かす』ほうに進まなかったのだろう?」と思うのですが。
動く金属製のおもちゃは、欧米にもたくさんあったわけですし。
「ガンプラ」ブームについては、こんなふうに描かれています。
井田博は当時、長男に小倉井筒屋の経営を任せていた。そしてその長男から何度も繰り返しその時のことを聞かされた。昭和56(1981)年の正月過ぎ、ある日曜日のこと、デパートの開店と同時に、小中学生がエスカレーター、エレベーター、階段を使って七階にあった模型店に突進してきた。この当時、ルービックキューブが大当たりしており、それが隣の玩具コーナーで飛ぶように売れていた。子どもたちはそこに列を作るために上がってきたのかと思っていたら、模型売り場に突進してきたのだった。彼らの目当てはバンダイの1/144「ガンダム」だった。
あっという間に「ガンダム」のキットは売り切れた。実は東京で「モデルアート」を編集していた次男から、ガンダムがすごいことになりそうだから、集めておいた方がいいぞ、と教えられていたのだ。店を任されていた長男は、何かの間違いではないかと思ったという。『機動戦士ガンダム』のアニメが放送されたことは知っていたが、視聴率もそれほど良くなく、バンダイのプラモデルも問屋の片隅に山積みになっている。そう思いながらも七、八〇個くらい揃えてショーウインドーの上に積み重ねていたという。一個300円のキットだった。
ところがそれが押すな押すなの大盛況。用意してあったキットはあっと言う間に売り切れてしまった。そしてこのような光景が日本全国の模型店で繰り広げられていた。
その後も、「ミニ四駆」のブームなどもあって、プラモデルは子どもたちによってつくられ、また、遊ばれています。
そして、ガレージキットをつくり続けている大人も、大勢いるのです。
とはいえ、今の子どもたちの娯楽は、テレビゲームが中心となっていて、プラモデルは難しい局面を迎えてもいるんですよね。
昔は「こんなものばっかり作って何になるの!」と親から目の敵にされていたプラモデルなのですが、いまは「手を動かしてものを作る」ということだけで、けっこう好意的に見られてもいるのだけれど。
著者は、海外メーカーが「どうやって子どもたちにプラスチックモデルを手にしてもらうか」ということと、「小売店の減少」に頭を悩ませていることを紹介しています。
これらの問題は日本でもまったく同じだろう。特に少子化が叫ばれて久しい日本では、子どもたちにプラスチックモデルを作ってもらうことはなかなか難しい。その解決策としてタミヤのミニ四駆や、バンダイのガンダムも考えられた筈だ。しかしかつての通過儀礼のように子どもたちがプラモデルを手にするところまでは到達していない。
さらに小売店の減少は日本でも凄まじい。今、プラモデルを買うには大型量販店に行くか、通販しかないというのが現状だ。昔ながらの模型屋さんも頑張っているが、どこも売上は厳しいという。廃業したり、カードゲーム屋に転業した店もあるという。インターネット通販の隆盛により小売店が呻吟するというのは、プラモデルに限ったことではないのだが。かつて10万か所あると言われたプラモデルの販売店は今では嘘のように減ってしまった。
そういえば、町には模型屋さんがあったし、近所の駄菓子屋さんにもプラモデルが置いてあったんですよ、僕が子どもの頃には。
それが、いまや、プラモデルを買うには、ネット通販か、大きな玩具店に行かなければなりません。
プラモデルというのは、まず、触れてみないと興味が湧かないものですよね。今でも、『コロコロコミック』などで、子どもが興味持つ導線は保たれているとしても、実物を見る機会は少ないはずです。
それでも、プラモデルやベイブレードといった「データ化できない玩具」が生き残っているのも事実なのです。
昔、プラモデルに魅了されていた人たちにとっては、楽しいタイムトリップをさせてくれる一冊だと思います。
もちろん、今もプラモデルをつくり続けている人たちにとっても。
- 作者: 田宮俊作
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- 作者: 田宮俊作
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